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テニス部の試練 その2

 仮入部の段階では、私はまだみんなについていくことができた。まずランニングから始まって、次に柔軟体操、その次にフットワーク、その次にすぶり、そして延々と筋トレを繰り返す。今思い返せば驚くべき事実である。若さとは凄いものだ。

 この時の私は、体力だけはそれなりにあったため、なんとかメニューをこなすことができた。

 そしてなにより、このころはまだ仲間たちともギクシャクしていなかった。

 問題は私がテニス部に正式に入部してから一ヶ月と経たないうちに起こった。

 私がいつものように午後の練習に顔を出すと、何やらいつもと空気が違っていることに気がついた。

 原因は岡田希美という、一年生の中で最もテニスが上手く、小学生の頃から様々な大会で優勝してきた優秀な女の子だった。

 そんな彼女が、大塚さくらと神田エリカ相手に何やら揉めていた。この二人は普段からとてもきつい性格で、常に誰かを小馬鹿にしたような態度をとるので、私はなるべく近寄らないように気をつけていた。

「ねえ希美、なに勝手にキレてんの?」

「私は、先輩が見てないからって喋ってばっかりいないで、ちゃんと練習しろって言ってるの。それができないなら出て行って。練習の邪魔だから」

「は? うちら別にサボってないかいないんだけど。気に入らないなら自分が出ていけば? どうせ一人でだって十分練習できるんでしょ? ゆーしゅーなんだから」

「そうだよ。いっそオマエが退部しろよ」

 私は、このような空気がどうしようもなく苦手だった。どちらの味方につけばよいのか全くわからないのだ。いや、どう考えても希美が正しいのだか、だからといって彼女に加勢するわけにもいかないのだ。

 とりあえず私は彼女たちと目を合わせないようにしながら、無心で素振りを始めた。だが少しして、希美が目にうっすら涙を浮かべて隣にやってきた。

 結局、私は彼女と一緒にラリーの練習をした。それ以来、どういうわけか私と希美のラケットだけが、他の部員たちとは違う場所に勝手に移されるようになった。試しにみんなと同じところにラケットを置いてみたが、気がつくとやはり離れた場所に移されていた。

 さくらとエリカの仕業であるということは明らかだったが、私はあまり気にしないように努めた。どうせ、始めから仲良くするつもりなんてなかった相手だ。今更傷つく必要が一体どこにある。むしろ変に好かれるより遥かにマシだ。

 しかし、私のそんな考えは甘かった。甘すぎた。

 自分の周りから、どんどん人が離れてゆく。さくらとエリカも、一緒に入部した他の子たちも、ひそひそと何か言っている。おまけに私のテニスのレベルは最悪で、先輩方からも「壊滅的に下手くそ」だと白い目で見られていた。

 そんなことがいくつも重なったため、私は次第に何かと理由をつけて部活を休むようになった。つまり現実から逃げたのである。


「下手くそなくせに部活サボってんじゃねえよ」「やる気がないなら出て行け。練習の邪魔」

 さくらやエリカ、その他の部員たちが陰で私に対してそんなことを言っているという噂を洋香から聞かされたのは、それから数週間が経った頃だった。彼女はがくがく震える私に容赦なく言い放った。

「だから私と同じ部活にしておけばよかったのに。言うとおりにしないから」

 思わず私は「うるさい、黙れ!」と、心の中で叫んだ。心の中でしか、叫ぶことができなかった。


 

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