石の神殿
誤字修正しました1/8
なんとかなったが…本気で死ぬかと思った。
動かなくなった巨人を見降ろしながら、心の底からそう思う。これほどまでに危険だと感じたのはこいつが初めてだ。
(ふむ…弱いな)
………は?
アリエルは、何を言っているのだろうか?弱い?誰が?……まさか、こいつがか?
『あの、アリエルさん。弱いというのは、一体誰のことですか?』
(こいつだ。力にしか興味のない魔族の中でも最強と名高い鉄の王の守護者が、この程度など…どう考えてもありえない)
いや、十分強かっただろ。大体、なんなんだ、こいつの馬鹿力は。
(確かに、力は並みではなかった。そこは認めよう)
そうだろう。
(だが、魔術は使っていない)
『確かに、魔術らしきものは使っていなかったですね』
魔術のことはよく分からないが、こいつは魔術など使わなくとも十分に強かったじゃないか。
それにそもそもの話、あれだけの力があるなら魔術なんて必要ないだろ。
(それは人間の話だろう。魔族で上位の強さを手に入れようと思えば、魔術は絶対に必要だ。……と言うよりも、魔族は生まれながらにして魔を操るすべを持つ人型の存在の総称…だったか? そう名付け、定義したのは人間だろう。この定義は間違っていない。そして、それが間違っていないのならば、魔族は生まれながらにして魔術か、それに近いものを自在に操ることができるのは、当然のことになるのではないか?)
そう言えば、そうだった。
魔族は、魔を操るすべを持っているからこそ魔族なのだ。魔を操るすべを持っていないのなら、この巨人は魔族ではなく、文字道理ただの巨人と言うことになってしまう。
だがここは、魔族最強の鉄の王が作った神殿だ。
そこの守護者を務めるものが、魔族以外であるなどありえない。
『では、この巨人は魔族ではないのですか?』
(おそらくだが、魔族ではないだろうな。ただ、だからこそ分からん。何故、魔族でないものがここの守護者などやっているのか…)
そう言い、アリエルは何かを考えるように黙り込んでしまう。
…まあ、ここがよく分からない場所だと言うのは分かった。そしてアリエルは、そこが気になるらしい。…まあ、よく分からないこと自体は、考えなくてもいいだろう。
どうせ分からないのだ。考えるよりも先に進むことを優先したほうがいいに決まっている。
とにかく先に進む前に、この巨人を配下にしておくか。
巨人の着ていた鎧に近付き、鎧の中身を取り出そうとして、気づいた。
この鎧、繋ぎ目がないのだ。
体を動かすために必要な関節部ですら、隙間らしい隙間はほとんど存在しておらず、見方によっては固定されているようも見える。鎧の胴体部分は、文字道理の意味で体そのものを覆っており、外し方が分からない。…この巨人は、どうやってこの鎧を着たのだろうか?
『これでは外せそうにないですね』
そうだな。
(…レクサス、この鎧の胸の部分を壊してみろ)
確かに中を取りだしたいが、壊す必要はあるのか?
(私の考えが当たっていればだが、そうしなければ中を見ることはできない)
何か思い当たった物でもあったのだろうか?
『せっかく、ほとんど無傷の状態で手に入った鎧を壊すんですか?』
そう言ったアリエルの言葉に、ジズドは不満のようだ。ジズドがアリエルに何か言うのは珍しい光景だが、同じ鎧同士だし通じるものでもあったのだろう。
(なら首でも落とすか?それでもいいが、そちらの方が傷み方は激しくなると思うがな)
…アリエルは、絶対にやる気のようだ。
俺もこの鎧が珍しいものだと言うことが分かるので、壊したくはないというジズドの言うことも理解できる。だが…今回は、俺としても中身を確認したい。
ここに来た目的も戦力を増やすためであったし、鎧だけ無傷で手に入れても意味がない。
『…分かりました』
ジズドは一応納得してくれたようだ。……まあ、嫌がったとしてもやったわけだが。
巨人の鎧を仰向けにしてから剣を取り出す。
先の戦いの時に感じた硬さであるならば、全力で振りおろさなければ斬ることができないと判断し、鎧の胸目掛けて剣を振り下ろした。
そうして振り下ろした剣は、なんの抵抗も示すことなく、あっさりと巨人の鎧を両断した。鎧の中から覗く空洞には骨らしきものは何もなく、それどころか人が入れるような空間すら存在していない。
…
『…』
(…やはりか)
俺とジズドは言葉を失い、アリエルのみが納得したかのように言葉を発する。
先ほどまで凄まじい硬さを誇っていた鎧が、どうしてこんなにあっさりと切ることができたのか、まったく意味が分からない。
そして、中身がないということの理由も分からない。
(この巨人…いや、鎧は…娘が使っている擬似生命に近いものだ)
どういうことだ?
(娘も言っていたと思うが…擬似生命というのは擬似的な命を何かに吹き込み、命を吹き込んだそれが、生きているかのように見せる技術だ。当然、言葉にするほど簡単な術ではないし、命を吹き込もうとする物に対する適性にも左右される。その条件を満たしたとしても、魔力を吹き込みやすいものを見つけなければ、まともな命は作れない)
『つまりこの鎧は、メディアさんよりも遥かに優れている術者が作りだした、ここを守る守護者と言うことでしょうか?』
要するに、この鎧に命を吹き込んだ何者かがすごいと言うことか?そして、魔術で作った擬似生命だから死体がないため配下にはできない、と。
ならこの鎧と盾と斧は、死者の都に持ち帰らせてさっさと先に進んだ方がいいだろう。
そう判断していつものように死霊兵を呼び出し、戦利品を持ちかえらせようとする。だが、鎧も盾も斧も全てが凄まじい重量であったため、簡単に持ち帰らせることはできなかった。
仕方ないので鬼と鏡の悪魔、筆頭君たちを呼び出し、鬼に盾を持たせ、鏡の悪魔には切ってしまった鎧の下半身に憑依させて動かしてもらい、筆頭君には斧を持たせ、残った上半身は死霊兵に持たせることで、それぞれを別々に持ちかえらせることにした。
鬼が一人で、あの壁のような大盾を持ち上げることができたことにも驚いたが、筆頭が斧を持ち帰ることができたことにも驚いた。
持ち帰ったあとは、城の宝物庫にでも置いておくように伝える。とりあえずの整理としてはこれで十分だろう。
巨人がいた方にあった扉を潜り、さらに奥へと足を進める。
通路は変わらず一本道であり、明かりとして壁に存在している紫の炎も消えることなく燃え続けている。そんな、入ってきた通路と何も変わらない場所を、ただただ奥へと進み続けた。
だが、奥へと進むための物であろうこの通路は、意外なほど短かいものだった。
しばらく進んだだけで巨大な部屋に出た。
部屋の奥の中心部分には凄まじく巨大な玉座が存在しており、その中心の玉座を守るように玉座の左右には、中心の玉座よりも小さく地味な玉座…のようなものが存在している。腰かけのようにも見えるのだが、作りは中心の玉座に近いのでおそらく玉座なのだろう。
右側の玉座には、先ほどの広場で戦った巨人が着ていた物と同じ形をした鎧が存在しており、中心の玉座の右側を守るように堂々と腰かけていた。その反対側である左側の玉座には何もないが、巨人が腰掛けるのにちょうどよい玉座が存在している。
おそらく先ほど広場で戦った鎧は、左側にいたやつだったのだろう。
だが、その鎧以外に目を引くようなものは何もない。
右の小さな玉座には巨人のような鎧が腰掛けているが、それだけだ。中心の玉座には何も座っていないし、通路もここで終わっている。つまり、これ以上奥があるわけではない。
『あの鎧以外は何もないようですね』
そうだな。
(玉座の裏はどうだ?)
玉座の裏か。確かに玉座の裏は、ここからでは見ることができない。何かがある可能性はあるだろう。
アリエルの言葉の通りに玉座の裏に回ってみる。
玉座の裏にはやはりというべきか、目を引くものは何もなかった。玉座の裏側には傷がついているようだが、それだけだ。
まあ、その傷がずいぶん目を引くわけだがな。巨大な玉座の裏側に刻まれた大量の傷を見てしまえば、この玉座はとてもまともな物には見えない。作り直せと言われても仕方がないだろうと思えるほどの量の傷が存在していた。
『アリエルさん、玉座に書かれているこの文字は、何と書いているのですか?』
(軽く読んでみたが、これはこの場所を作ったやつが刻んだ日記のようだな)
これ、文字だったのか…ただの傷だと思った。
しかし魔族の日記か、面白いことが書いているんじゃないのか?
(日記だぞ?大したことは書いてないだろうが、それでも聞くか?)
頼む。
(まあ、分かった、では読むぞ…)
(…敬愛する我が主が赤銅の山を出て長い時がたった。我が主が新たに発見したあの場所は、すでにここを超える規模の拠点となっているらしい。我が友からその知らせを聞くたびに、私は喜びと悲しみを混ぜ合わせたような気持を覚えてしまう。…赤銅の山が、すでに主にとって無用の物であることは、理解している。迷宮ではないこの場所の鉱石が掘りつくされた今では、我が主にとってここは、過去の拠点と言うもの以上の思いはないのだろう。事実としてそうであるし、迷宮でないが故に新たな資源も当てにできないのだから、仕方がないことだとは思う)
(まあ、まずはこんなものだ。ここまでは文句だけのようだな)
そうみたいだな。
しかし、敬愛する我が主、などと言いながら不満はあるんだな。長く住んだ場所を手放すのが嫌なのは理解できるのだが、主に対する文句をここに書くのはいいのかと思ってしまう。
(ここからは私も読んでいない…続きを読むぞ?)
ああ。
(…私は、ここに残る最後の鉱石を使い、巨人の像を作った。どうせここの鉱石を使うものなどもういないのだからと開き直り、残った鉱石を全て使い最高の物を仕上げたつもりだ。大盾は我が主を守れるように大きく、戦斧はどんな敵でも斬り伏せることができるように硬く作った。…だが私には、誰も使わない物を作り上げたと言う虚しさだけが残った。…私が今まで作った物の中で最高である自信はあるが、誰も振るうことのない作品。だからこそ私は、この作品が、寂れてしまった赤銅の山の象徴であるように感じてしまうのだ)
『これ、かなり重要な話じゃないんですか?』
(そうか?)
そうなのか?
『そうですよ!この文章には、はっきりとあの鎧が作品って書かれてるじゃないですか!』
(確かにそうだが、あの鎧が擬似生命を入れたものだと言うことは、すでに分かっていることだろう?この文を書いたものが作ったということが、今分かったというだけの話だ)
『違います!…いいですか?この文には、作品が使われないって何度も書かれています。ですが、私たちはあの鎧に襲われました。使われないと書かれているはずの作品が、何故か私たちに襲いかかってきている。これは、さすがにおかしいでしょう?』
言われてみると、確かにおかしい気がする。
しかしそんなことを言い出せばこの文の最初には、作られたのは像と書かれている。鎧を作ったなどとは書いていない。
俺たちに襲いかかってきたものは、関節にもほとんど隙間がなかったとはいえ動く鎧だった。おかしいと言うなら、最初の部分からすでにおかしい。
『…なるほど、それですよ!同じものを作ったなら、残っている鎧を調べたらいいじゃないですか!』
そうジズドが言っているのだが、俺は日記の続きが気になった。
どうせあの鎧も持って帰るつもりだったし、その時に調べようじゃないか。
『…分かりました。ですが、絶対に調べてくださいよ?』
ああ、分かった。…だがまあ、おかしい部分があったとしても、何がどうおかしいかなんて分からない気はするがな。まあ、それでジズドの気が晴れるならなんでもいいわけだが。とにかくアリエル、続きを頼む。
(たしかに、あの文をどう捉えようとも鎧が動き出した理由など私たちには分からんからな。鏡の悪魔が乗り移った、と言った方がまだ納得できそうだ)
『なるほど、そう言った理由で動いているということも考えられるということですか…』
(…読むぞ?)
ああ、頼む。
(…ついに、私もここを離れることになった。向こうの拠点で、新たな仕事を任せてもらうことになったからだ。…その事には、何の不満もない。ただ、この場所を本格的に放棄することになったことに対して、思っていた以上に衝撃を受けたのも事実だ。私は、この場所によほどの愛着があったらしい。…私の願いと言うこともあり、この拠点は記念としてそのままの形で残してもらうことができた。…しかしやはりというべきか、像はここに置いていくことになった。…この拠点の入口は封鎖し、赤銅の山は我が主の配下の一人に譲られることになったらしい。まだ若いが多くの配下を持つものらしく、我が主も目を懸けている。そのようなものに譲られるのであれば、私としても不満はない)
終わりか?
(ああ)
これつまり、この最後の部分に出てきた若い魔族というのが、以前戦った魔族の大群を率いていたということだろうか?
(まあ、そうなるだろうな)
なるほど。…しかし、ジズドが騒いでいたが面白いものでもなかったな。
さっさと鎧を調べてから回収してしまうか。
『待ってください』
鎧を回収してここから出ようと思った瞬間、ジズドから声がかかる。
『動く鎧のことは、まあいいです。ですが、紫の炎のことが何も分かっていません。やはり、もっと本格的に調べましょう』
ジズドはそう言うが、見た感じではこれ以上調べる場所はないのだが…
『まだこの建物の内部しか調べていません。しかも、簡単に見ると言う調べ方しかしていない』
(まあ、そうだな)
だが、この日記には何もないと書いているじゃないか。
『よく考えれば、それがおかしいんです。放棄した拠点であれば、なぜ入口を塞ぐ必要があるんです?後任がいるのであれば、再利用すべきでしょう。それに、鎧が動いた理由も書かれていない。しかもこの日記は、玉座の裏と言う少し探せば簡単に見つかる場所に書かれている。私から言わせてもらえば、この日記はまるで、見つかることが前提のような隠し方をしているように感じます』
まあ、もう一度この場所を調べたい理由は分かった。急いでいるわけではないし、面倒だがもう一度調べてみるとするか。
長くなりそうなので一回切りました。
本格的な探索は次回です。
ご意見、ご感想、誤字脱字など気軽にご報告してくれるとありがたいです




