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ブレイク  作者: 湯城木肌
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4.知り合い

 話したらすっきりしたらしく、彼女は礼を述べると、「寒くなってきたし教室に戻ろう」ということで、何の解決策も出せぬまま一緒に教室へと帰った。


『女性は共感を求め、男性は解決を求める。だから女性は隣にいることに幸せを感じ、男性は結果に幸せを感じるのだ。』


 以前読んだ恋愛小説の一説を思い出した。主人公と付き合っている男性が主人公の悩みに気づかず仕事へ出かけたときに、主人公が窓の外を眺めながらつぶやいていた場面だったと思う。


 私が話を聞いただけで彼女が満足するのなら問題ないのだけれど、解決案を提案していたらもっと良かったのではないかと思ってしまうのだ。最もその解決案など思いつきもしていないので悩むだけ無駄なのかもしれない。


「そもそも、か」

 独り言ちて、頷いた。


 私には人の心配をしている余裕はないのだ。それに彼女は優秀で、比べて私はダメな子だ。私が頭を悩ませて出した考えでも、彼女がちょっと考えればすぐに出てくることだろう。そして助けようとする行為がむしろ足を引っ張る行為になってしまうだろう。


 改めて自分に刻まなければならない。

 私がいまどうにか集団の先頭付近を走れているのは全力を出し続けているから。

 

 ダメな私の後ろに人がいるのは、彼らはただ力を抜いているから。

 本気になられたらすぐにこの関係性は終わる。簡単に入れ替わるのだ。


「美人だねえ、やっぱり」


 私の顔を覗き込んだ彼女が感心したように呟く。

 彼女の顔に焦点を合わせ、自身から意識を外に戻した。


「あ、ごめん。ゆうっちの顔に魅入ってた。そもそもって?」

「何でもないよ。それと、私のことを美人というのはやめてくれ。一体どこを切り取ったら美人に見えるというんだ」


「えー。全体といえば全体なんだけど、強いて言うなら、うーん、こう、なんていうの? 研ぎ澄まされた鋭さっていうかさ、むき出しのダイヤっていうか。そういう美しさ?」


「言うのなら自信を持って言ってくれ。訊ねられても、君の感性だから私には肯定も否定も出来ないよ」


 あはは、と彼女は照れくさそうに目を細めた。


「そうだね。でも何でも簡単に言葉に出来るってわけじゃないでしょ。言葉は無限に広がっているけど、全てを表現できるわけではないし。国語が苦手なわたしでもそれくらいはわかるよ」


「ただの言い訳にしか聞こえないが」

「い、いいの。代わりに数学は得意だし」


 もはや言い訳にすらなってないことを口走りながら、「そうだ」と彼女は話題を切り替えようとする。


「さっきの人、ゆうっちのこと知ってるみたいだったけど、友達……って感じではなかったね。同じ中学の人?」


 彼の最初の発言から、そう考えるのは自然だろう。

 彼の後姿を思い返し、首を横に振った。


「いや、ただの知り合いだよ」


 ただの知り合い。

 

 私と彼との関係は、それ以上でもそれ以下でもない。


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