9.4
「認めてもらう、か。俺と似たようなものかもな」
彼は顎に手をやり、さらりと答える。
「そうか」
「それで、認めてもらうって、誰にだ? そして何を認めてもらうんだ?」
彼は体をゆらすのを止め、わずかに体を前のめりにした。
「みんなに、私が一人前だと認めてもらうことだ」
口に出して、自分の芯と再確認した。文字として外に出したことはあったが、自分の中で湧いて渦巻いていたものを他人に向けて外に出したのは初めてで、その考えが強固になる。
隠し事というわけではなかったが、他人に話さず自分の中に秘めておいたものがさらりと出てきたことには、少し驚いた。しかも好感は持っていない彼にたいして、だ。彼の雰囲気や話し方でそうさせているのか、自分に近しくない存在だからかは判然としないが、この言葉が自分の本心であるのは間違いなかった。
ふーん、と一転興味なさそうにして、彼は首を傾げた。
「みんな、ってどこまで含まれてんのかね、それ。本当に会う人会う人にだったらそりゃ大変な道だ。そうとう偉い人になりそうだ」
認めてもらいたいのは、私と出会った人全員にだ。だが、認められたことを聞かないにしても毎度確認するのは違う気がした。大勢の人に私が出した成果を評価して賛辞して欲しい、という表現が近しいだろう。入学式における新入生代表宣誓がそれだ。
けれど、今改めて考えてみると、それだけでは足りない気がした。
ふいに、大勢の人に囲まれているイメージが思い浮かんだ。私が何かで成果を残し、評価をされている場面だった。
拍手で迎えられ、賛辞の言葉がいくつも投げかけられる。しかし完全には満たされていなかった。瞬間大勢の人が消え、代わりに一人の少女が現れて、私に一言「すごいね」とだけ笑いかける。
遅れて理解した。
私が、認めて欲しい相手は。




