テニス部の試練 その4
他人の意見に惑わされず、自分で自分の道を選択した結果、こんなことになってしまった。なんて情けないことだろう。
その夜、私はある決断をした。
夏の一年生大会で良い結果が残せたら、なんとかテニスを続けてみよう。もし駄目だったら、その時は潔く退部しよう。辞めちまえあんな部活。
夏休みを迎えても、私は朝早くから学校に出向いた。
相変わらず誰とも言葉を交わせない毎日だったが、とにかく腕を上げることに専念した。
しかし、それでも私の腕は一向に上がらなかった。途中で何度も何度も帰りたい衝動に駆られた。すぐにでも家に飛んで帰って、中学生らしく友達と夏休みを満喫したいと思った。しかし、その友達の中に洋香も含まれているのかと思うと、また憂鬱になった。
どこに行っても、誰と一緒にいても不満しかない。どこに逃げようが、不満、不満、不満。どうせ結果は同じこと。それならば、まずは目の前に転がっている問題を始末してしまうしかない。そうすればきっと、身も心も楽になる。そうに決まっている。
私は自分にそう言い聞かせていた。もちろん本心ではない。そんな立派な人間にはなれない。
家や学校のトイレで号泣したり、トイレットペーパーを何枚も引きちぎってトイレを詰まらせたりしながら、私は学校に通い続けた。時折、「自分は何をやっているのだろう?」という疑問が浮かんでは、どこかへ消えていった。
そんな面白味のない日々を過ごすうちに、ついに運命の時はやってきた。
大会当日、私が母の運転する車で会場に向かうと、部員たちは既に全員到着していた。
「どうしたんですか。遅刻するのならきちんと連絡を入れなさい!」
皆に合流するやいなや顧問の山田先生に怒鳴られてしまった。
「7時半に○○駅集合だと言ったでしょう!」
「……はい?」
もちろんそんな話は誰からも聞かされていない。
私が確かめるように他の部員たちに目線を送ると、みんな一斉に顔を背けてしまった。
「すみません、今度から気を付けます……」
今度なんて二度と来ないかもしれないと思いながら、私は一言そう言った。自分が孤立していることは絶対に知られたくなかった。部員全員を集めて話し合いでも始められたら、たまったものではない。もう小学生の時のようにはいかないのだ。この年頃の子どもの問題に大人が首を突っ込むとろくなことにならない。
自分の出番が来るまで、私は独りで準備運動をし、独りで陣地に座っていた。テントの下といえども、真夏の太陽は容赦なく身体から水分を奪っていった。何度タオルで汗を拭き取っても、次から次へと絶え間なく玉のような汗が流れ出てくる。まるで頭から涙でも出ているようだった。
「次、出番だよ」
突然希美が声をかけてきた。彼女はどういう訳かすっかりさくらやエリカと打ち解けているようだった。一体どんな手を使ったというのだろう?
彼女は私に一言だけそう言うと、すぐにどこかへ行ってしまった。もっと構ってくれてもいいものを。
試合の結果はどうしようもないくらい最悪だった。
誰からの声援もない中、悲惨な最後を迎えてしまった。詳しいことは話したくない。とはいえ、私の努力や才能が足りなかったことが一番の原因だろう。誰にでも向き不向きはある。こればっかりはどうしようもない。
結局、私は夏休み明けに退部届けを提出し、悔しさと苛立ちで両目を真っ赤にしながら、逃げるようにテニス部を去った。
「だから私の言うとおりにすればよかったのに。合唱部、楽しいよ?」
洋香の言葉は前よりも深く私の心に突き刺さった。そして何かに引き寄せられるかのように、私は合唱部に入部した。