9.5
しばらくして部員の方々がちらほらやってきた。グラウンドで活動している運動部は既に準備運動を終えて大勢で活動を始めていたが、この文学部はそうではないらしい。
部長も到着しすぐに活動が始まると思ったが、カウンターの裏にある棚を漁って、いくつかの本を私達のいる机に置いた。抹茶色のカバーに黒インクで大木が描かれた表紙で、上部に「校内文芸・楠」と記されていた。
「これは?」
「ウチが年に四回発行している文芸誌なの。校内からいろいろ文芸作品を投稿しても貰って、私達が編集しているの。私達の作品や過去の先輩達の作品がいろいろと載っていますし、作品を創る過程を見るのと出来上がった作品を見るのは違うでしょうし、面白いかなと思ったの。前回は見せるのちょっと忘れてて、今になったけど、ごめんね」
ゆったりとした口調で部長の説明をうけて、置かれた文芸誌に視線を下ろす。単にここ数年のものを集中してとってきたわけではないらしく、季節もバラバラで一年前のものもあれば十二年前に発行されたものもあった。
他の部員たちから、「恥ずかしい」「想い入れあるんだよね」「懐かしいな」等々いくつもの想いが吐かれ、盛り上がる声が聞こえる。
一番手元に近かった七年前の夏に発行された文芸誌を手に取り、表紙を開く。目次は読み飛ばして最初の作品までページをめくる。
「あ、これタケさんのやつか」
真向かいから、彼のわずかに高ぶった声が聞こえる。
その言葉に反応して最初に掲載されている作品の作者名に視線を動かした。そこには「TAKE」と記されている。
他人から「タケさん」の情報は聞いていたが、実際に遭ったことは無い。この作品との交流が、他人を介さず直接触れる初めての機会だ。
タケさんはどのように言葉を紡ぐのだろう。
視線を上に戻して、タイトルを読む。
作品の題は、「壁」だった。




