テニス部の試練 その1
自分で選んだ道が、間違っていたなんて思いたくなかった。最後までやりきることで、あるいはきっぱりとけじめをつけることで、すべてを綺麗に終わらせ、乗り切ることができるのだと信じていた。だってそうでなければおかしいではないか。そうでなくてはならないのだ。
洋香の言いなりになりつつも、他の友人たちとなんだかんだで上手くやっていた私は、気がつけば中学生になろうとしていた。
私には二つ上の姉がいたため、中学校がどのような場所なのかよく心得ていた。
裏校則と呼ばれるものを知っているだろうか? 私が洋香の『真紀化』と人間関係の次に頭を悩ませたのがこれである。
まず靴下は必ず縦縞模様が入ったダサいものでなくてはならず、1年生のうちはくるぶし丈のものを身につけることは決して許されない。また、置き勉(教科書を机のなかに置いて帰ること)をすることすら許されず、すべての教科書を家に持ち帰る必要があった。おまけにその教科書が入ったバッグを肩に掛けることすら禁じられていたので、私たち一年生はバカみたいに重いバッグを引きずるようにして、よろよろとした足取りで家へ帰らなければならなかった。その姿はさながらゾンビの様だったに違いない。
その他にも、例え面識がなかったとしても、同性の先輩には必ず挨拶をしなければならない(異性の先輩には不要)など、ふざけたルールがてんこ盛りだった。
私はなるべく先輩方の視界に入らないよう、ひっそりと生活するよう心掛けていた。目をつけられては終わりなのだ。
いくら馬鹿げた裏校則があるといえども、先輩のご機嫌さえ損ねなければなんとかやっていける。私はそう思っていたのだが……
なんとも運の悪いことに、私はうまくやっていくことができなかった。私の人生の中で、一番辛く、一番暗い、生き地獄のような日々を送ることになる。
私はひとつ大きな勘違いをしていたのだ。「後輩の敵は先輩」という考えはあまりにも生ぬるかった。今でもどうしてそのことに気がつけなかったのか不思議に思う。まさに灯台もと暗しだ。
意外なことに、敵は常に私の目の前にいたのである。
入学式を終えてからというもの、私は今までにないくらいストレスを感じていた。
廊下を走り回る先輩の足音と奇声、罵詈雑言が授業中の校舎にこだまする。時に彼らは私たち一年生の教室の前にまでやってきて、暴言を吐いたり壁に蹴りを入れることがあった。そして何より、クラスのギスギスとした雰囲気だ。みんな、まるで人が変わってしまったかのような変貌ぶりだった。真面目だと思っていた子が授業中に居眠りをしたり、優しいと思っていた子が、隠れてコソコソだれかの悪口を言っていたりする。
最初のうちはそれらのことだけで傷つき、頭がいっぱいだった。しかし、後に私はもっと深刻な厄介事を自らの手で作ってしまったのだ。
部活動見学。これがすべての幕開けだった。
ある日、私は不安と期待を胸に独りいそいそと部活動見学へ行った。仮入部というものである。
私が入部したかったのはテニス部だった。これは小学生の頃から決めていたことで、お遊び程度でしかやったことはなかったが、たまたま私の隣の席に座っていた里華という女の子の「一緒に頑張ろうよ!」という言葉が決め手となり、私はろくに考えもせず入部を決意してしまった。なんとも馬鹿げた話である。
次回は五月二日の午後八時ごろ!