~討伐者たち~
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俺たちはそこそこ名の売れた討伐者だ。
死霊に効果的な光魔法を使える僧侶もメンバーにいるからほとんどの依頼は成功させている。
たまに飛竜みたいな化け物なんかが現れたりするから死にそうになるがそれも含めて討伐ってのは楽しいもんだ。
そんな俺たちに簡単な依頼が来た。
どうやら最近王都周辺の水辺に野犬や熊がよく現れるらしい。
今までこんなことはなかったから原因を探ってほしいというものだった。
たしか王都周辺の水は危険な大蛇が多く住む大蛇の森から流れてきている。
大蛇は探索者では逃げることもできないほど強いからこちらに依頼が回って来たということか。
俺たちは大蛇の森の近くにあり狩人が多いことで有名な町で最近変わったことがないか情報収集をすることにした。
彼らの話によると最近野犬や熊の数が目に見えて減っているらしい。
そして野犬や熊の骨が残っているがそれがおかしいらしい。
見たほうが早いといわれて熊の骨を見せてもらう。
巨体を支えるため頑丈なはずの骨はすこし力を入れるだけで粉のようになってしまった。
しかもこれは前に取れたものであり最近のものは持ち上げることもできないほどぼろぼろになっているらしい。
つまりこれをやった存在は確実に強くなっていることが分かる。
こんなことをできる存在がいながら目立った問題はないらしい。
こちらを脅かす存在は数を減らし狩りで狙う鹿や猪などは天敵が消えたこともあり取り放題の状況らしい。
その夜俺たちは集めた情報から現状を確認する。
「この町の狩人たちが言っていた人間を襲う獣が減ったという時期が王都で受けた依頼の水場に獣が増えたって時期と大体同じだな」
「大蛇の森に何かが現れて王都のほうまで逃げてきたってわけか?」
「たしかにそう考えるなら筋は通るが狩人が襲われていないことが不自然に感じるな」
「肉を食いつくし骨を粉のように脆弱にして人間を襲わない存在ね」
「思いつかないな」
「ですね」
「博識な僧侶さんや自称何でも知ってる人も分からないのか」
「茶化すな。なんにしても聞いた話では動物の骨は朝になると新しいのが見つかるらしいから夜に張り込むぞ」
俺たちは夜に向けて休憩をとり夜に森で張り込むことにした。
村の狩人からは夜の森は危険だからやめたほうがいわれたが無理を言って出てきた。
張り込んでかなりの時間がったが正体不明の存在どころか獣の一匹も見ない。
虫の声と仲間の息遣いだけが聞こえる。
その時草を踏む音がする。
やっと何かが現れたようだ。
できれば探していた正体不明の存在であればいいが。
それは死霊だった。
見たところ左手に蛇を巻きつけているようだがそれ以外はごく普通のそれである。
不意に足を止めて周りをを確認するような動きを見せる。
だがうちの僧侶様が張った結界のおかげで発見されずにすんだ。
メンバーには事前に正体不明の存在を見つけた場合はその巣までは隠れていることを話し合っている。
そんなことをするのもこれほどの規模の獣を狩りつくした存在の数を確認する必要があるからである。
やつをつけると王都と森の中間にある初心者用のの迷宮に入って行った。
あそこは以前来た大蛇討伐の時には何もいなかったはずだが。
あれからこの短期間で増えたというのであろうか。
洞窟に入って少し待つが何かが出てくる気配はない。
中を調べるべきだろうがどうするべきか。
メンバーと顔を合わせて話すが全員一致で調べるになった。
あの程度の死霊なら何体いても問題ないと判断した。ざっくり言えば油断していたのだ。
洞窟をゆっくりと探索していくが何もなかったし居なかった。
奥にある地底湖まできたので念のために水の中を覗こうとした時水中からやつが飛び出してきた。
森の大蛇に近い速度で迫り殴りかかってくる。
だがいくら速いといっても大蛇のような圧迫感はなく、動きも直線的である。
簡単にいなせると思ったが想像以上のすさまじい衝撃に体勢を崩してしまう。
その時にとっさに槍でやつの追撃の阻止と急所への攻撃をやってみせる槍捌きと反応の良さはさすがであった。
だがやつはこちらの想像以上だった。
槍がぼろぼろと崩れてやつに当たった瞬間砕けてしまったのである。
やつは獲物が罠にかかった時に狩人が見せるような笑みを浮かべ追撃の手をやめようとしない。
熊の骨がぼろぼろになっていたことを完全に失念していた。
まさか戦闘中に使える業だったとは。
だがこちらも切り札は切っていない。
やつが俺のほうを見ていない。
それはつまり俺の後ろにいる僧侶ちゃんが光魔法を確実に当てられるということである。
完璧なタイミングで死者にのみ当たる光弾が俺の体をすり抜けてやつに直撃する。
やった。
俺を含めて誰もがそう思っただろう。
だがやつはダメージなどまったく負っていなかった。
ただ最高のタイミングの攻撃をつぶされたことに対する怒りを暗い眼孔に宿しているように思えた。
こいつはやばい。
完全に見た目にだまされた。
さきほどぼろぼろにされた槍も魔力を多く含む鉱石を持ち込み知り合いの職人に頼み作ってもらったもので岩の鱗をもつ魔物にも突き刺せたものなのだ。
光弾は死霊であれば即死の技である。
その二つが全く通じていない以上俺たちにやつを倒す手段は存在しない。
俺が囮になってみんなを逃がすことにした。
逃げる仲間はこれくらいはさせてくれと最後に身体強化の魔法をかけてくれた。
仲間はやらせないという意志のもとに盾と剣を構える。
どうやらやつは俺を舐めきっているようである。
チャンスである。
遠くに飛ばして急いで逃げたらなんとかなるかもしれない。
そう思い持てる全力で踏み込み剣を叩きつける。
盾とセットの剣であり力自慢の俺が使っても今まで歯こぼれ一つしたことがないほど頑丈であったがやつを吹き飛ばしたのと同時にぼろぼろになって砕ける。
柄だけになった剣を握りしめ全力で逃げる。
王都の門の前でメンバーと合流した。
みんな俺は死んだものだと思っていたらしく泣きつかれた。
もちろん僧侶ちゃんも泣いてくれたが抱きついてはくれなかった。
男にそんなことされてもうれしくなどなかったがあれほどの化け物相手に生き残れたことをみんなで喜びたい気分だった。
無事を喜び合った後に討伐者ギルドのギルド長に今回のことを報告した。
やつの攻撃を盾で防げたという話をしたら盾を見せてみろといわれた。
盾を台の上に置くと手を軽く振り下ろした。
たったそれだけで盾はぼろぼろになってしまった。
話を聞くとこの盾と剣は内包する魔力はすさまじいがその魔力はなぜか取り出せないといういまだによくわかっていない鉱石で作られているらしい。
やつが使っていた武器をぼろぼろにした業は魔力の吸収ではないかとのことだった。
槍は魔力を吸われすぎたためすこしの衝撃で砕けるほど脆くなり、光弾は魔力そのものであるため無効化されたのではないかということだった。
剣と盾は中の魔力を取り出すことができないという特性と中にあるすさまじい量の魔力で一撃は耐えられたのではないかということだった。
だがそれは取り出せないはずのものまでやつは取り出したというじゃないか。
まあもう関わることなんてないだろうからなんでもいいか。
今回の依頼は原因を突き止めたということで成功。
その後偵察隊が組まれ例の洞窟に行ったがやつはどこにもいなかったという。
偵察隊のやつなどはお前が倒しちまったんじゃないのかなどという。
たしかに最後の攻撃はなかなかきれいに入ったと思うがあの程度で倒せるようなやつではなかった。
その後やつには食らうものという名がつき左手に蛇がまきついた死霊は危険だから手を出さず討伐ギルドに報告するようにとの通達があった。