プロローグ
「懐かしいものが出てきたよ。」
そんなメッセージと共に一枚の写真がLINEで送られてきた。
送り主は高校からの10年来の友人で、向こうが大学を卒業するまではよく会っていたが、働き出してからはお互いの仕事の休みが合わなくなり、なんとなく疎遠になっていたのだが…。
このLINE自体、お正月のあけおめメッセージ以来である。
私は、心の中で「久しぶり~」と返事をしつつ、送られてきた写真をタップする。すると、スマホの画面に満面の笑顔でピースする高校時代の自分と、かなり照れてる顔の男の子とが、頬を寄せ合っている姿がドアップで写し出された。
ぶっ!!
思わず飲んでいた野菜ジュースを吹き出しそうになって、何回か咳き込む。よりにもよって、なんて写真を送ってきやがる。
高校を卒業して15年、看護師の仕事にも慣れてきて、やっと自分も大人になれたかも、なんて思えてた時にこんな青臭い自分の姿を見せられるとは…。
口元をハンカチで軽く拭いて、やっと落ち着いたところに件の友人から続けてメッセージが送られてきた。
「どうよ?」
自分の反応を聞いてきてはいるが、友人としては完全に読めているのだろう。現に、一緒に送られてきたスタンプはニヤニヤしながら口元を押さえているやつだ。
「野菜ジュース吹いた。」
私がそうメッセージを送信すると、即座にスタンプが送られてきた。今度は、腹を抱えて笑ってるやつだ。
それからは、他愛のないメッセージのやり取りが続き、私の「そろそろ昼休み終わりだから」の言葉で終了した。
私は、スマホをカバン中にしまって、お昼ご飯のゴミを手早くコンビニの袋にまとめて公園のベンチから立ち上がる。友人とのLINEが盛り上がったせいで時間的にギリギリだ。
「あつ…。」
駆け足気味に病院までの道を歩きつつ、思わず口からついて出る。気象庁が梅雨明けを宣言してからというもの気温はうなぎ上りで上昇して、自分の存在を主張するかのようにセミが鳴いている。
(そういえばあの時はどれくらい暑かったかな。)
さっきの写真を思い出しながらふと思う。実はあの頃の事は仕事で挫けそうになる度に思い出してきた(写真は実家に置きっぱなしだけど…)。あの時の自分はがむしゃらで、目標に向かって全力で走っていた。だからこそ、今でも私の心の支えとなっているのだ。
そんなことを考えていると、記憶の中の引き出しがどんどん開いていく。
あれは15年前、ミレニアムが過ぎた高校3年の夏の事だった―。