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ブレイク  作者: 湯城木肌
19/48

5.3


 顔を上下に動かし、黒板とノート間で視線を動かしながら、筆記していく。ただひたすら書き写す。


 塾講師の手が止まり、軽く私達を見回してから書かれた内容について説明し始める。元々塾の生徒だったもの達はすぐに書き終えているが、初めて受ける生徒達はまだ顔を上下させて写していた。


「大体書き終えたなー。じゃあ最初から説明していくぞー」


 塾講師は赤色、黄色のチョークを用いて重要な部分を示していく。私達はそれを聞きながら、同じように自分のノートに印をつけた。


 ふと気になって彼の手元を一瞥する。


 彼も自分のノートに向かい印をつけているようだ。何かを書いているような手の動きから察するに、黒板に書かれた内容だけでなく、先生が軽く話したことでさえ記述しているらしい。

 私も見習わないといけない。黒板に記してあることは授業内容を徹底的に説明してはいるが、完璧ではない。口頭での些細な説明は省かれている。彼はその部分さえも記しているのだろう。


 私と彼との差の理由の一つはここに違いない。


 彼に倣い、私も既に書いてあるものに矢印でその部分を指して情報を付け足す。しかし口頭の説明を聞きながら書くので、耳と頭と手を同時に使うことになり、今の私にはまだ難しい。私は元々他人より物覚えは悪いので、すぐにとはいかないが続けていけば、彼のようにすらすらと書けるようになるだろう。


 自然と彼の手元に視線がいった。

 止まらない手を見て、さすがだと感心する。


 直後、頭の中に疑問符が浮かんだ。

 

 彼は今、筆記具を休まず動かしている。講師の説明を受けて動いている様子ではなかった。

 

 私はその時、塾講師の説明を聞くことを忘れ、彼の手元に注目してしまっていた。

 彼はノートの隅の方に何かを書き込んでいた。ある程度書いたらノートの角を折り曲げて、また書き始める。それの繰り返しだ。

 

 私にある予想が浮かび、しかし否定する。

 

 そんなこと、あるわけがない。

 

 頭の中で一つの考えが大きく迫ってきたのと同時に鈴の音が鳴った。塾の一授業の終わりの合図だ。

 塾講師が教室に掛けられた時計を一瞥し、口を開く。


「時間だなー。まだこの後説明する所あるから、十分休憩後、もうちょっと同じ所やるぞー」


 その声で生徒たちは伸びをしたり声をあげたりして緊張を解いていた。


 それでも私は彼の手元から目が離せなかった。


「お前、授業中に何書いてんだよ」


 彼の友達が茶化すように彼をせっつく。

 彼はノートを友達のほうにずらして、笑った。


「パラパラ漫画。タイトルは壁を押す人」



 その時、私の中で、何かが、崩れ落ちた。


 崩れ落ちた中から、熱い塊が顔を出す。


 きっとこれは、怒りだ。


 何に対しての怒りであるかは、分からないけれど。

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