6.2
「何年ぶり、だったかな」
先輩は軽い調子で彼女に尋ねる。
「わたしが中一のときだったので、三年前ですね」
「あーそっかー。大きくなっちゃってまあ。姉さんのとこにはまだ行ってるんだよね?」
「はい。まだ衣装作ってますよ。最近は主役をやれ、なんて言われて困ってますけど」
ははは、と彼女は乾いた笑みを見せる。
「ごめんね。姉さんは人を振り回すのが得意だし、やると言ったらやる人だから」
「はは、ですよね。見てて思います。タケさんのやる宣言で当初の予定が変更になることはよくありますしね」
「そうそう。姉さんの活動を手伝ってた時、おばちゃん集団に囲まれたことがあったんだけど、それも映像に組み込んでた。ハプニングや偶然の類も組み込もうとするかね、姉さんは。それでよりよくなるんだから、嫉妬するねその才能に」
先輩と彼女が二人で笑いあう。
才能。その単語にぴくりと体が反応してしまう。
先程彼との出会いを思い出していたからだろう。
「っと思い出話に浸るのは後にしよう。久しぶりだったからちょっと盛り上がってしまった自分が言うのはなんだけど。自己紹介もまだだったしね」
先輩は拳を口元に当ててわざとらしく咳払いをして名前と学年、副部長であることを告げた。それとブレイクのタケさんの妹だということも付け加えた。
私にとってはブレイクのタケさんという人物と会ったことがないので最後の情報は有っても無くても変わらなかった。分かっているのは、タケさんはタケウチの上二文字をとった渾名の女性で、自分中心で周りを振り回す人物ではあるものの信頼と尊敬は得ていることくらいか。
「さ、じゃあ次はそっちの自己紹介をお願いしましょうか」
促されて、私が先に口を開いた。
「一年二組、浜崎裕子です」
「同じく一年二組! 浜崎裕子です」
彼女の自己紹介が終ると、先輩は「同じ苗字なんだな」と驚いた。
「同じなのは苗字だけじゃないんですよー」
彼女はメモ帳を取り出し、「裕子」と書いて、上に「ユウコ」、下に「ヒロコ」とルビを振った。
「同じ漢字で読み方が違うだけなんですよ」
「おお」先輩は感嘆の声を上げて私と彼女を交互に見て、ニヤリとする。「まるで双子ね」




