~竜の目線~
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私は強かった。
若い水竜であったが老竜よりも大きな魔力を持っていたからだ。
肉体の強さでこそ成竜に及ばないもののそれは時間が埋めてくれるだろう。
だが私が縄張りを広げようと戦った火竜は私を軽くあしらえるほどに強かった。
私は纏わりついた虫を払うかのようにあっけなく負けた。
とどめをさす必要すら感じないのか、それとも若いから見逃されたのかは分からないがやつはそのまま飛び去った。
負けたのはどうしようもない。
ただ力が及ばなかったという話だからである。
だがなぜ生かしたのか。
私の力を力で踏みにじり、敗北者として生きろというのか。
負けるような相手がいなかったということもありとにかく悔しかった。
痛む体を無様に引きずり群れから離れた場所にある仕留めた獲物を置くために使っている小さな洞窟にたどり着くのが限界だった。
この傷を癒し、力を蓄えたら次こそはやつを倒す。
だが人間どもに追い打ちをかけられ封印されたことによりその望みは絶たれた。
どうも仕留めた獲物を見つけられて見張られていたらしい。
この封印というのは私の魔力を少しずつ水に溶かしその魔力で王都周辺の水を飲める水に変えるためのものらしい。
人間どもの生活のために生贄にされゆっくりと魔力が減っていくこの身は遠い未来に朽ちることになるだろう。
どれぐらいの時間がたったのかはわからないがこの身に残る力はもはやほとんどない。
成長するはずだった肉体は少しでも命を長引かせるため魔力の消費がすこしでも少ないようにと、蛇のように小さく貧弱になってしまっていた。
ここまでか。
もはや1日ともたないだろう。
急に体が軽くなった気がする。
封印が破れている。
理解するのはすぐだった。
自由だ。
封印が壊れて外を見たとき興奮と驚愕で心臓が高鳴る。
死霊がいた。
今の私では倒せない。
死ぬ。
同時に疑問に思う。
目の前の死霊が封印を破ったのならばなぜ私は生きている?
生きるものは例外なく殺そうとする死霊が生きたものが目の前にいるのに反応がないのはおかしい。
そんなことを考えていると死霊はどこかにいこうとしている。
長い封印で話し相手がいなかったためか。
ふと気づいたら声を出していた。
(まて)
死霊相手に声をかけてどうする。
そう思いながら私の封印を破ったほどの力を持つ目の前の死霊なら話が通じると不思議と確信できた。
(なぜ死霊であるお前が私を助けた?)
話しかけてしまったならば覚悟を決めて話すしかないか。
<?>
目の前の死霊は魔力を震わせて思念のようなものを声の代わりとして使用しているようだ。
私の知らない技である。
私が封印されている間に死霊どもも知恵が回るようになったのか。
それともこの死霊が特別なのか。
どうやら私の存在に気づいていないらしく自分に話しかけている相手を探して周りを見回している。
(お前…下を見ろ)
死霊の魔力感知にかからないほど弱くなってしまった己を情けなく思いながら私の場所を教える。
<蛇?>
この死霊にとっては今の私など蛇と同じ程度の脅威という意味か?
今の私では大したことができるとも思えない。
ここはまだ様子見だ。
私は自分が水竜であることを伝える。
<竜…一生係わり合いになりたくない怪物の筆頭…>
どうもこいつの言っていることは聞き取りにくい。
(係わり合いになりたくない怪物か。
今の貧弱な姿を見てなぜそう思うかは置いておくとしてなぜ私を助けたのか、その答えを聞いていないが?)
私はいつかの火竜を思い出す。
たしかにあんな怪物に係わっていたら命がいくらあっても足りないだろう。
死霊がなぜ生きているものを助けたのかが気になり再度質問する。
<…助けたつもりなんてない…>
助けたつもりがないだと?
封印は内からの力に強いといった特性は持っているが私の魔力でもどうしようもないほどに強力なものだったはずだ。
簡単にどうにかできるものではないはずだが。
<魔力を食っただけだ。>
魔力を食う。
吸精の業であり死霊が生者に嫌われる理由そのもの。
その業は肉体を、魂を溶かし食らい己の力とする。
これは上位の死霊が使うことができるといわれているものである。
吸精を使えるほどの死霊なら今の弱い私を見ても食おうとすら思わないだろう。
納得である。
やつからしてみると封印の魔力を食ったらよくわからないものが出てきた、ぐらいの感覚というわけか。
これは運がいい。
吸精を扱えるほどの死霊の近くにいるなら漏れ出る魔力だけでも私の力が多少は取り戻せるだろう。
しかもこの死霊は今の私を見ても竜として対応している。
これならば悪いようには扱われないだろう。
やつの気が変わらないうちに話を進めてしまうか。
相棒にしてくれないか?
相棒。
自身と契約を結んだ他者の魂を同じように成長していくもの。
この死霊は竜がいれば王にだってなれるなどと言っている。
どうやら向こうもこちらと契約を結ぶつもりだったらしい。
しかし死霊が王をめざすとは面白いこともあるものだな。
こいつらは生きているものを殺すことしか頭にないのかと思っていた。
契約のために名前を聞く。
レクサスというらしい。
名前のある死霊か。
やはりこいつは普通ではないのだろう。
封印されて死ぬだけかと思ったが面白いやつに会えた。
いったいどんな面白いことがあるのか、私はこれから起こるなにかに期待し胸を高鳴らせた。