3.1
この学校では課外活動、主に部活動をすることが奨励されている。強制ではないが、参加していて当然といった空気があり、担任教師からもそうあるべきであるようなことが告げられた。彼はここの高校の出身らしく、昔話とともに「当時入っていない奴などいなかった」と自慢げに語っていた。
「決めてはいないな」
部活動に入るべきか否か。まだ答えを出すことを先延ばしにしていた問題が今突きつけられる。
先週の金曜日に部活動紹介として体育館で各部活動のパフォーマンスや説明があり、その日から仮入部期間が設けられていた。お試しで各部活動を体験し、自分の入りたい部活動を見極めるための期間だ。兼部する人が多いためか期間も長く、五月末まであるらしい。
「入るとしたら文学部かなとは考えているが」
言葉を紡ぐのは小さな頃から好きだった。理系文系という分類の仕方は好きではないけれど、私は文系に分類されるだろう。
ただ入部した場合どこまで打ち込むかが私にとって大切な問題だった。やるからにはマジメに、やれる限り取組みたいとは思う。けど部活動に入って学生の本分である学業に支障はでないだろうか。同時に複数の物事を抱えて楽にことを運べる能力は私にはない。
――うちの部楽しいよ! みんなはいってね!
とある部活動の、勧誘が頭を過ぎる。快活な先輩の、元気な声がよみがえった。
「えーと? まだそんなに悩まなくてもいんじゃないかな。まだ時間はあるんだしさ」
彼女が心配するような表情をして私の顔を覗き込んでいた。そして身長差から生まれる自然な上目遣いが私に向けられる。
表情筋が緩むのを腕で隠しつつ上半身を逸らして彼女から離れる。ずっと近くにいることで慣れてはきたものの、不意を衝かれたり近すぎたりすると流石に耐えるのは難しい。
「あ、ごめん。なんか驚かせたみたいで」
「いや、いいんだ」
それからいつの間にか手の止まっていた弁当箱の片付けを終え、歯を磨きに席を立つ。廊下にある水道で歯磨きを済ませてすぐに教室に戻ろうとすると横から名前が呼ばれた。
振り向かなくても誰が呼んだのかわかった。
彼だ。
入学式で堂々とその役目を果たした、あの男だ。