3.2
「ああ、あんたも同じ名前だったけな」
振り返った私を見て彼は頷く。
彼とは別のクラスなので普段会うことはなく、高校では今まですれ違う程度の関わりしかなかった。今改めて彼と対面し、彼を捉えなおす。
ボサボサした髪型に見えるが汚らしい印象は無く、好青年と言った表現が似合っていた。だが落ち着いた様子と力のある目つきの組み合わせがうまく噛み合わず独特の雰囲気を放っている。
彼は面倒くさそうに首を傾けて頭を掻く。
「あー、苗字は一緒だから、そうか、なんて呼べばいんだ? 悪いんだが俺人の名前大抵苗字しか覚えてないんだよ」
「あ、うん。じゃあわたしはひろっち。こっちの美少女がゆうっち、だよ」
「美少女?」
彼が怪訝な声で尋ねてくる。当然の反応だろう。
「うん。でも、ゆうっちは可愛いというよりきれいって顔だから、美女のほうがいいかな?」
「そうか」
こういう発言は常日頃聞いているので相槌だけをうってすぐに流した。常日頃といってもまだ二週間しか経っていないが、毎日同じ様子で接してくるので人と接することが苦手な私でも徐々に慣れてきている。
「じゃあひろっち、ちょっと話があるんだけど、いいか?」
二人の顔に交互に視線を移し、「私は、いないほうがいいか?」と訊ねてみた。二人だけの話なら私はいるだけ邪魔だ。彼と一緒にいたくないという想いも少しはあるが。
彼は私の発言から何かを察したように苦笑する。
「ああ。別に告白とかではないから。いや、ある意味告白なのかもしれないけどな。でも、愛の告白とかいう青春まっさかりのものではねぇよ、ゆうっち」
「そうか」
彼女以外に「ゆうっち」と呼ばれたのはこれが初めてだった。同級生は皆私のことを苗字にさん付けで呼び、彼女のことはひろっちかもしくは下の名前で呼ぶのだ。彼女と私の分かり易い差がここで現れる。似た名前でも当然ながら性格や容姿、人の出来は全く似ていないのだ。私は彼女のようにはなれない。当然の話だ。