3.6
「主役を演じるのか?」
メインか、それに近しい役柄をやることになったのではないか。そう考え、彼女に訊いてみる。
「まあ、そうなんだけど」
彼女は困ったように笑う。
「タケさんが、あタケさんはブレイクの代表の人のことだよ、まあその人が、『今回はお前を主役に脚本を書いた! 頑張っていいモノにしてくれよ! ハハハ』って」
途中眉をつり上げ、声色を変えていたが、そのタケさんの物真似だったのだろう。急な変わり様で声も低くなっており、近くの幾人かの生徒が一瞬こちらに視線を寄越すのを感じた。
今の様子を見る限りでは、何かを演じることへの抵抗や苦手意識がないように思える。けれど実際は元気がなさそうな表情になっていた。
「演じるのは好きだよ。いろんな役になりきって、自分を捨てることが出来て。いやまあなりきることより、強調して、膨らませて、操れと毎回怒られるんだけどね」
照れくさそうに彼女はこめかみを掻く。
「そこは練習あるのみだし、頑張るからいいんだよ。でも問題はその脚本にあって」
「脚本に問題か。それは脚本が馬鹿馬鹿し過ぎて演じてられないとか、無茶な演技を要求しているということか? 関節を外すといったような」
「大丈夫、今回はそんな非現実的な脚本じゃないんだ」
彼女は両手を振って否定した。
「現実的ではあるんだけど、わたしにはちょっと理解が及ばなくて」
「どういうことだ?」
「えっと、簡単にジャンルで言うとすると」
「うん」
彼女はまたも困ったような笑みを浮かべて、私を見た。
「恋愛もの、かな」