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迷宮の王をめざして  作者: 健康な人
二章・四人の敗北者編
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魔女の城へ

遅れた上にまた短いです。申し訳ありません。

 あの老人に会ったことでこれから何処に向かうかの当てはなくなったわけだが、明日の朝まではまだまだ時間がある。


 さて、これから何処に向かうか。

 一応そんな事を考えながら今後の事を考えようとはしているのだが……すれ違う女は一々美しく、女の服装も合わさりどうも何かを考える気になれない。


 ……見る者が男であれば、否応無しに視線は女に向いてしまう。

 正に誘惑だ。どう考えても見せ付けているようにしか見えない。

 ……しばらくここでこうしているのも、それはそれでありかもしれないな。

 こうして女を見ていれば、肉を失い人で無くなった俺でも、女が気になる心を持った人間なのだと再確認することが出来る。

 別に昔の体に未練があるわけではない。こうしていると俺の人間らしさを改めて確認できたという、唯それだけの話だ。


 ……

 ……まあ、適当に店に入って時間を潰すか。






 最初に入ったのは武具屋だった。

 何処にでも売ってある……それこそ人間だった頃の俺でも手が届くような、標準的な物より少しだけ安い値段の武器と防具を扱っていた。特別な物は無いように見えるし、ロウの店のように誰かが説明してくれるわけもない。本当に何処にでもある武具屋のようだ。


 次に入ったのは装飾品店。

 この町には女が多いからなのか、武器屋とは違いかなり手の込んだ物が数多く置かれていた。

 どれもこれも細部に至るまで細かに作り込まれており、素人目で見てもかなりの品質なのが理解できる。そして、本当に驚いたのは同じ物が二つとして無い事だ。

 同じように見える物でもよく見ると細部の装飾が違う。何の装飾も無い装飾品もあるのだが、そう言った物は一つしか置いていないのだ。

 ついでに言えば店に置いてある品はどれも安い。

 手軽な食事代くらいの値段で売っているのだ。何か裏があるのかと思いアリエルやジズドに尋ねてみたが、仕掛けは見つからないし使われている素材も普通の物らしい。


 ……俺たちは、そんな事をしながら適当に時間を潰した。

 何となくおかしな雰囲気を持つ町だと思ったが、女が多いこと意外は比較的普通だったな。



  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 朝になりザックと合流した。

 結局ザックは朝まで帰ってこなかったが、特に疲労が溜まっている様子も無く見た感じは元気そうである。これなら昨日の言葉通りこのまま魔女の城に向かってもいいだろう。


「待たせて悪かったな。今すぐ行くか?」


 その確認のような問いかけに、俺は首を縦に振る事で返事をした。

 ザックの言う通り女は美しかったが、これ以上ここに居ても得る物はないからな。


「なら行くか。……まあ、あの方向に向かって森を抜けるだけだからそう時間はかかんねぇと思うんだがな」


 そんな事を言いながら森に視線を向けているが、ザックは以前の大地の裂け目に行った時と違い自信満々に言い切れていないような気がする。……今ならザック以外の人間はいない事だし少し聞いてみるか。


 魔女の城には行った事が無いのか?


「大地の裂け目と違ってここは一人じゃさすがにな。まあ、魔女の城についての話はかなり詳しく聞いてるから任せてくれて大丈夫だ」


『本当に大丈夫なんでしょうか? かたり人の話が本当なら、場所が分かっていても簡単にはたどり着けない場所だと思うのですが』


 任せろと言っているぐらいだし大丈夫だろう。


 なら頼むぞ。


 そう一言だけ伝え、ザックが頷くのを確認してから俺たちは森に向かって足を進めた。



  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 闇が深い。

 一歩一歩と歩を進める度に、天から日の光が失われていく。

 間違いなく存在していたはずの天高くで輝いていた光源が森に沈み、その変わりとでも言わんばかりに黄金の球体のようにさえ見える月が天に存在している。

 町を出たのは朝であり、森を歩いたと言っても時間はそう経っていない。しかし事実として今この瞬間、昼と夜は逆転していた。


「……やっぱダメだな。魔術が使えねぇ」


 そして夜の闇が太陽の光と相容れないように、大地の裂け目でも使用していた光を生み出す魔術が使えなくなっていた。

 光は天に浮かぶ月のそれのみ。

 俺の視界は暗闇で遮る事はできないため何の問題も無いが、ザックはそうではないのだ。

 見た事も無い危険な場所で視界が悪なり、意味の分からない状況に遭遇する。そんな事になっても冷静さを失わないのはさすがとしか言いようが無い。


「……自信満々に言っといてあれだが、甘く見てた。魔女の城については色々聞いてたつもりだったが何の役にも立てそうにねぇ。道案内すら出来なくて悪いが、こっから先は戻るにしても進むにしても目の良いあんた任せる事になりそうだ」


 悪いな、と。

 そう言いながら俺の後ろに下がる。

 ……ずいぶんと気落ちしていたが、結局は俺が前になるのだし大した問題ではないと思うが。


 ……まあいいか。

 アリエル、この状況はどういう事なんだ?


(感覚としてはスイの使う物に近い【場】だな)


 スイの使う物に近い【場】……と言うことは、どういう事なんだ?


(……本人に聞いてみろ。呼べばここの抜け方も分かるかもしれんしな)


 本人に聞いてみろと言われてもな。抜け方が分かるのは助かるが、ザックが居るのにスイを呼ぶのはまずいだろう。


(なら強引にこの【場】を引き千切るか? それ自体は可能だろうが、そちらの方がまずいのではないのか?)


 ……何故スイを呼ばないなら力技で突破する事が前提なんだ。

 普通に森を進んで普通に魔女の城に行けばいいじゃないか。


『普通に森を進むのではダメなのでしょうか?』


 やはりジズドも同じ事を思ったようだな。


(ここが何らかの効果を持った【場】の時点で普通に進めば目的の場所に辿り着く、などと言う事はほぼ不可能だ。しかもスイの物に近い効果を持っていれば尚更な。下手に動くよりはスイを呼んだ方がましだ)


 ……なら呼ぶか。


『いいんですか?』


 別に問題ないだろう。……スイ、来い。


 俺の言葉に応えるように俺の正面に水が集まり始め、球体状に集まった水は人の形に変化した。


「……ヨンダ……?」


「……今の声……もしかして、何時かの嬢ちゃんか?」


 ……以前会っているとは言え声だけで気付くのか。

 まあ、別にスイを配下にしている事を隠しているわけでもないし、隠すつもりも無いからどうでもいいのだが。『俺』が『死者の都』に関わっていると知られなければ何でもいいからな。


「……ソウ……ヨバレタ……」


 スイは平然とそんな事を口にしながら、宙を滑るように移動してザックにその姿を晒す。


「呼ばれたって……まあ、嬢ちゃんが居る理由は何でもいいけどよ、なんで嬢ちゃんが呼ばれてんだ?」


 ザックは不思議そうにスイを見ながらそんな事を口にしているが、その理由を今から説明するつもりなのだから話をややこしくしないでほしい。


 スイ、ザックと協力してこの森を抜けるぞ。


「……?……ナニカ、イッタ……?……」


 ……だめか。

 スイを配下にしてからそれなりに時間が経ったので、そろそろ俺の意思が通じるかとも思ったが上手くいかない。まあ、以前とは違い俺が何か言っているぐらいには話が通じているしマシになった方か。

 ……この調子だと、まだしばらくはアリエルに頼るしかなさそうだな。


 アリエル、頼む。


(そこの男……ザックと協力して魔女の城へを探している。その為にはまずこの森を抜ける必要がある故、ここを抜ける手助けをしろ)


「……ワカッタ……コッチ……ツイテ、キテ……」


 スイはそう言ってふわふわと宙を移動を始めた。

 ……魔女の城があると言われた方向とは別の方向に。


 スイが進んでいる方向にある物は夜空に浮かぶ月だけだ。

 俺には何かがあるようには見えないが、スイの動きはとてもゆっくりだが迷っている様子は無い。そうなると、おそらくあの方向にこの森を抜けるための何かがあるのだろう。

 そこまで理解しスイを追うために移動を始めようとした時、後ろからザックに呼び止められた。


「……別に嬢ちゃんを疑ってるわけじゃないんだがよ、ついていっても大丈夫なのか?」


 ザックが発したその言葉を聞き、俺は踏み出そうとしていた足を止めてしまった。

 俺はスイがメディアと共に死者の都で迷宮を作っているのを知っている。

 特にスイは結界の制御、場の構築には秀でており、あのメディアが教えを請う事も少なくない。メディアが作った結界や場の不備をすぐに見つけ、少ない言葉で改善方法を伝えているのをこの目で見ている。

 だからこそ俺はスイであれば大丈夫だと思えるが、ザックはそんな事は知らない。


 ……ただまあ、だからと言って何時もの返事を変えるつもりは無いのだが。

 だから俺は何時ものように首を動かしてその問いに答えた。


 問題ない、と。


 俺の意思を伝えるために首を動かしたので、今度こそスイの後に続いた。

 ザックの返事を確認したわけではないが、これ以上聞かれても答えようがない。ザックもその事は分かっているだろうからこれ以上聞いてくる事はないだろう。

 ……スイも言葉を発することなくこちらを見ている事だし、さっさと行った方がいいだろうしな。


「……あんたが大丈夫って言うんなら、ほんとに大丈夫なんだろうな」


 ザックはそう言い、スイに続く俺の後に続いた。



  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



「……コッチ……」


 俺たちはスイの案内に従い歩を進めていく。

 先ほどから一貫して空に浮かぶ月を目指しているはずなのに、俺たちの歩みは一つの方向に定まる事が無い。まっすぐ進んでいるのだと思ったら全く別の方向に曲がる事もあったし、先ほど進んだのと同じように後ろに下がった事もあった。

 そして、そんな意味の分からない動きをしているはずなのに夜空を見上げると絶対に正面に月が輝いているのだ。

 正真正銘それをだけ目指しているかのように、まっすぐ進んでいるはずが無いはずなのに、足を進める度に夜空に浮かぶ月に近づいていく。

 そして、ついに夜空に浮かぶ黄金の真下に辿り着こうかとした時――


「……ツイタ……」


 突如、森が消滅した。

 森など最初から無かったとでも言わんばかりに、森の中に聳え立つ古びた城壁とその奥に存在する古城が目に入る。

 俺たちは、いつの間にかその古城の正面門にの前に立っていた。

 天に浮かぶ月は何時か見た青い瞳のように輝きを変化させ、まるで月の真下だけが昼になってしまったかのようである。周りには誰も居ないはずでありながら、音を立てる事無く巨大な門が開門する。


 開門した城門の奥、城の内側に見えるのは質素な町並み。

 そこを歩く人間たちは、皆全て『美しい女』たちだ。

 そしてその中……女と言う花畑の中に突き刺さった無骨な鉄の大剣のように。どう見ても場違いでしかない薄汚れた男たちが幽鬼のような足取りで何かを求めるように歩き回っている。


 城門を挟んだ、ただそれだけの距離。

 しかしただそれだけの距離で昼と夜、表と裏が入れ替わっている。

 今まで立っていた場所は言ってしまえば月が支配する裏側であり、この城門を潜る事で太陽に照らされた表側になると言うだけの話。


 ……それはまるで、何に照らされるかの違いで見える物まで変化してしまうかのように。


 何故そう思ったのかは全くわからない。

 だが俺の直感が、本能が……魂に染み付いた力が、こちらこそが今の今まで隠れていた『表』なのだと告げている。そして、その事を理解すると同時に何故だかこうも思うのだ。


 これが気に食わない(欲しい)、と。目障りだ(食ってみたい)、と。……これほどまでに不愉快で、しかし一つの完成形でもあるコレ(ある種の同属)を用意した何者かが、たまらなく気になるのだ。


「……カエッテイイ……?」


 自分でも分からぬ高揚であろう感覚に囚われながら、表でも裏でも変化する事のない『美しい女』と『青い』月に目を奪われている時、スイはそう声を発した。






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