迷宮というもの
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急いで洞窟を出たのはいいが次の目的地を決めてない。
どこに行くべきか。
人間を襲えばいいなどと言っていたアリエルは
(人間は私が封印される前よりも強くなっていたな。五人であれほど苦労するなら熊でも食っていたほうがましだな)
などと言い出す始末である。
わかったなら食うものが多い場所でも考えてほしいものである。
(人間がだめなら弱い魔獣でも食えばいいのではないか?)
たしかに熊や蛇が食えたのだから弱い魔獣なら食えるだろう。
だが魔獣が多くいる場所なんて俺は知らないぞ。
こんなことになるなら魔獣の情報ぐらい買っておくべきだったな。
(なら私が以前住んでいた近くなどはどうだ?あそこならば魔力も多いし獣から魔獣まで多くの生き物がいるはずだ)
だが竜が住んでいるような場所の近くなら竜やそれに近い力を持ったやつもいるんだろう?
(そのことに関しては諦めてもらうしかない。それに私はそこしか思いつかないぞ)
ならとりあえずはアリエルの住んでいた場所をめざすか。
案内は頼むぞ。
(あの洞窟から三日ほどの距離だから移動はすぐ終わってしまうだろうがな)
三日だと。
歩いて三日の場所に竜が住んでいるなんて聞いたことがない。
それは竜の飛行速度での時間か?
(当然だ…歩きならばどれほど時間がかかるかわからん)
そんな事だろうと思ったが俺が歩きなのを忘れてな。
(だが行くあてがないのは変わらないだろう)
その通りである。
どれほど時間がかかるかわからないが行くしかないか。
でどっちに向かえばいいんだ?
(…空から見ると竜が住む大きな山があるからそれが目印だ)
つまりわからないと。
(私もまさか空を飛べぬほど弱体化することになるとは考えもしなかったのだ)
まあ俺も歩けなくなること前提でいろいろ考えながら生活したりはしないからな。
だがわかったこともある。
竜が住む大きな山というのはおそらく無頂の山のことだろう。
なんでも頂上が見えないほどの大きさで竜が住んでいるためまともに登ることもできないらしい。
いつからかあの山には頂上がないだの頂上は天界につながっているだの言われるようになった山だ。
山の頂上はどうなっているのか気になるな。
(私も知らんぞ。上にすんでいるのは老竜たちばかりだからな)
アリエルも知らないのか。
気になるが竜の中に飛び込んで死にたくはないので忘れることにするか。
行くあてがないといっても無頂の山はかなり遠いな。
この体が疲れ知らずとはいえかなり時間がかかるだろう。
まあ何とかなるだろう。
とりあえずは隣町まで行くとしよう。
人間に見つかると面倒なのでぎりぎり道を確認できる程度道を外れて進む。
討伐者や探索者が近くを通ると気配を殺してやり過ごした。
そうやって進んでいると馬車が襲われていた。
馬車が襲われることは珍しくないがあれほどの数の護衛がいる馬車を狙うのは珍しい。
よほど腕に自信があるのか。
それとも恨みでもあるのか。
その光景が気になり様子を見る。
襲撃が襲撃の成否にかかわらず死んだ人間を食える。
どうやら襲撃側が有利のようだ。
護衛の数は確実に減っている。
対して襲撃側は一人も減っていない。
強すぎだろう。
あっけなく馬車は制圧されてしまった。
すばやく壊れていない馬車を探すと金になりそうなものを仕分けていく。
間違いなく手慣れた連中である。
必要ないものを捨てすぐに引き揚げてしまった。
完全に見えなくなってすこし時間をおいてから俺は殺された人間を食う。
味は微妙だった。
野犬以上熊以下といった感じである。
まあ食えるからには食うのだが。
殺された人間を食い終わるとやつらが捨てたものを漁る。
安物の布があったので迷宮核を包んでから布を使い腰あたりに巻きつける。
これでようやく両手を自由に使える。
またなにかに使うかもしれないのでできるだけ多くの布を体に巻きつけ持っていくことにした。
下半身が安物の布まみれといった見た目になってしまったが元が動く人骨だったのでそれよりはましだと思いたい。
もうここに用はないので再び道から外れて進む。
ようやく町に着いた。
だが中に入れないのでそのまま通りすぎる。
まだまだ目的地は遠い。
旅というものを初めて経験したが見知らぬ場所に来るというのは心躍るものがある。
(空を駆けるのは気分がいいがこういった経験も意外におもしろいものだな)
どうやらアリエルも退屈していないようである。
しかし最後に何かを食ったのが馬車襲撃時に殺された人間だけなので何か食いたい気分になってくる。
そんなことを考えていると腰の迷宮核が震えていることに気付く。
迷宮核が震えているんだがアリエルはなぜだかわからないか?
(わからん。おそらくだが近くの迷宮核に共振しているのではないか?)
迷宮核にそんな効果があるのか。
(私も聞いたことがないから確実にとはいえんがな)
迷宮か。
人間がいない迷宮ならばそこを拠点にできるかもしれないが人間が見つけていない迷宮などこのあたりにはないだろう。
見つかると面倒だが日が落ち人がいなくなってから迷宮核を抜きだすくらいならできるのではないか?
(迷宮核同士が共振していることの確認という意味なら行く意味はあると思うぞ。たとえ人間がいたとしても見つからなければ問題ないではいか)
たしかにこの震えが共振かどうかということは確認しておいたほうがいいだろう。
そう決めてしまえば急に迷宮をめざしてみたくなるから不思議なものである。
迷宮核を左手に持ち震えが大きくなる方向に向かい森を進んでいく。
二日ほど森をさまよったがそれらしい場所はなかった。
人間はいなかったがうまそうな獲物もいなかった。
今いる場所は普通の森の一部にしか見えないが迷宮核が一番反応している。どういうことだろうか?
(おそらくこの森が迷宮だったのだろう)
森が迷宮?
迷宮と言えば洞窟や地下に伸びた穴なんかのことなんじゃないのか?
(そういった場所には自然に魔力がたまりやすいというだけでそういう場所にしか迷宮ができない訳ではない。私が封印されていたようになんらかの理由で魔力が濃くなれば迷宮核ができそれに群がるように有象無象が集まるだろう。そうなればもうその場所は立派な迷宮だ)
なら魔力の濃い場所には迷宮核があるってことか?
(そうでもない。私たちの住んでいた場所など例外なく魔力は濃かったが迷宮核などなかった。まあ迷宮核などなくとも迷宮のようなものではあったが)
まああまり深く考えなくてもいいか。
それで困るわけでもないしな。
とにかく近くにあるであろう迷宮核である。
周りを見回してみるが普通の森にしか見えず目を引くようなものはない。
洞窟の時にならい地面に力を入れて調べていくが反応はない。
(木が怪しくないか?森の中に木があったとしても誰も疑問には思わないだろう)
さすがアリエルである。
だが木を調べてもすべて普通の木だった。
洞窟の時同様あとすこしで核を見つけることができるのだろうがそのすこしがわからない。
(今気付いたのだがこちらの迷宮核はこれほど振動しているのに森の迷宮核が振動していないというのはおかしくないか?この森が静かというのは振動音が出ぬほどにしっかりと固定されているか見えない場所にあるのではないか?)
なら見つけたのと同じではないか。
目に映る木を食っていく。
そうすると木の根の下で振動している迷宮核を見つけた。
見た目はやっぱり石なんだな。
二つ目の迷宮核を布で包み腰に巻きつける。
近くにあれば共振したのに触れ合うほど近くにあれば静かになるんだな。
そしてふと思う。
俺はなんで食わずに集めてるんだ?
迷宮核なんか持っていても食う以外の使い道なんてない気がする。
困った時はアリエルだな。
迷宮核の使い道に何を思いつく?
(迷宮核の使い道?迷宮核を持って動けば動く迷宮核になれるではないか)
こいつは知らないと言えない病気なのか?
それとも迷宮核があればそこが迷宮になるということを伝えたかったのか?
迷宮核を大量に持っていればその魔力にひかれて勝手に何かが現れるということだろう。
今までの旅で何かに襲われるようなことにはなっていないので何かが集まるのに時間がかかるということだろう。
つまり迷宮核を使いたければ迷宮核をどこかに置かなければだめということだろう。
だがこれには問題がある。
集まってくるのが弱いやつなら食い放題だが俺より強いやつが来たら殺されるというものだ。
今までいろんなものを食った経験からいえば強い存在のほうがうまいということはわかっている。
だが当たり前のように俺より強いやつは狩れない。
そこでふと思う。
自分で迷宮を作ってしまえばどうか?
自然にできた迷宮では討伐者と戦った時のようにいざという時に役に立たないかもしれない。
だが自分で罠を仕掛け俺に有利に運ぶような場所にすれば俺より強いやつを狩れるかもしれない。
俺のための迷宮を作るか。
そのためにはもっと迷宮核が必要だな。
そのほうがうまいやつが来てくれるはずだ。
やばそうなのが来たらすぐに逃げられるようななにかも必要だな。
考え出すとおもしろそうである。
どうせとりあえずの目的地の無頂の山までは距離があるのだ。
その道中にいくつかは迷宮核は見つけられるだろう。
それに今回のことで迷宮核同士は共振することがわかった。
迷宮核を探すのはかなり楽だろう。
アリエルは迷宮核を探すの楽しんでるから嫌がりはしないだろう。
今後の方針があるというのは何となく安心できるな。
迷宮核は回収できたことだし無頂の山をめざすとするか。
アリエルはほぼ何もできないと言っていいほど弱体化しています。
レクサスはアリエルは弱っているが竜なのだから姿が蛇になり空を飛べなくなっていても力は残っているだろうと思っています。
竜の感覚では大したことがないのかもしれないが自分にとっては十分すぎる破壊を起こせると本気で思っています。