2.彼女との出会い
「さて」
プリントの内容に軽く目を通しつつ整理を始めた。プリントを収納するためのクリアファイルや鞄を持ってきていないので一枚一枚小さく畳み持ち運びやすいようにしていく。
周りは静かだが入学前からの知り合いと話す人がいくつかに分かれていて、静寂の中の騒がしさといったような、奇妙な雰囲気だった。お互いがお互いを牽制しあって、排他的な空間がいくつも教室内に存在して、息苦しい。
ここは地元の高校なのでこのクラスには私にも中学時代の知り合いはいるが友達ではなく、そもそも私には友達はいないのだ。必要性も感じないし、友達がいることは一人で生きていけないことへの甘えで、一度でも甘えてしまったら私はもう一人で一人前にはなり得ない。そういう思いが小さい頃からずっと渦巻いている。
単純に友達というものがどういうものなのか分かっていないからも一因かもしれないが。
「お、同じ名前だね」
可愛らしい声が前から降ってきた。
他の関係のない周りの声にしてははっきりと聞き取れたので、プリントを畳む手を止めて顔を上げる。
小柄な少女が前の席に座って上半身を私に向けて笑っていた。この教室にいるので私と同じく高校の新入生ということは判断出来るが、制服を着ていなかったら小学生に見間違えていたかもしれない程幼さが顔に残っている。若干赤みがかった黒のツインテールに小柄な顔がその考えを後押ししていた。
黒縁眼鏡に黒のロング、女にしては長身である私とは違って、女の子らしさが溢れている。
彼女は椅子に尻をつけたまま持ち上げ、引きずらないようにして椅子を回転させた。両手の指だけを私の机に乗せて、小動物のように愛らしい格好をとる。
「そうなのか」
軽く一言だけ返す。高校に入学して新しい生活が幕を開けるとしても、他人と仲良くなるためにわざわざ無愛想を治そうとは思わない。
「そうだよー。同姓同名なの。名前の表、見なかった?」
ああ、と入学式前に見た掲示板に張られていた案内を思い出す。確かに同じ漢字が連続で並んでいて印刷ミスを疑ったが、あの掲示は間違っていなかったのか。同姓同名を同じクラスにして扱いが大変なのではと思うが、そこは私が気にする所ではないだろう。