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第三話 更なる怪物の席巻



キャリアウーマン風の楠原零は二丁拳銃をだらりと下げて薄暗い通路を歩いていた。


瓦礫の山を踏み越え、時には迂回し、何とか地下鉄まで辿り着いた。


線路は鉄屑のようにのたくっていた。

そこらじゅうに謎の粘液が飛び散っていた。



そして。

数十のアリが線路へ降り立った楠原零へ殺到した。



「…………、」


対し、楠原零は表情をピクリとも変えず、左右の引き金を引く。

六の脚で地を踏み鳴らし、時には飛びかかってくるアリとまともに相対すれば津波に呑み込まれるように蹂躙されるだけだろう。



だから楠原零は前のほうの二のアリの体勢を崩すように銃弾を放った。

立て続けに放たれる銃弾は猛烈な速度で迫り来るアリの脚を撃ち抜き、ゴロゴロと地面へ転がした。



近くのアリを巻き込む形で。



楠原零は左の拳銃を腰のホルスターへ仕舞い、代わりにホルスターの傍に吊り下げていた手榴弾を引き抜く。


ピンが外れたそれをアリが重なるところへ━━━詳しくはアリの下へ放り投げ、身を投げる。


両手で頭を覆い、身体を丸めた楠原零へと衝撃波が襲いかかった。


できるだけ距離を取ったとはいえ、至近距離で手榴弾を爆破させるのは失敗だった。


爆風の指向の関係、アリを壁にしたことで爆風を軽減されたので楠原零へ対する被害は最小限で収まったが、それにしたって自殺行為である。


それでも楠原零は生き残った。

もうもうと立ち込める煙に紛れるように楠原零は駆け出す。


いくらまともに手榴弾を食らったからといってそれだけで仕留められれば苦労はしない。今の内に逃げておいて損はないだろう。





元軍人の蛍原が落下距離なら一番だったろう。彼は線路のド真ん中へ落ちたのだから。


それでも軽傷で済んだのは蛍原だったからだ。他の人間なら即死だ。


(蟲どもが変質してから人間の身体構造も変わったからな。そうじゃなかったら終わってた)


おそらく彼が人類の中でも黄金の光の影響を受けている……はずだ。


(浅木は普通の人間と大差なかったが……)


本人は隠しているつもりだろうが、これまで寝食を共にした蛍原は何となく気づいている。

『彼女』は蟲みたいで嫌なのか目立って使おうとはしなかったが、この状況では存分に使っていて欲しい。


出し惜しみをして切り抜けられるとは思えない。


「ちくしょう。せめて隠し場所を示した資料が残ってれば簡単だったんだが」


吐き捨て、そこで蛍原は不気味な振動音を耳にする。

木霊するコレは……背筋に嫌な震えが走るこの音は━━━ッ!!


「ま、さか……ここにいるのはアリだけじゃないのか!?」


正面。

瓦礫で塞がったそこへ亀裂が走る。


蛍原は両拳を握り締め、瞳を細める。


「上等だ。ブッ潰してやるよ!!」


蛍原は人間離れした怪物だ。

兵器の扱いや最小の労力で最大の成果を叩き出すことから最強は楠原零となっているが、単純な膂力なら蛍原が遥かに上回っているのだ。


コンクリートさえ粉砕する馬鹿げた拳が先制攻撃を仕掛ける。

殺られる前に殺ってやると告げるように瓦礫の山へと強大な一撃が炸裂し、瓦礫を吹き飛ばす。


結果、瓦礫を破壊しようとしていた蟲は木っ端微塵に吹き飛ばされ━━━



ゴッ!! と。

洪水のように数十数百の蟲の群れが蛍原を呑み込んだ。



引き裂き、抉り、穿ち、無数の肉片となり磨耗するように蛍原という存在が消滅した。


単純な物量が戦場へ投下される。

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