11.1
校門を抜けて、左に曲がる。それから真っ直ぐ歩いて坂を上がり、T字路に出た。横に道が広がっており、眼下には川が流れている。一級河川であり観光ガイドでよく紹介される川だが、掲載される写真は山や森の上流で撮られたもので、街中で見下ろせるこの流れは澄んでいるとは言いがたい。
上から下に、川は穏やかに流れていく。自然に何も抵抗なく、流れは続いていく。時に別れ、合流し、海に繋がる。
川の流れのように、自然と彼女と元通りにならないだろうか。
左手に流れる川を眺めて帰りながら、そんなことを思う。
「空が暗くなってきたな」
まだ日が落ちる時間ではなかったが、川のように暗く淀んだ雲が空を覆い始めていた。日差しが弱まるのは助かるが、今日は傘を持ってきていなかったので雨が降られるのは困る。
河川敷に数人の学生がいるのが見えた。急な坂の下にあるため帰宅がてら降りる人はあまり見ないが、たむろする人それなりの頻度で見かける。彼らもその類だろうとぼんやり考えた。
いくらか歩いて何の気なしに再び彼らのほうに視線を下ろした時、気がついた。
そこにいたのは男三人女二人で、全員が私の学校の制服を着ていた。一組の男女が三人に向かい合い、三人の方は男二人が前に出て、女性がその後ろで構えているのが見える。仲間内で遊んでいる楽しげな雰囲気ではなく、二人組と三人組で敵対しているようなものであることは、遠目でも簡単にわかった。
後姿だったが二人組が彼と彼女であることも、わかった。
彼女の帰り道はこちら方面ではなかったはずだ。今まで校門から私と別れて反対方向に帰っていっていたのだから。
――カップルでもおかしくないよね。
教室で聞いた言葉が、戻ってくる。
「でーと」
それなら家とは反対方向を歩いて、寄り道をすることだって変ではない。それはつまり彼らは恋人同士、少なくとも相当仲がいいことを意味してはいないか。
一刻も早く彼女に近づこうと地面を強く蹴るが、前に出した足を伸ばしてブレーキをかける。
「何を」
私は何をしようとしていた。何を、考えていた。
「引き裂いて、どうする」
二人の仲を引き裂いたとしても、彼女が私の元へ戻ってくるわけではない。しかし引き裂いて、彼女の隣の場所が空けばいいとも思ってしまう。
「そうか。これが」
足元を見下ろして、立ち止まる。
――自己満足でいいじゃん。
彼女が言った言葉を思い出す。
「自己満足、か」
他人がどうであるかではなく、自分が満足しているかどうか。
自己中心的な考えで、自己完結していて、独善的な幸せである。今の私の考えがまさしくそれだ。私は今までそう考え、あまり好ましく思っていなかった。私以外もいいイメージを持っている者は少ないだろう。
けれど、少なくとも自分だけは認めている、ともとれる。
自分の努力を他人に認められるかどうか。私はそればかり気にしていた。
しかし本当に認めて欲しかった相手は、私だ。
私は私に認めて欲しかったのだ。
いくら努力しても、ダメ子だった自分が消えることはなかった。きつくつらいことをやり遂げても、気を抜いてはいけないと、自分を認めることはしたことはなかったのだ。
「ああ。そうか」
私と彼の差がようやく分かる。
「自信か」
やることなすこと全てに自信が無く、だからこそ他人に認めてもらおうとしていたのだ。他人の評価を基準にして、他人の価値観に寄りかかって。
私が彼女に謝れなかった理由も、きっと自信がなかったからだ。もし彼女が許してくれなかったら、元の関係に戻れなかったらと考えてしまっていた。そんな不安を抱えて何も出来なかった、しようとしなかったのだ。
「私が今、やるべきことは」
謝ること。それ以外にない。
彼女と関係はたった一度の喧嘩で壊れるような程度のものではなかったはずだ。私が変に不安に陥りすぎて、疑惑しか持てなかったけれど。
仮に許してくれなくても、私は謝らなければならない。
彼女との関係に亀裂をいれたのは、他ならぬ私なのだから。




