2.2
「ヒロッピ?」
「今渾名をつけてみたんだ。名前からとって、ひろっぴ。気に入らなかった?」
「いや、気に入る気に入らない以前の話なんだが……」
彼女の発言に困惑し、首を傾げる。
「え、えーと? わたしと同じ渾名になるかもって心配していたり? それとも別に気に入っている渾名があるとかかな?」
そうではなくて、と指を折りながら他にもいくつか推測の理由が挙げていく彼女の言葉を遮る。
名前を強調して自己紹介をする。
彼女は一瞬顔をしかめ、「うそー」と声をあげた。
「だ、だって」彼女は再び手帳を開き、私の名前があるページを見つける。そして先程私が書いた氏名の部分を指差す。「わたしと同じ漢字だよ?」
「そうだよ。でもその名前は読み方が二つあるんだ。他にもそういう名前はある。興味を持ったなら探してみるといい」
へー、と彼女は感心したように目を丸くする。
「ゆうっちは博識だね」
「ゆうっち?」
「あなたの渾名。代わりにわたしのことはひろっちって呼んでいいからさ。だめ?」
「何だその交換条件は」
言い捨てて彼女との会話を切ろうとしたが、目を潤ませて小首を傾げて見上げるという小動物のような懇願を仕掛けてきた。
「……」
人と仲良くする気は起きないが、猫やハムスターといった可愛らしい生き物には目がない。彼女の今の行動はそれと同じくらいに心を動かされた。頬が緩みそうになるのを抑えて、平静な表情を保つ。