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迷宮の王をめざして  作者: 健康な人
一章・鉄の王編
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紫の炎石

 門をくぐり、死者の都へ移動する。

 門を潜った先では、列になって移動している死霊兵たちが城へと向かって紫炎の石を運んでいた。紫炎の石をメディアに見せるために小さなものを一つだけ受け取り、列を目で追いながら手に持った石のことを考える。


 さて、メディアにこの石のことをどう伝えるべきか。

 明かり以外に役に立つかどうか分からないものだが、彼女に明かりは必要なのだろうか?…まあ、考えても仕方がない。さっさと彼女に渡してしまうか。


 そう考えメディアを探そうとして、城の中から現れた鎧の巨人に気がついた。

 ここから見る限りでは鎧には傷らしい傷はなく、ゆっくりと、だがしっかりと歩みを進めるその様は、戦った時と何も変わっていない。


 何故やつが動いているのか?と言う疑問を感じて体の動きが止まる。


『…何故、あの鎧が筆頭君に従っているのですか?』


 ジズドがそう口にしたことで気付いたが、巨大な鎧の足元には筆頭君が居た。

 巨人の一歩と筆頭君の一歩では進める距離が違う。これはつまり、普通に歩いているのであれば巨人は筆頭君よりも早く移動できるということだ。

 だが巨人は、筆頭君の前には出ぬようにしているのか、お互いの距離が数歩分開くような距離を維持している。…どうやらあの距離を維持するために、ゆっくり移動しているようだ。

 あの歩みが見たままの意味であるのなら、確かに巨人が筆頭君に従っているようにしか見えない。


(胸の傷もないようだな。持ち込んだ時は動かなかったが、無傷の鎧の方か?)


『あれほどの損傷を短時間で直せたとは思えません。おそらくそうなのでしょう』


 無傷の鎧かどうかはどうでもいい。何故筆頭君があの鎧を従えることができたのかも、どうでもいい。何も得る物がないと思っていた場所で、戦力が増えた。重要なのはこれではないか?


(まあ、確かにそうかもしれんな)


『どうでもよくはないでしょう!?』


(どうせ筆頭は話せん。ならば、やつしか知らぬ理由など聞きようがないだろう?)


『文字を使って伝えてもらうとか、やりようはいくらでもあるでしょう』


(誰が何の文字を教える?)


『…え?』


(文字の種類だ。筆頭が、と言うよりは悪霊が使う文字など、私は知らんぞ。それにレクサスの言いたいことは通じているようだが、私たちの言葉は伝わっているのか?伝わっていたとして、どれほどの時間やつに文字を教えればいいのだ?)


『それは、その…メディアさんに任せてしまえば…』


(同じだ。メディアは魔族だが、悪霊は魔族ではない。ジズドは忘れているかもしれないが、知性を持った悪霊などレクサス達が初めてなのだぞ?基本的にはレクサスの言うことしか聞かぬということも十分考えられる)


『…』


(今回は諦めろ。どうせあの鎧はもうないのだから、何故動いているのか分かったところで大した意味はない)


 ジズドとアリエルがそんなことを話している内に、筆頭君はこちらに気がついたようで歩みを少しだけ早めた。

 すると巨人も歩みを早める。やはり、彼らの距離はほとんど変わっていない。


 筆頭君は俺の目の前まで来ると歩みを止める。

 巨人はそれに続き歩みを止めると、騎士がするように片膝をつき首を垂れる。


 …これは、どう言うことなのだろうか?

 何故巨人がこんなことを始めたのか分からない。鏡の悪魔の時のように、配下にしてくれという意志は伝わってくるのだが、意味が分からないぞ。


 確かに巨人を倒しはしたが、ここまで敬意を持ってひざまずかれている理由に心当たりがない。


(魔族だからな。己を倒したものには敬意を表して当然だ。メディアもそうだっただろう?)


 なるほど、言われてみればそうだった気がする。


 以前に鏡の悪魔と契約したように、巨人を配下にする。

 この様子を見ていた筆頭君は、満足げな様子であった。

 なのでそれに応えるように、よくやったという意図を筆頭君に伝える。


 メディアに紫炎の石のことを伝えるのだから、この巨人のことも伝えておいた方がいいだろう。この巨人のことを何も知らなければ、間違いなく驚くだろうからな。

 俺は筆頭君と巨人についてくるように伝え、メディアを探すことにした。







 メディアは月の木に近い場所に居るだろうと思い、まずはそこに訪れる。

 しかしここは、以前とは明らかに違っていた。月の木の近くは以前訪れた彼女の【場】のように氷でできた木があったのだ。それも、一、二本ではない。

 まだ若い森のように、林から森へと変化していく過程のように、外側になるほど小さくなっている氷の木や草が大量に生えている。

 こうして見ている間にもどんどん氷の葉が生い茂り、量を増やして地面に落ちていく。氷の木から剥がれ落ちた氷の葉は、地面に降り積もった雪に触れて氷の草へと変化する。

 その氷の草を求めているのか、いつの間にか氷の兎が現れていた。

 バリバリと音を立てて氷の草を砕き、うまそうに食っている。

 俺がその様子をじっと見ていたことに気がついたのか、逃げるようにその場を去って氷の森の奥へと消えて行った。

 何と言うか、ここが死者の都だとは思えない光景だ。


 ここだけ見れば、メディアの【場】のようである。


(月の木の周りであるこの場所だけ、娘の持つ【場】との融合が進んでいるな。月の木を調べることと戦力を増やすことを並行して行うつもりのようだな)


『融合が進む、ですか。ならばここは、彼女の【場】なのですか?』


(おそらくだがな。こちらで娘の戦力を増やすために融合を進めたのだろう。…この融合の進み具合は、それだけではないかもしれんがな。まあ、死者の都に問題は出ないだろう。娘の方も、問題があれば直接言ってくるはずだ)


 問題がないならそれでいい。とにかくメディアを探すとしよう。


「レクサス様、何かご用でしょうか?」


 探そうと思ったその瞬間、いつの間にか現れたメディアに声をかけられた。


「…その巨人は、誰でしょうか?初めて見る方のようですが」


 …突然現れたメディアに話しかけられたことでことで、すぐに返事を返すことができなかった。

 どう説明するか。配下なのは間違いないが…そう言えば、メディアは魔族に負けていたな。筆頭君と二人で戦っても負けたと言っていたし、彼女の守りとでも伝えておくか。


 新しい配下だ。メディアの盾になってもらう。


「私の盾ですか?」


 ああ、実力は問題ない。


「まさか、レクサス様が私の盾となる者を用意してくれるとはおもいませんでした。ありがとうございます」


 盾となる者を用意してくれるとは思わなかった、か。俺はそんな風に見られていたのか。

 …とにかく、この石も渡しておくとしよう。


 好きに使ってくれ。


 手に持った石をメディアに向かって差し出す。


「この石は…あの、レクサス様。この石はいったいどこで手に入れた物なのですか?」


 攻めてきた連中がいただろう。あいつらの拠点跡で手に入れた物だ。


「なるほど…では、ありがたく使わせてもらいます」


『嫌がってませんね』


(ただの石にしか見えんが…娘にとっては、そうではないのかもしれんな)


 聞いてみるか。


 メディア、この石は特別なものなのか?


「…そうですね。特別と言えば特別です」


 何と言うか、引っかかる言い方だな。


「…詳しく説明しましょうか?」


 簡単に説明できないのだろうか?


「簡単に言ってしまえば、この石…炎石と言うのですが、これ自体は珍しいものではありません。ただ、この色に燃えている炎石は珍しいのです」


 これは、簡単なのか?


(…詳しく聞いておけ)


『ですね』


 もう一度詳しく頼む。


「分かりました。…この炎石ですが、先ほど言ったように珍しい物ではありません。物自体は、魔族の装飾品や明かりなどで一般的に使われているものです」


『魔族はこれを一般的に使っているのですか。私は初めて見た物だと言うのに、あちらでは一般的…面白いものですね』


「ですが、紫に燃える炎石はかなり珍しいのです。私も本物は初めて見ましたが…聞くところによれば紫の炎石は力の象徴だとか、鉄の王と呼ばれている魔族の象徴だとか言われていますね。他にも高貴さの証だ、なんて意味もあります。送られて悲しむような類のものではありません」


 高貴さの証とは…魔族の間ではそんな意味があるのか。しかし、また鉄の王の名前がでたな。


 魔族の間ではそんなに有名なのか?


「有名です。魔族の中でも最強との呼び声もある実力者ですから。ただ…」


 ただ?


「…ただ、それを望んでいない者が多いのも…間違いないのです。本人から名乗り出した訳ではないのですが、やはり【最強】と呼ばれる者がいるのなら倒したくなるのが魔族ですから」


 だが、誰も倒せなかったから最強なんじゃないのか?


「ええ、その通りです」


 本当に挑んだのか…俺としては、別に誰が最強だと言われても関係ないと思うが。


(まあ、目に見えない最強と目に見える最強では重さが違うからな。不満に思う者も出てくるだろう。当然、目に見える最強を欲しがる者もな)


 そんなものか。


(メディアも言っていたが、魔族とはそういうものだ。あまり深く考えても仕方がないぞ?)


 やはり、分からないものだ。

 何の目的もなく最強と呼ばれる者に戦いを挑むなんて、正気とは思えない。…いや、違うな。最強と呼ばれたいがために最強と呼ばれる者に挑むのか。

 なんともまあ、熱い連中である。


(挑んでみるか?)


 アリエルは、そう茶化すように聞いてきたが…やめておこう。最強と呼ばれる者に挑むなど、危険すぎる。それに…例え勝ったとして得る物が最強の称号だけなど…さすがに嫌だ。

 だいたい、鉄の王の象徴と言われる石があんなにまずいのだ。俺が欲しがるようなものがあるとは思えない。


 それにそもそも、鉄の王がどこに居るか分からないだろう。


「鉄の王は、今は竜の坑道と呼ばれる場所に居を構えていると聞いたことがあります」


(竜の坑道だと?)


 竜と言う呼び名にアリエルが反応する。どうやら気になるようだ。まあ、ここまで聞いたことだし聞いてみるとするか。


 竜の坑道とは、何だ?


「私は行ったことがありませんから、聞いた話になるのですが…坑道内には、竜の血のように濃い魔力が含まれた溶岩が流れていると聞きました。その場所自体が迷宮でもあり、まるで竜の体内のようであるとか…いろいろな話を聞きます。どこにあるかは…申し訳ないのですが、分かりません」


 …なんだか、だんだん話が大きくなってきたな。

 これ以上聞けばアリエルが騒ぎ出すかもしれないし、そろそろ聞くのはやめておくか。


(レクサス、竜の坑道と言う場所に行かないか?)


 やっぱりこうなったか。まあ、行かないがな。


 行く意味がないだろう。


(……鉄の王だぞ?戦いたいと思わないのか?)


 思わん。戦う意味がない。


(意味があれば戦うのか?)


 意味があればな。まあ、俺が手を出すつもりはないから、関わり合いになることはないだろう。


 それに、なんだかんだと言っても鉄の王は魔族だ。対してアリエルは竜。

 力も戻ってきているという話だし、戦いになってもなんとかなるだろう。


『レクサスさん、変な約束はしない方がいいと思いますが…』


 まあ、これからも魔族の迷宮に行くつもりだからな。何がどうなるか分からないし、少しぐらいはいいだろう。


「レクサス様は、魔族の迷宮を攻めるつもりなのですか?」


 そのつもりだ。今回のことで、跡地を探しても欲しいものは見つからないことが分かったからな。


 珍しい物も、戦力になりそうな者も跡地では見つからない。ならば当然、跡地でない場所に行くしかないだろう。


「そうですか…」


 何か問題があるのか?


「問題…になるのでしょうか。私は、魔族がどこに迷宮を作っているのか知らないので、場所についての助言はできないんです」


(娘も知らんのか…しかしそうなると、地道に探すしかないか?)


『ロウさんに聞いてみてはどうですか?珍品を売っている言うことは、そう言うものがある場所を知っている、ということと同じだと思います。魔族の迷宮の場所は分からなくとも、有益な情報が得られるかもしれません』


 そう言われると、確かにそうだな。だが、そう簡単に金になる話を教えてくれるか?


『レクサスさんは十分金を払ってますよ。あれだけの金額を簡単に出すような相手ですから、致命的な無茶でなければ聞いてくれるはずです』


 そんなものか。


『そんなものです。それに、金ならあるんですから、適当に金を払えば大体の問題は解決しますよ。あそこは、そう言う場所ですから』


 たしかにそうだったな。

 久しぶりに…と言うわけでもないが、ロウの所に寄ってみるか。


 魔族の迷宮を目指していたというのに、人間の街に行くことになった。遠回りをしている気がするが、当てがないのだし仕方ないだろう。






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