表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレイク  作者: 湯城木肌
4/48

2.1


「すごい偶然でしょ。ほら、嘘じゃないよ」


 彼女はスカートのポケットから可愛らしい手帳を取り出し、そこに記されている彼女のプロフィールの欄を机の上で広げる。そこの氏名欄に私と同一の姓名の漢字を発見した。


「そうだな。驚いたよ」


「は、反応それで終わり? 全然驚いているように見えないよー。もうちょっと驚くかと思ったのに」

「そうかな。これでも驚いているよ。ついでに言えば君が当然のようにその手帳を取り出したことにも驚いている。プロフィール手帳だったか、確か」


 彼女の開いたままの手帳を人差し指で軽く叩いた。小学生の頃女の子の間で流行っていたのを思い出す。


「うん。知り合った人の名前をどんどん書いていこうと思って。で、あなたが一番最初です。どうぞ」


 その手帳に収納されていたボールペンを取り出し、私に手渡される。ここに書いて、と彼女の横のページに書くよう促された。


 あくまで彼女にとって私は同姓同名というだけの存在だ。名前さえ書けば後はすぐにどこかに行くだろう。私には他人に興味を持たれるほどの価値は無い。


「あ、名前の下に住所もついでに。血液型とか好きな食べ物とかも書いてくれちゃっていいよ」

「いきなり住所もか」

「嫌なら別にいいから」


 慌てたように付け足される。舌を出して無邪気な様子が伝わってくるが、何か怯えのようなものがちらりと見えた気がした。ただ私は他人の感情を読み取るのは得意ではないので勘違いかもしれないが、そうだったとしてもわざわざ追及する程興味は持てない。


「構わないよ」


 特に嫌というわけでもないので、自分の住んでいるマンションの住所を書く。ついでにB型、羊羹と指定欄に書き加える。

 書いたページにペンを挟み、「はい」と彼女に返した。


「ありがとう」


 彼女は明るく笑い、そのまま別の人のところへ行くと思ったが、席から立とうとはしなかった。私が書いたページを開き、ペンを手帳の収納スペースにしまっても動こうとはしない。プロフィール欄を埋めに回るような行動に走るかと思っていた。


「他の人の元へ行かないのか」


 純粋な興味で訊ねてみる。


「うん。まだひろっぴとの話は終わってないしね」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ