11.2
彼女の叫ぶ声が聞こえた。うまく聞き取れなかったが、悲鳴のように甲高い声だった。
顔を上げて声の聞こえた先に視線をやる。彼が倒れているのと、彼女が三人組の一人の男に捕まっているのが見えた。
助けないと、と思ったときには既に足が動いていた。走るのに邪魔な鞄は肩からずらして地面に落とす。走る事もとい体を動かすことは苦手なため、全力で走っているが距離は少しずつしか縮まらない。すぐに息が上がり、最初の加速も衰えてペースダウンしていく。
倒れたままの彼は男達に何度も蹴りを入れられ、彼女は男の腕の中でもがいている姿が目に映り焦るけれど、体が比例して速く動くことはない。
今すぐにあそこに飛び出して、助け出したいが、私にそんな能力は無い。今は彼女らの元に一刻も早く行くために足を動かすしか出来ないのだ。
二人の男の後ろに構えていた女が合図を出し、彼に背を向けて三人は歩き出した。抵抗する彼女を引きずりながら。いやらしい笑い声をあげながら。
「待て!」
腹の底から叫ぶ。しかし走りながら息も切れ切れの状態の声では届くはずも無い。
「ぐ」
まっすぐな道から左に飛び出し、石と土で出来上がった急な坂に足を踏み出す。坂道で加速して一気に彼女の元へ行くのだ。
だが、私の運動能力の低さと走りに適してないスカートと革靴が相まってバランスを崩し、派手に転がり落ちた。倒れていた彼にぶつかりどうにか止まる。体中に痛みが回るが、それを気にしていては彼女が連れ去られてしまう。
荒くなった息を整えがならよろよろと立ち上がり、三人組を睨みつける。私が転がった音が大きかったのか三人組は顔だけ振り向き不思議そうにこちらを見ていた。
「彼女を、放してくれ」
思い切りぶつけたつもりが声はかすれて小さく、うまく相手に届かない。咳払いをして、深呼吸をし、もう一度声を出す。
「彼女を放してくれ!」
男二人は未だぽかんとした気の抜けた表情のだったが、奥の女性は強い眼光で私を貫き、豪快に笑った。私より一回りは年上のように見える男二人だったが、奥の女性が立場的に上なのか、様子を伺うように私と女性を交互に見る。
笑い終えると、女性はまた鋭い目で私を捉えた。
「いやー面白いね、あんた。いきなり出てきて放してくれ、か。何、この子あんたの何なの? 友達?」
ニヤニヤとこの上から楽しむような表情で私に問うた。
女性が何故そのような質問をしてきたのかは知らない。けれど、女性に問われずとも、自分に問い直さなくとも、答えは既に出ていた。
「彼女は私の」
彼女が私に言ってくれた言葉を思い出す。
――だって、わたしたちは――
あの時、私はソレを否定した。
その時は、ソレとは思っていなかったから。
けれど今なら。
例え彼女が今はそう思っていなくとも。
私は自信を持って言葉に出来る。
「彼女は私の、親友だ!」




