9.3
「よし、質問はこれくらいかな。今度は俺から質問させてくれ」
彼は足で押したり引いたりして椅子をゆらゆらさせている。私に興味を持って訊ねたのではなく、時間つぶしであるのが容易に判断できる。月曜は先輩がすぐに来たが、他の部員の方々が来るのは割と遅かった。今日は先輩がいないだけで、他の人の始動時間は変わらないだろう。
先程まで彼に質問を繰り返していた以上、断るわけにもいかない。素直に頷いて応じた。
「構わないが、面白い答えは期待しないでくれ」
「普通の会話に面白さ求めてるやつなんていないって」
手元に転がっていたペンをとり、器用に手先で回しながら続ける。小さなことだが、彼が何でも軽々とこなしている片鱗のようなものが見えた気がして、「才能」の文字がちらついた。
「俺の興味がある人には大体聞いてるんだけど、目的とか夢とか、そういうのを教えてほしいんだわ」
「目的」
「そ。出来れば壮大というかこの先いくらかは長く持ち続けるだろうものね。簡単に言えば大学合格とか一発限りのものだったりしないってこと」
「大学合格、ではダメなのか」
彼が何も言わなければ、そう答えていたかもしれない。私が進学したこの高校は普通科高校で、進学には力を入れている。高校でしっかりと勉学を積み、より高みの大学へ進学して日々を過ごすべきという私の考えは、普通科高校の生徒である以上何も間違っていないはずだ。
「ああ。当面の目標としてはいいんだが、結局それって手段でしかないだろう? 大学は学ぶ場所であって、合格することは学ぶ場所にいくための手段だ。で、学ぶってのは、更にその先にやりたい何かがあって、そのための手段だと俺は思うんだよ」
「手段ではなく、目的、か」
独り言ちて、考える。
私の目的は、人に認めてもらうこと。
誰かの影に埋もれることなく、光りを浴びて、私がここにいるのだと証明することだ。誰にも頼らず、一人の力で成し遂げて、個を確立するために。
「認めてもらうこと。きっとそれが私の目標だと思う」
考えをまとめ、ようやく口に出す。言葉を発した後に、これが彼の質問に答えようとして至ったことを思い出した。声量も気にしていなかったため、聞こえたのかどうか彼の反応を伺おうと、視線を向ける。




