7.喧嘩
翌日、登校し、校門で彼女に出会う。
「あ、おはよー」
「おはよう」
「今日もいい天気だね」
「そうだな」
談笑しながら、教室へ向かう。
変わらない会話だ。
私達の関係には何も変化がないのだから当たり前だ。
喧嘩もしていないし、喧嘩するほど仲がいいわけでもないからだろう。
彼女が私に一方的に寄ってきて、私から迫ることは無い。
昨日湧き上がった感情は、寒さに耐えながら過ごしていた冬に唐突に現れた炬燵の電源が切れた時に温もりを求めるような、怠惰でしかないのだ。
席に着き、荷物の整理を済ませ、彼女との会話を再開する。
「それにしてもすごかったね」
「何がだ?」
「先輩だよ。あの、文学部に副部長の人。文学と放送とラクロス、三つ兼部してるんだから」
「そうだな」
私は一つの部活をやるかどうかでも迷っているのに。
「やりたいことがいっぱいあるんだろうね。どれもやりたいっていう」
「一つ一つ疎かにならなければいいが。私には無理な芸当だ」
「謙遜しないで。ゆうっちもやれば出来るよ。例え成果が目に見えなくても、努力は裏切らないって言うし、何かは自分に残るはずだよ」
それですんでいいわけがない。
ころころと笑う彼女に対し、私は自分の思いをぶつけずにはいられなかった。
「……どういうことだ? 報われなければ努力はする価値はないだろう。時間の無駄だ」
「いやいや、それじゃ悲しいでしょ。頑張って頑張って努力を重ねたのに、報われなかったら意味がないなんて」
「それは単に他の者より努力の量が劣っていたんだ。より努力をした者は報われている」
「その考えだと、必ず不幸になる人が出てくるよ。報われた人と報われない人。それよりも裏切らないって言葉のほうがいいように聞こえるんだ」
「だが、社会とは上の者と下の者を区別する。そんなものはただの自己満足にすぎない」
だったらさ、と彼女は笑う。
「自己満足でいいじゃん」
突如、ハンマーで頭蓋骨を揺さぶられたような感覚が、私を襲った。目眩がする。
「自己満足……? そんなもので済んでいいはずがないだろう」
「そりゃあ、評価される結果のためにはそうだろうけど。評価されない、見えない努力が結果を残さなかったらって、努力したって事実は自分の中に残ってるんだよ。そう思ったらさ、頑張ろう! って気にならない?」
胸の奥の何かが締めつけられる。それはじわじわと力を増していき、私を侵食していく。息が苦しい。体の自由がなくなっていく。視界が定まらない。景色が歪む。




