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迷宮の王をめざして  作者: 健康な人
一章・鉄の王編
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開戦

タイトル修正しました

 死者の都の入り口付近に立つ人影は九。

 鬼族、半精族、有翼族、土人族、獣人族。そして人間が四。

 炎帝と呼ばれる男、聖火と呼ばれる人物、翁と呼ばれる老人、そして竜牙の姫と呼ばれる女。



「ここが死者の都ねぇ。なんつぅか、思ってたよりヤバそうじゃないな」


 獣人族の王種が死者の都を見て最初に感じたのはその程度の危機感であった。

 死者の都と言われるほどだ、もっとドロドロとした『死』を煮詰めたような場所であると思っていたのに拍子抜けである、と。ある種の侮りさえ感じていた。


 普段であれば数え切れぬほどの悪霊が徘徊しているのだが、今はその殆どが四腕の魔族に引き付けられている。だがそんな事を知っている訳がない彼らからしてみると、いささか以上に拍子抜けであったのは仕方のないことだろう。


「確かにここを死者の都と呼ぶのは無理があるように感じますね。……まあ、氷の女王が居るなら当然かもしれませんが」


 そして半精族の王種もその意見におおむね賛成であった。まあ彼女の場合は、氷の女王が居るのであれば見た目だけで踏み込むのを躊躇うような作りにはしていないだろうと、そう理解しているが故の思いであるのだが。


「ふむ。御二人とも、話はそこまでに。……想像していたよりも危険な奴が来たようです」


 己の想像していた『死者の都』と現実のそれの食い違いから、どこか呑気な会話をする二人を咎めたのは人間の老人。この場所についてから終始一貫して険しい表情であった老人ではあったが、今の表情はそれをさらにひどくした物だ。

 一箇所に固定された視線は動く事無く、年のせいで刻まれた皺はより深くなっており、彼の苦悩を表しているようである。


 その言葉と雰囲気を察した皆の視線は、必然的にその視線の先へ向かう。

 その視線の先で目にしたもの。それは己の力に自身のある彼らであっても恐るべき存在であった。



  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 まず目に付いたのは魔力。その身に秘めた魔力はどの様な危険な儀式を行い、どれだけの生贄を捧げたのだと言いたくなるほど『深い』

 それはまるで月が出ていない夜のように、己の手元しか見ることしか出来ない深い闇のように。通常であれば『大きい』や『強い』と表現される魔力だがそのどれとも違う感覚。

 知ろうとすれするほど、探ろうとすればするほど知る事ができない。まるで底の無い穴に落ちていくように、落下を続ける精神は徐々に肉体から離れてゆく。

 穴の中で渦巻く凄まじい数の意思。

 歓喜と祝福。恐れと呪い。死を認めることが出来ず死して尚生を求める、不特定多数の意思。

 強烈なその意思を……『魂』とでも言うべき何かを感じ取りながら、渦の中心に座す『本体』に手をかけそうになり……


 ……痛みと共に、私の意志は覚醒した。


「ッッッゥゥゥゥウウウ?!」


「……大丈夫だったか。おいテオ、おまえあいつに何された?」


 目の前にはガングがおり、そんな事を聞いてくるが……頭に感じる激痛に涙が滲みそれどころではない。だが、何時もであればありえないほど真剣なガングの声を聞き、返事だけでも返さなければと口を開く。


「何されたって……頭が痛む以外何もされてないと思うんだけど……」


 痛む頭を抑えジト目になりながらガングを見る。

 そんな私を見ながら溜息をつきながらジト目で見つめるガング。……私は、何かおかしなことを言っただろうか?


「……いいかテオ。お前はな、あいつが出てきた瞬間ふらふらとあいつの方に歩き出したんだぞ? 声かけても何の反応もしないから、さすがにやばいと思って頭叩いたらようやく返事するようになった。分かるか? これで何もされてないってんなら、今すぐ逃げろ。邪魔なだけだ」


 邪魔。

 ガングが口にしたその言葉が私の胸を抉る。

 そう言われたくなかった。言われたくなかったから、元々戦闘が好きではない私が探索者になってまで自分を鍛えたのに。……聖火とまで、呼ばれるようになったのに。


 ガングと同じ景色を見たい。並んで歩きたい。簡単に言えば、隣を歩きたいと。

 彼と共に過ごすうちに何時からか形を持った私の夢。

 それさえ出来ぬほど、私は弱いのだろうか?


「はあ、やめんか馬鹿もんが。今ここで背を見せる事の方がよっぽど危険じゃろうが」


「だがよ……」


「……言い争いは後でいいじゃない。私は、やつから意識をそらすほうが危険だと思うけど?」


「……はぁ、分かりましたよ」


 お爺さんとアリスさんがガングを嗜める。

 事ここに至ってしまえば引くことは出来ない。ここに居る皆がそのつもりであり、その思いは当然私も同じである。だからこそ、その和を乱さないようにしろという事なのだろうが……ガングにとって私は邪魔なのだという事実は変わらない。

 もうガングが私に帰れと言う事は無いが、彼にそう思われていると言う事実が何よりも悲しかった。


「下を向くぐらいであれば前を、敵を見ろ。……この馬鹿もんと同じ景色を見たいのであろう?」


「……そう、だね。確かに、その通りだ……ありがと」


「お前さんたちは孫みたいなもんじゃからの。仲が悪ければワシの居心地も悪いわい」


 沈みかけた気持ちを引き上げてくれたお爺さんに感謝し、今度こそ間違う事無く私の『敵』を見据えた。



  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 侵入者を撃退するように筆頭君に指示を出し、おれ自身は死者の都の入り口にやって来たわけだが……そこに居た侵入者たちは全部で九人。アリエルが言っていた八よりも数が多い。


『一人多いですね』


 だな。


(あそこに居る……男か女か分からんやつがいるだろう。人間のあいつだ。あいつの力だけが弱い。並より少し強い程度だ。……こうして目にするまで周りの連中の力に埋もれて気付かなかった)


 人間の女。

 アリエルがそう口にしたのでそちらに視線を移す。

 見覚えのある金髪の女と中性的な顔立ちの人物が目に入る。

 おそらくだが、アリエルが弱いと言っているのは後者だろう。


 なら、やつは気にしなくても良いか。

 そんな事を考えながら弱い方の女と視線が合った時……なぜかは分からないが、嫌な感覚がした。

 まるで体の中に不純物を混ぜられたような……自分の中に自分以外の何者かが入ってきたような、そんな感覚。

 だが、それが不愉快なわけではない。

 感じた違和感はほんの僅か。感じていた違和感は一瞬で無くなり、少し前に違和感を感じていた事さえ思い出さなければ忘れてしまいそうだ。


 一体今のは何なのだろうか?

 そんな事を考えていると弱い人間の女がふらふらと俺に向かって歩を進め始めた。

 己の意思を感じさせず、体を揺らしながらゆっくりと進むその様は人間と言うよりは悪霊だ。


「テオ! おいテオ!! しっかりしろ!! おい!!」


 以前戦った炎帝は慌てた様子で女性の名前を呼んでいる。

 肩を揺すりながら名前を呼び、それでも反応が無い事に気づくと、何故か俺が睨みつけられた。その眼光は視線だけでも人が殺せそうになるほど鋭い怒りを孕んでいる。

 その怒りに呼応するように、炎帝の体から深紅の炎が立ち上り始めた。


「落ち着け馬鹿もんが。無策で飛び込もうとするな」


「今なら、まだ間に合う。こいつさえ倒しちまえばこの訳分かんねぇ業だって解除できるかも知れねぇ」


「少しは人の話を聞かんか。テオの状態じゃが少し刺激があれば戻ってこられる」


「……何されたかもわかんねぇのに、本当にそんな事で大丈夫なのかよ?」


「確かに何をされたかは分からんが、体に流れる魔力に乱れは感じん。であればそれで大丈夫なはずじゃ。……逆に、これでダメならワシらにテオを元に戻す方法は無い。少なくともワシは知らん」


「わかった。……なら、少しの刺激ってのはどれぐらいだ? 肩揺すったくらいじゃ意味無かったぞ」


「頭でも叩いてやれば良い」


「……本当にそれでいいのか?」


「必要なのは肉体への刺激じゃからそれでよい……後はテオを信じてやる事じゃ」


(どうやらあのテオとか言う女、お前の力に吞まれていた様だな。貧弱……とは言えぬかも知れぬが、敵としては不足だ)


 力に吞まれた? 俺は何もしていないわけだが……


(吞まれるとは言っても本当に吞み込む訳ではない。川同士が合流すれば小さな川が大きな川の一部になるだろう? あれと同じで同質の力を持っていた時、力の差が有りすぎれば弱い方が意識を飛ばし無防備を晒す事がある。それを私たちは吞まれると言っているだけだ)


『つまり、彼女の力はレクサスさんと同質の物なのですか? それにしては彼女、色々と常人のように感じるのですが……』


(おそらくだがあの女、死から遠ざかることを得意としているはずだ。加えて感じる気配から考えればレクサスのように反対側に突き抜けているわけではない。おそらくだが単純な癒しの術を使うのだろう。……まあ、人を辞める事無く癒しの術が使える存在は始めて見たがな)


 回復魔術の使い手は少ないが居るだろ。そこまで珍しいとは思わないが……


(回復ではなく癒しだ)


 俺にはその違いが分からないのだが……まあ、気にしなくても良いか。


 そんな事を考え改めてやつらに視線を向けると、やつらも俺に視線を向けていた。

 どうやらあの女も意識を取り戻したようで強い意志を秘めた瞳でこちらを見てくる。


 ……まあ、俺のやることは変わらないか。


 『来い』と。そう心の中で静かに唱える。

 するとその声に答えるように、何時かの魔族との戦いの光景のように俺の左右に存在する空間が歪む。

 右の歪みからは以前の戦いで猛威を振るった鬼族が現れ、それに続くように人型の悪霊が溢れ出す。

 左の歪みからは人など容易に引き千切る牙と爪を持った地竜であったものたちが歪みを押し広げるように現れる。

 ……以前は俺が死者の都から離れたため念のために残しておいたが、今回はその必要は無いだろう。むしろ空に存在するわけの分からない敵の実力が分からない以上、この場に居る敵はすぐさま屠る必要がある。


 俺がそう思考し何時仕掛けるかと考えを巡らせていた時、俺の傍から鬼族がやつらに向かい飛び掛り……やつらの中から飛び出した鬼族がそれを迎え撃った。



  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 王種。

 それは強き者の、上に立つ者の……そして、率いる者の名。

 人間たちが考えているほど簡単なモノではない。


 生まれながらに強者として生まれた者も、力をつける内に強者となった者も存在する。

 だが一つだけ共通している事がある。

 それは、王種と呼ばれる存在は必ず前の王種を倒しているという事だ。


 それは誰にでも理解できる力の証明。

 最も強い者を倒すことで己が最強であることを証明する、言ってしまえば一種の通過儀礼だ。

 だが……今の俺にはそれが無い。


 皆が口を揃えて言う。「お前のほうが強い」と。


 だが、無い物は無い。

 何よりも俺自身が、以前の王種であった男よりも強いという確証を得ることが出来ない。

 そんな形にすら成らぬ不満を抱えたまま、俺たち鬼族を襲った悪霊どもを攻める算段を立てた。

 時間がかかり、それなりに苦労もしたわけだが……

 しかしまあ……そんな事はもはやどうでも良い。


 視界の先に映るのは悪霊を率いる悪霊。

 伝え聞いたとおりにしか見えない悪霊の王種が呼び出したやつの兵隊。その内の一体。


 鋭い牙があるとか、力が強いとかそう言った次元の話ではない。

 俺と同じ種族。俺と同じ『王種』であるからと告げてくる、不愉快な感覚。

 俺の中にあった形を持たぬ不満が急速に形を成していく。

 そして俺に訴えかけてくるのだ。「王は二人も要らぬ」と。


 なるほど、王種と成る者が前の王種を消すはずだ。

 己が二人になったような不快感は、紛い物を消す事でしか拭えない。


 目線が交差すると共に、俺とやつはどちらともなく地面を蹴った。

 ご意見、ご感想、誤字脱字など気軽にご報告してくれるとありがたいです。



 それと更新について少しだけ報告があります。

 一言で言ってしまえばこれから更新遅れそうですと言うものです。

 詳しくは活動報告に書きますが、別に更新を辞めるつもりはありません。多分ですが週一くらいのペースになりそうです。

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