11.3
「親友か。いいねえ。で、あんたはそれを取り戻したいと。でどうやって取り戻す? こっちには男が二人、あんたは一人のか弱い女の子だよ。腕っ節に自信があるとは思えないしねえ」
余裕の笑みを保ったまま女性は人差し指を私につきつける。
「あんたの熱い想いは伝わったけど、はいそうですか、って渡しはしないよ。なんにせよ力が無きゃ実現は出来ないのさ」
その通りだった。
私はこの場をどうにか出来る力は持ち合わせていない。腕力など問題外だ。
「ゆうっち! わたしはだいじょ」
未だ男に捕まったままの彼女が叫ぶが、すぐに男に口をふさがれた。それでも彼女は言葉を発しようとしているが、言葉にならない声が聞こえるだけで、意味は伝わってこない。
「黙ってないで何とか言ったら?」
「何をしたら、彼女を放してくれますか」
相手の眼光に負けないように、睨み返す。
「交渉ね、それしかないとは思っていたけど」女性はふっと表情を変え、私を見下ろす。「じゃあこの二人の相手をしてもらおうかな、この子の代わりに」
女性の言う「相手」の意味は、詳しく言われなくとも、分かる。女に喧嘩相手を求めるわけはないだろう。異性としての行いを求められている。
「わかった」
私は目を逸らさないようにして頷いた。
その方面に関して経験は無く、抵抗もある。しかし、彼女を助けるためならば躊躇はなかった。彼女は私にとって一番大切な人だ。彼女を守れるなら、私がいくら傷ついてもいい。
「駄目だよ!」
彼女が男の腕をかいくぐりながら、叫ぶ。
「わたしのことは気にしなくていいから!」
「そうはいかない。これは君を傷つけてしまった私の償いでもあるんだから」
「そんなの許さない。ゆうっちがわたしの代わりに傷ついたら、そのほうがわたし傷つくよ! それだと償いにならないでしょ! だからいいの!」
「私は君が傷つくのが嫌なんだ。もう傷つけたくない。分かってくれ!」
「わかんないよ!」
想いの限りをぶつける。ぶつけてきたものをまたぶつけ返す。
彼女を説得しようと想いのままをぶつけ続ける。三人組のことなど気に留めず。これは私と彼女の問題なのだ。
「あー、あのさ、なんつーか」
ふいに背後からだるそうな声が聞こえる。三人組以上に気にしていなかった、彼の声だった。
「これ、いつまで続くんだよ?」
緊迫感が全く無い気の抜けた言葉が、ぽんと放り込まれた。




