3.5
二号棟と三号棟の三階同士を繋ぐ渡り廊下に連れて行かれた。他の人にはあまり聞かれたくない話のようだが、大量の生徒がひしめいている学校に誰にも聞かれない秘密のスペースという都合のいい場所はない。
「風きもちーねー」
渡り廊下は通路だから教室より人は少ないが、風や日光が心地よいからか、喋って留まっている生徒はいる。しかし風のおかげで他の会話は聞き取りにくい状態だった。学校の中での秘密の会話にはかなり言い場所だ。
元々、他人の関係のない会話など誰も好んで盗み聞きしようとはしないだろうし、そんな物好きがいたとしてもそう簡単に遭遇しないだろし、心配はするだけ余計だ。
彼女は手すりに両肘を置き、その上に頤を乗せて外を眺める。喉をさすれば猫のようにゴロゴロと音を鳴らして甘えてきそうだ。
私は彼女の隣で手すりに手を置き、ただ彼女が口を開くことを待つ。先程のことに関係しているのだろうが、彼女が何を言おうとしているのか全く想像が出来ない。
彼女は体勢を変えないまま、話を始めた。
「あのさ、ゆうっちは、ブレイクって団体、知ってる?」
「知らないな」
「そうだよね。まああまり有名ではないと思うから」
ころころと笑って、話を続ける。
「ブレイクっていうのはタケさんって人が設立した映像製作団体。基本的には映像なんだけど、たまーに演劇やファッションショー、工作物の展示会もやってるクリエイティブな団体なんだ。常識を打ち破れ、ってことでブレイクって名前にしたってウワサ」
活動拠点は市内だから映像撮影しているところに出会うかもね、と笑って付け加えた。
「クリエイティブ集団か。凄そうだな」
クリエイティブなんて響きは私には程遠いものだ。何かを創り上げるなんてものは私には無理だ。出来ることは、既にあるものをただ積み重ねるぐらいのものだ。
「うん、みんな凄いの。皆特徴が作品に表れてて、面白いんだよ。それでね、わたしはそこで衣装を作ってるんだ」
彼女は心底楽しそうに、少し自慢げに、説明をしてくれた。
彼女が衣装を担当しているように、ブレイクに所属している人間にはそれぞれ担当が決まっているらしい。演劇が担当であったり道具製作が担当であったり等様々な役割分担がなされており、最終的にそれらのすべてが映像に還元、収束していくという形をとっているのだという。所属している人間が少ないので役者は基本全員が務めているとのことだった。
太陽の光を雲が遮り、薄い陰で私達を覆う。夏の日の陰は歓迎するけれど、まだ夏は先だ。心地よい日光の暖かさが薄れ、寒さを感じて軽く手を摩った。
「基本全員が役者だしさ、わたしもちょこちょこっと役として映像に出てた。今回もそう思っていたんだけど」
彼女は口を噤み、下に視線を移す。
彼女の表情を見て、人の感情を汲み取ることが苦手な私でも容易に想像ができた。