1.入学式
手を抜いてはいけない。
私は周りより弱くて駄目な人間だ。
今はどうにか先頭集団の中を走れているが、気を抜けば私はすぐに周回遅れになる。
一生懸命に取り組んでやっと一人前。
マジメにやること。
それが私の生き方であり、私を表す言葉なのだ。
私は彼に負けたのだ、ということを認識しなければならない。
自分の入学式が着々と進行していく中、そう心に刻んだ。
外は豪雨で、入学式の会場である体育館に直接的な影響はないにしても、間接的な影響は大きかった。これから三年間を過ごすことになる高校の校長先生が壇上で話しをしているが、雨が体育館の屋根に当たる雑音のせいで聞き取りづらい。さらに人の密集と湿度上昇のために出てきた周りの同級生の不満声が余計にそうさせている。
校長先生の式辞や祝辞、祝電も終わり、進行役の教師が次を読み上げた。
「新入生代表」
その言葉の後に彼の名前が呼ばれた。続けて落ち着き堂々とした返事が体育館に響く。私の視界の中にいる彼の後姿には力みや緊張を感じられず、脱力といった印象すらある。端的に言うなら、面倒そうだと表現が的を射ている。
だから嫌いなのだ。
壇上へと上がる彼に更に強い視線を向ける。
そこには私がいるべきであったのに。
面倒だと思うのなら私に代わって欲しい。
壇上へあがる新入生代表という立場ではない。入試成績一位を得る実力とそれが認められる場に立つことをだ。