8.過去の決意
帰宅してすぐ二階の自室に入り、自身の勉強机に鞄を置いて、ベッドに仰向けになる。
白い天井にあるのは、光を発していない丸い照明だけだ。窓から差し込む光のおかげで部屋はあまり暗くない。
今日は長かった。
学校にいるときは短く感じたはずなのに、家で振り返ってみると長く感じるのは奇妙な感覚だった。
その原因はわかっている。考えずとも、それは頭の中に浮かぶ。
彼女との会話が耳に残り、ループしているのだ。
彼女とは関係を断った。彼女に未練は無い。一人で生きていくことが、私にふさわしい道なのだ。
そう思ったはずなのに、断ったはずの彼女と私を繋ぐ糸は時間が経つにつれて、徐々に再生していく。
思考と心が一致しない。同じ体の中にあるはずなのに、どちらも私のもののはずなのに、まるで別々の生き物がそれぞれの意思で動いているようだった。私の制御下にいないのだ。
あの時、心が最初に彼女を否定していた。思考はそれを優しく包むように、心を武装するように、彼女を否定するように働いた。その時は二つとも一致して、彼女の発言を否定した。
ただ心は思考の武装など関係がないように勝手に動き、すり抜け、生身のまま彼女に近づいていこうとする。心に従って固めた武装は、置き去りにしたままで、気のままにするする動く。
心が本体でも、一度産み出した思考は中々消えない。思考は心に対して、責任をとれと訴える。けれども心は思うままに動くだけで、思考を省みようとはしない。
ベッドから起き上がり、勉強机の本棚の一番左に置いているノートを取り出す。犬の写真にがくしゅうちょうと表紙に書かれた昔のノートを開いた。小学生のときに書いたむき出しの文字と言葉で想いが綴られていた。
私が初めて認められたと感じたあの日に書いた、決意の言葉だった。




