9.2
「君は、何をしたいんだ?」
気になった部分を迷わず彼に問いかける。
一つのことに絞ってやらないのか。彼女と信念と翻弄され迷っている自分に向けた問いでもあった。
「何がしたいって、そりゃあいろいろだな。だから回るわけだ」
「それではどこも中途半端で、何も習得出来なくないか?」
それとも一日あればその道を修めることが出来るとでもいうのか。どんな物事も取組んでなかなか芽が出ない覚えが遅い私と違って。
「習得って。学びたいことがあればそりゃあ学ぶがよ、部活回ることはそれが目的じゃない。第一一日でその道で上達出来るなんて人生舐めてるとしか思えないな」
「気を悪くしたのならすまなかった」
「別にかまわねえよ。おかしいこと言っているのは自覚してる」
「そうか、なら質問を続けても?」
「ああ。部活始まるまで暇だしな」
「ありがとう。では聞くが、君は何の目的でそんなことをしてるんだ? 暇つぶしか?」
好奇心に従い、彼に向かい合う。彼女ではないからか、彼のことをこころよく思っていないからか、気にせず質問を重ねた。
「目的ねえ、簡単に言えば、『尊敬できる兄』になることが目的だ」
文脈がつかめず顔をしかめると、彼は笑って続けた。
「尊敬している人って、いるか?」
彼女を思い浮かべ、彼女の笑顔がいくつもフラッシュバックする。
「いるな」
私にはない、彼女の良さが次々に浮かぶ。
「俺は妹の尊敬できる男になりたいんだよ。妹に頼られたら何でもこなせるような、カッコイイ兄貴に。動機は不純だろうが、誰になんと言われようが、これが俺の全ての行動原理だ。勉強もスポーツも。もちろんこの部活を回っているのも」
彼はその目的だけで私を超えたのか。理解は出来るが、納得は出来なかった。一番をとることが目的だったのに、それを考えていなかった彼にとられることが。
「部活回っているのは、きっかけを得るためだ。尊敬されるように何でも出来る兄になりたいが、当然全ては無理だ。けどきっかけさえ、片鱗さえ知っていれば、どうにかなったり世界が広がったりするもんなんだよ」
国語と日本史が関係ある感じだな、と彼は付け加えた。
「そういうことか」
彼の行動理由を理解し、納得した。
彼が私の上にいることは納得しがたかったけれど。




