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失う恋と書いて――――?

作者: 松田涼

「……はっ、馬鹿みたいだったな…」

 私は自嘲的な笑みを浮かべ、右手で額をおさえるようにして目を隠す。

 じんわりと、また視界がぼやけてくる。すぐに立ち直ることは無理だろうなと思う。

 まだ予鈴は鳴っていないため、トイレを行き来する生徒たちの声が聞こえる。その会話でさえも、今の私にはずっしりと重くのしかかってきた。

 …私がここ――トイレで息をひそめているのも、ほんの数分前に遡れば原因ははっきりするのだ。



 始まりは多分、去年の夏ごろだったと思う。体育祭がそのあたりだったから、きっと夏で間違いはないはずだ。

 高校生活一年目を過ごしていた私、朱谷亜衣あけやあい。私は入学してきて一回目の席替えから、どういったことか右野春みぎのはるとその学年を終えるまで席が近かった。

 ……最初はいけすかない奴だと思っていた。私より背が小さいくせに生意気だし、自分勝手だし…。けれどもそんな「嫌な部分」を見たあとは、どうしてか「良い部分」がやたらと目に入った。

 そのころあたりから、じんわりと私の心はあいつに寄っていたのだと考えられる。


 ―――体育祭。二度目の席替えで、私は右野の隣の席になった。私の学校はクラスカラーを分かりやすくするためにそれぞれのクラスで違う色のはちまきのようなものを手首にはめるという習わしがあった。

 それと同時に、仲のいい友達や恋人同士は、それを交換するのだということも……。

「体育祭とか……だるくない?」

「確かに」

 そんな軽い会話を交わしてから、私たちは別々にそれぞれの友達とグラウンドへ向かった。

 開会式を終えて自分たちの応援席に戻ると、間もなく競技が始まる。

 私の出る競技は騎馬戦のみで済んだ。他の子は二つや三つの競技にも参加しているらしいのだが、出場する競技の決める際のクラス内での会議を寝ていて聞いていなかったため残り物の騎馬戦となったわけだ。

 騎馬戦までにいくつかの競技があるから、充分くつろいでいることができる。ひとつの競技が終わるごとに私の両隣の席の子は入れ替わりのようにきまって片方がいなくなるのだ。


「朱谷ー。」

「うん?」


 グラウンドでは三年生が千メートル走を走っている。

 右野が、私に声をかけてきた。


「お前さ、何の競技出んの?」

「騎馬戦」

「あー、そういやお前寝てたっけ」


 けらっと笑うこいつに、つられて私も笑う。

 右野は私の前の列に席があって、男子と女子は分かれている。そんな中少し移動して振り向いて話してくれることにほんの少しだけ嬉しさを覚えた。


「右野は、何に出るんだっけ?」

「百メートル走ー!」

「へー、頑張れ」


 ふふっと私はまた笑った。

 いかにもこいつらしい競技だと思った。

 右野は運動神経もいいし、野球をやってるらしいから。


「そんでさ、騎馬戦の次の次なんだよ、百メートル走」

「ふぅん、そうなんだ。」

「だから絶対応援しろよな!」


 そう言って、にっと口角を上げた。

 その笑顔を「可愛い」と思ってしまった私はきっとおかしいのだと思う。

 …ちなみに、右野は可愛い系男子として女子から人気なのである。


「……うん、忘れてなかったらね」

「絶対忘れんなっつーの! ……ほら、騎馬戦次じゃね? 並んどけよ」

「…うん」


 自分の席に戻る右野を見送って、少し寂しいような気持ちになってから入場門へと走った。




 ―――騎馬戦の結果は微妙にも三位。四位中三位なのだから、クラスメイトからの視線は痛いことだろう。

 とぼとぼと肩を落としながら帰ると、右野は隣の席の男子と何やら楽しそうに話していた。


「…さっきらぶらぶだったねぇ、朱谷さんと、だ・れ・か・さ・ん・が♡」


 そうちょっかいをかけてくるのは委員長。


「意味分かんないんだけど?」

「嘘だぁ! 絶対朱谷さんあいつのこと好きでしょ?」


 委員長はにやにやしながら顎であいつのほうをしゃくる。

 …あいつは、まだ何か喋っていた。


「んなわけないじゃん。委員長さすがに考えすぎ……」

「ばーか! 鈍感! あたしの目はごまかせないよ馬鹿!」


 そう言い捨ててから、委員長は大股で自分の席へと戻っていった。

「…いや、なんで自信満々にあんなこと言えんの?」

 私にはそれが不思議だった。



「あっ、朱谷!」

 私の姿を見た右野が軽く右手をふる。

「…そういえば、右野って次だっけ?」

「そうそう! 絶対応援しろよ?」

 にぃっと笑った右野は、次の競技に出場する選手が呼ばれていたので軽く手をあげてから私の前を去った。

「……ま、応援くらいはね」

 正直なところ、ちょっと嬉しかったなんてことは胸の奥にしまっている気持ちである。



 パァン!とスタートの合図でピストルが鳴る。だっと走り出した選手たちの中に、私は無意識に右野を探した。

(……あ、いた。)

 横顔を遠くで見てるだけで、目が離せない。自分がそんなにも右野を応援したいのかと頭をガシガシしたくなる。

 右野が、スタートから半周まわって私たちの応援席の前を通った。そのとき、ちらりとこちらを見たと思った瞬間ににこっと笑顔を浮かべて右手を軽くふった。


 ……私は、しばらく動けなかった。

 心臓がやたらと五月蠅い。

 なんで、なんで、なんで、なんで。

 …静まれよ、心臓。




 ――無事、体育祭は終わった。

 私の顔の火照りも、ひとまずはおさまった。…多分。

ああああああああああああああああああああああ


時間がなかったんです絶対この続き更新しますまだお話終わってませんごめんなさい

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