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迷宮の王をめざして  作者: 健康な人
一章・鉄の王編
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遭遇

修正しました 1/1

 竜がいるならばと新たな獲物を求めて洞窟の外に出ることにした。


 外に出ることによって分かったことが三つある。


 一つ目は身体能力の上昇だ。


 外にある森で視界の隅に野犬が映った時に襲ってみるとなんと成功したのである。

 生前なら野犬に追いつくことも素手の一撃で殴り殺すことも絶対にできなかった。


 二つ目は左手に巻きついている水竜が意外にも役に立たないことだ。


 アリエルがやっていることは逃げられそうになった獲物に小さな水弾を放ち足止めのようなことをするだけであったからだ。

 しかもこの水弾驚くほど威力がない。

 小さな野犬の足をほんの少しの間止める程度である。


 おそらくブレスや強力な魔法は獲物が跡形もなく消し飛ぶとかそんな理由で使わないのだろうがもう少し役に立つようなことはできないのか。


 だが外に出たおかげで新しい獲物を食うことができたというのは気分がいい。


 三つ目は生前に食っていたような兎などより野犬がうまく感じたことだ。


 食事の方法が変われば味覚も変わるのだろうか?

 うまそうには見えない野犬がうまく、うまそうに見えた兎がそれほどうまくなかった時は何とも言えない気持ちになった。

 

 それがわかってからは野犬ばかりを狙った。

 

 



 どうやら俺はこの森では敵なしといえるほどの強さを持っているらしい。


 というのも以前洞窟で食ったでかい蛇と同じであろう種類のやつに遭遇した時にあっさりと食うことができたのである。

 すさまじい速さで迫り尾を叩きつけられたと思った次の瞬間には俺に触れた部分からすさまじい勢いで肉が消えていった。

 もはや早食いというレベルではない。


 そしてその蛇が熊を丸のみにしていた。


 蛇が食っているならおれも食えるのでは?

 そう考え熊を狙うとやはりといべきか腕を叩きつけられたと思ったらその腕からどんどん肉が消えていった。


 これがわかってからは日が落ちると森で好き勝手に獲物を食い日が昇ると洞窟で苔や鉱石を食うことを繰り返した。


 アリエルは俺が何かを食ったときに力を少しずつ取り戻せるらしくすごく満足そうである。

 すこしは役に立ってほしいものである。


 





 最近は熊も蛇も食っていない。


 腹が減るわけではないが少し味気ない。


(たしかにここ最近は小粒ばかりだな)


 アリエルに心を読まれるのも慣れてしまった。

 心を読むと言っているが完全に読めているわけではなさそうというのが大きいと思うが。


 そうだな初めて森に出たころに比べると野犬でさえあまり見なくなった。


(そうだろう?そろそろここを離れ新たな狩り場に移動したらどうなのだ?)


 移動か。


 俺はうまい獲物がいる場所なんか知らんぞ。


(お前ほどの力があるならば近場の村でも襲えばいいだろう)


 その発想はなかった。

 俺は元は人間なのだ。

 人間を襲って食うということは考えもしなかった。

 そんな後味の悪いことをするつもりはない。

 だが今の俺は人間ではない。

 襲われたのなら反撃しなければ殺されるのはこちらだ。

 もし人間を食うならその時でもいいだろう。


 今はまだ早い。


(お前がそういうならそうなのだろう。なら私が封じられていた迷宮の核でも探さないか?)


 迷宮の核だと?

 そんなものがあるのか?


(あるだろう。あの洞窟の迷宮化は私の流れ出した魔力が原因となっているのだろう。ならば当然魔力の濃い場所に核があるはずだ)

  

 当然なのか。


 だが長い間あの大きくない洞窟をさまよっているがそれらしいものは見ていない。


(それはそうだろう。核とは洞窟と迷宮とを明確に線引き、迷宮を迷宮にしているもの。つまりは考えようによっては迷宮の弱点とも言えるものだ。簡単に見つけられる場所にあるわけがないだろう)


 そんな重要そうなものを取っていいのだろうか?今まで取ろうとしなかったのは危険なものだからじゃないのか?


(今までは外の森が主な餌場だったから放置していたのだ。洞窟から離れようとするなら一言言っておくつもりだった。やばいなどといっているが元をたどれば私の魔力だったものだろうから問題ない。それに核を取ったところで迷宮が洞窟になるぐらいしか問題というほどの問題はないしな)


 なに?迷宮じゃなくなると鉱石だとか苔が食えなくなるじゃないか。


(だから今まで黙っていたのだ。まあこの勢いで鉱石を食うとそう時間もかからずに食うものがなくなるぞ?)


 確かにそうかもな。


 とりあえず核とやらを探すか。


 そう結論付けた時ふと生き物の気配を感じ後ろを振り返る。

 なにもいない。


(どうした?)


 生き物の気配を感じた。おそらく隠れている。


(なるほど。おまえが気配を感じるのなら久々に腹の膨れる獲物ということか)


 その基準はどうかと思うが気にしないことにする。

 そして周りを探すがなにもいなかった。

 おそらく逃げられたのだろう。

 期待してしまったせいで微妙な雰囲気になりながら迷宮の核とやらを探すため洞窟に向かった。



 そこで数人の影があることを見落として。



 




 どこにあるかわからない状況では探せない。


 どういう場所にあるのものなのだろう?


(普通はその場所が迷宮になる原因となったモノの近くだ。今回は私から漏れ出した魔力が原因だろうからおそらく水に触れている場所だろう)


 ならばとりあえず水の中に入るか。



 あまり広くない地底湖の探索はすぐに終了した。



 ないな。

 

 地底湖の岩はどれもこれも普通のものだった。


(まだ諦めるな。この近くにあるのは間違いないのだ)


 生き生きしているな。

 竜なのに細かいことが楽しいというのは変わっている気がする。


(まて)


 場所がわかったのか?


(お前の足の下だ)


 まさか俺が踏んでいたというのか。

 だが足をあげてみても何もない。


(馬鹿な。今間違いなくお前の足の裏から魔力を感じたのになぜなにもないのだ)


 あったのか。

 ならなくなったというのはおかしな話だ。

 なぜなくなってしまったのだろう?


 そう思い足を下ろす。


(まただ。間違いなくお前の足の下にある!)


 だがないものはないのだが。

 足をあげるとやはりなにもない。


 とりあえず足元を掘ればいいのではないか?


(迷宮の核というのは破壊が不可能なのではないかと思えるほど硬いものから簡単に壊れるものまで多くある。壊してしまったらどうするつもりなのだ?)


 その時は諦めればいい。


 そういい足元を掘ろうと岩に手をかけ力を入れると岩が発光する。

 驚いて手を離すと普通の岩に戻っている。


(予想だが力が加わった時のみ核になるのではないか?)


 たしかにそれなら説明がつくな。


 核の部分を岩から取り外す。

 とりあえず手に入れたが何に使う?

 力いっぱい手で押して核になった状態にしてから食うか?


(それでいいのではないか?)


 見つけるのにてこずった割には簡単に決めるんだな。

 せっかく手に入ったものなのだから今はやめておくか。 


 核はアリエルが封印されていた場所に置いておいた。


 そして地上に上がろうとした時に明かりが見えた。


 依頼があれば基本的に何でもやるが迷宮探索を主に金を稼ぐ探索者。

 その中でも探索者では狩れないものを狩り金を稼ぐのが討伐者。


 完全装備の5人組。

 討伐者だろう。


 幸運にもこちらは水の中である。

 このままやり過ごすか。


(やらないのか?)


 息を殺しているところにそんなことを言い出す竜が一匹。


 このままやりすごす。


(だがやつらは私たちを殺そうとしているぞ?そんなもの武装をみればわかるだろう?)


 どうせもうすぐここを離れるつもりだったんだから無駄な危険を冒す必要はない。


(ずいぶん慎重だな。行き過ぎた慎重は臆病と変わらんぞ)


 言ってろ。

 俺は確実に生き残るほうを選ぶだけだ。


 そんなやり取りをしているうちに討伐者の集団が水に近づいてくる。


 このままでは先制攻撃を許すことになる。


 力も速さも熊に負けないほどある。

 そう自分に言い聞かせ戦う覚悟を決める。


 毒ガスが吹き出る場所に連れていくのは無理だろう。

 思ったようにはならないものである。

 奇襲の先制攻撃で一番前の男をやる。

 あとはなるようになるだろう。


 ほんとにやばくなったらアリエルに洞窟ごとブレスで吹き飛ばしてもらえば大丈夫だろう。


 たぶん。





 野犬を奇襲するときに何となく理解したギリギリの距離まで我慢する。


 いまだ。

 地を蹴り水面を突き破りその勢いのまま右手で殴りかかる。

 相手はとっさに左手の盾で身を守る。

 かまわず盾ごと殴りつける。

 やつは気づかなかったようだが俺はさっき盾を食った。


 次は盾の上からでもやれる。


 衝撃を殺し切れずに体勢を崩す。

 追い打ちをかけようとに再び殴りかかる。

 だがすぐに右側から回り込んだ槍使いがその長さを生かし素早い突きをこちらの届かない範囲から繰り出す。

 目線で槍を追うが避けらない。

 だが槍はぼろぼろに錆びて俺に当たった瞬間砕け散る。


 驚愕に歪む表情にざまあみろと笑みを浮かべてしまう。

 その時体の正面の男をすり抜けて光弾が飛んでくる。


 思考する暇すらなく直撃した。



 生きてる。

 どうやら触れた瞬間に光弾を食ったらしい。


 光弾を打ち込んだやつを目の前の男越しに睨みつける。


 討伐者たちはかなり動揺している。

 まあそうなるだろう。

 俺も光弾の一撃を受けて揺るぎもしない死霊など聞いたことがない。


「俺の槍がこうもあっさりと…」


「光弾を受けてもなんともないなんて…」


 どうやら槍のほうもなかなかの業物だったらしい。


「見た目は普通の悪霊だがこいつは思った以上にやばい。おまえらは逃げてこいつの特徴をギルドに報告しろ」


 なんかいろいろ言っているがどうやら逃げるつもりらしい。

 逃げるなら追わないからみんなで逃げてほしい。


「こんなところで死ぬつもりはない。だから早く行け」


 一人が囮になりその間にほかのやつらが逃げるらしい。


 結局俺が最初に殴りつけた男が残った。

 盾と長剣を構え後ろには行かせないという気迫がある。

 あのメンバーなら俺は攻めきれなかっただろう。

 だが相手が一人、それもこの男なら負けはないだろう。


 そう思ったのがまずかったのか。


 男は森の蛇を超える速度で肉薄し剣を振る。

 森の蛇に反応できない俺がその速度に反応などできるわけもなく当然のようにそのまま吹き飛ばされ地底湖の中に落ちる。

 地上に上がってみるがもう男はいなかった。

 死ななかったからよかったと思うか。

 


 


 


 討伐者に見つかってしまったからここから逃げたほうがいいだろう。

 出ていく記念に鉱石や苔を食い迷宮の核を持ってさっさと立ち去ることにした。

 さっきの戦闘で食った剣と槍、盾、光弾はかなりうまかった。

 鉱石にもうまさがあることがわかったのが今回唯一の戦果のようだ。




 

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