神だって飲みたい気分にもなるんです。
突発的に思い付いた
視界を埋め尽くすほどの星々が輝く空間に浮かぶように存在する座布団と、丸机。昭和を感じさせるその丸机を挟んで向かい合うのは、派手な金色の髪の男と、透き通るような白の長髪の女。
男と女の周囲の空間にはビールの空き缶が漂っており、たった今女の手から離れていった新参も合わせれば二桁は固い。間を開けず、女が丸机に乗せられていた缶ビールを手に取り、プルタブを開ける。
「ほら、前にもやらかしてくれた人間の国あったでしょ? ただでさえ少なかった種族に戦争仕掛けて絶滅寸前まで追い込んだ」
「ああ、あの人間至上主義の王国か」
「そう、その国。そこの王サマがさぁ、またやらかしやがってね。なにしたか分かる?」
身振り手振りを織り混ぜながら愚痴を溢す女。正体は一つの世界ーー所謂『剣と魔法の世界』ーーを管理する女神様である。そして彼女と向かい合う男もまた、一つの世界ーーこちらは科学の世界ーーを管理する男神であったりする。
「少数種族でも絶滅させたのか?」
「それの方がまだマシよ。あのクソデブハゲ親父がさ、世界一の大魔法使い使って魔族がいっぱい住んでた大陸を吹き飛ばしやがったのよ。そのせいで大魔法使いは魔力を使い果たして衰弱死。果ては全世界を巻き込んでの大戦争よ」
女神は憎々しげに言い切る。そして一気にビールを胃に流し込み空になった空き缶を、後方遥か遠い場所で公転していた自分の世界に向けて、力一杯投げつける。男神はその様子を苦笑を浮かべながら眺めている。
「それは災難だったな」
「アンタの世界はいいわよねぇ。ここ七十年は世界規模の戦争起こってないんでしょ? 私の世界なんて五年に一回は起こるってのに」
新しい缶を開けつつ言った女神に、男神が眉間に皺を寄せてため息を吐く。
「最近は怪しいがな。世界経済でも重要な大国同士での小競り合いがある。その他にも不穏な雰囲気の地域が幾つかある。世界中に火種がある状態だよ」
「へぇ、アンタもなんだかんだでヤバいのね」
男神に同情を乗せた言葉を掛けつつ、女神はまた新しい缶に手を伸ばす。その様子を呆れた表情で見る男神。
「おいコラ。ハイペースにも程があるだろう。誰が人間に擬態して買いに行くと思ってる」
「今はひたすらに飲みたい気分なの。大体、アンタの世界の文化がおかしいのよ。私の世界と同時期に生まれたくせに衣食住整いすぎなのよ。科学ヤバいわ」
「その分格差が酷いがな。貴様が手に持ってるのは裕福な国のコンビニという店で買ってきたものだ」
「ふぅん。……あ、この文字『ニホンゴ』じゃないの。あの国の文化は素晴らしいわね。特に『びーえる』とかいうジャンルは至高よ。科学文明が生み出した文化の極みだわ」
「なんだその『びーえる』というのは」
「男性同士の熱烈な愛よ」
「なんだ貴様、同性愛に興味があったのか」
「『びーえる』はサブカル文化の中でも別格の存在なのよ。コミケには毎年夏冬欠かさず行っているわ」
「自分の世界を放って何をしてるんだ貴様は……」
呆れている男髪を気にすることなく、女神は続ける。
「最近は同士の勧めで『ぱそこん』なるものを手に入れたのだけれどーー」
「この話題もうやめろ俺の胃が耐えられない」
「なによ、これからがおもしろいのに……」
話を強制的に終わらされた女神が頬を膨らませ、何やらぶつぶつと呟き出した。そんな女神に男髪は、太陽並みに重いため息を吐き空になった缶を放り捨て、新しい缶にーー
「おい、貴様」
「なによ。……ってもうお酒ないじゃないの」
「五十本が一時間だ。貴様何本飲んだ」
額に青筋を浮かべ顔を伏せプルプルと震える男神の言葉を受け、女神は顎に人差し指を当てて記憶を辿る。
「うーん……四十五ぐらい?」
「なっ……!!」
女神の口から発せられた数字に、おもわず女神の顔を睨み付ける男神。
一方女神は、男神の怒りを明確に察知し、インターネットで知り合った同士の『絶対に許して貰える』方法を実行に移した。
舌を出し片方の目を閉じて、右手を頭の上に乗せる。そして、完成した。
「……てへ☆」
「……っ」
女神のそれを見た男神が動きを止めて全身の力を抜く。それを確認した女神がそのポーズを解いた。
その瞬間。
「うるぅあ!!!」
男神の拳が、女神の頭頂部に叩き込まれた。
一方そのころ女神が管理する世界。
「薄汚い亜人共め!! 地上に存在していいのはにんげっ!!?」
遥か遠く宇宙より飛来した金属の塊が、黒地の少ない大きな頭に墜落した。