石の門
遅くなりました。
1/1 メディアとジズドのやり取りを修正しました。
以前はメディアとジズドが難しい話をしていた、として軽く流してしまいました。
修正後は、両者のやり取りを書き、長い話なので主人公が思考停止した、という経緯を書いています。
メディアとの連絡を取る方法なのだが、メディアが作った氷を俺が持ち、連絡を取りたい時はその氷を溶かすという方法を取ることになった。
氷が溶けるのは、すぐに俺が戻らないといけないような問題が起こったという合図らしい。
この、遠距離での連絡の話だが、ジズドとメディアが何やらよく分からない話をしていたのだが、結局どうにもならなかった。
難しい話ではあったのが、簡単に言ってしまえば、メディアが遠距離での連絡は難しいと言い、ジズドが本当に無理なのか、何故無理なのかを聞くという流れになった。
メディアとジズドが…
「そもそも遠距離でのやり取りと言うのは、なんらかの繋がりが必要です。ならば当然、私か、死者の都そのものと繋がらなくてはなりません。…もちろん、私には配下としての繋がりはあります。ですが、それは従うための繋がりであるため、連絡を取るための繋がりとは別の話になります」
『ならば、何か別のものに繋がりを持たせ、それを持っておけばいいのではないですか?』
ならば、別の何かを用意して、それを連絡用として分けておけばいいのではないか?
「そうなると、その何かは、連絡を取るために持った繋がりを受けるための強さ…つまるところ、魔力や術を組み込むための入れ物としての性能になるのですが、それがかなりの物でなければ釣り合いません。」
『鏡の悪魔が作った鉄でも、不可能と言うことでしょうか?』
鏡の悪魔が作った鉄でも不可能なのか?
「いえ、可能です。それと、レクサス様はどうやら勘違いをしているようですが、近場での連絡ならばそんな物がなくともやろうと思えば問題なく行えます。ただ、レクサス様がどれほど遠くに行くのか分からない以上は、とっさに、確実に使えると言い切れるもの以外は使用しない方が妥当かと思います。連絡しようと思えば連絡がつかない、などとなれば最悪の場合、死者の都は落とされるわけですから」
『なるほど。』
それはまずいな。
俺に連絡を取るはずの物だというのに、それでは全く役に立たないではないか。
「一応、私が作った氷の動物をレクサス様が連れて行ってくれるのなら、私がレクサス様の近況を一方的に知ることならば可能です。相互でのやり取りができない以上、欠陥品でしかないですが」
『それ以上に、擬似生命の氷の動物なんて連れていたら面倒ですね。腕のいい魔術師と勘違いされたら、それだけで警戒されそうです。となると、そのあたりのことも考えて…』
………思い出しただけで頭が痛くなるが、俺が理解できたのはここまでだった。
その後も、動物がだめなら武具ならどうだだの、命は生き物の形にしか宿らせることはできない、少なくとも、私はできない。確実でないなら、定期的に連絡してくれる方が安全だ。などといった意見が何度か飛び交い、最終的に氷を溶かすという合図が緊急用の連絡になったというわけだ。
…まあ、そんなことはどうでもいいだろう。今からどうするかの方が重要なのだから。
連絡手段を決め、死者の都のことはメディアに任せたため、こうして好きに動くことができるわけなのだが…こうして死者の都を出た瞬間に、俺はある問題に突き当たってしまった。
目的地がない。
最初こそ死者の都の戦力を増やそうと思っていたわけだが、数を揃えると言った面での問題はメディアに任せてしまった。
ならば必然的に、俺が行わなければならないのは筆頭君に匹敵する個の戦力の獲得だ。言ってしまえば強いものの獲得なのだが…俺は、強さの基準というものが分からなかった。
筆頭君は強い。鬼も強い。メディアも強い。俺だって強い。それぐらいのことであれば分かる。
だが、筆頭君のどこかどう強いのか?と問われると首を傾げてしまう。
鬼のように、分かりやすく力が強いわけでもない。メディアのように難しい魔術を扱うわけでも、何か有用な助言をくれたわけでもない。
言ってしまえば、筆頭君の強さは見ることができないものだ。だが、筆頭君の強さは戦っている姿を見ればすぐにでも理解できる。つまるところ、筆頭君の強さと言うのは、俺にとっては戦うまでは分からない類の強さなのだ。
炎帝と戦闘になった際にそうであったように、俺は、強さを肌で感じると言うことができない。分かりやすい形を持った強さを見るまで、相手の強弱に気づくことができない。
だからこそ一度戦闘をするくらいしか相手の強さを判断できないのだが、そうなってくると、俺は、目に映る存在すべてに戦いを挑まなければいけないことになってしまう。それは流石に面倒だし、無駄な敵を作ることに繋がる。
…やはりここは、アリエルの頼るべきか。
だがアリエルは、俺のそんな考えなど理解できているという風に自然に俺の行く道を告げてくれた。
(……何を迷っているのかは知らんが、戦力が欲しいのだろう?ならば手っ取り早く、この近くに住む魔族の迷宮を襲えばどうだ?)
魔族の住む迷宮?何だそれは?
(人間も迷宮都市と呼ばれる街を持っているだろう。あれと同じようなものだ)
『そんな場所があったのですか』
魔族の作った迷宮都市か。戦力がどうだと言うのを抜きにしても、面白そうだ。
だが、そんな場所を知っていたのなら、こんなことになる前に教えてくれていればよかったと思ってしまう。今のように面倒に巻き込まれる前ならば、ゆっくり見に行くこともできただろう。
(教えただろう。娘が住んでいた氷の世界。迷宮核こそなかったが、あそこも迷宮のようなものだろう)
メディアのいた場所が魔族の住む迷宮と同じだったのか。
アリエルの言葉を聞き、納得しかけて別の疑問が浮かび上がる。
俺は今、個の戦力を手に入れるためにはどうするか、という話をしていたはずだ。そして、その答えとしてアリエルは、魔族の住んだ迷宮を襲えばいいという話を出した。ならば当然、迷宮に住んでいる魔族を個の戦力として考えているはずだ。
…だがそうなると…迷宮に住んでいる魔族と言うのは、アリエルから見ても個の戦力として機能している存在と言うことになるのではないだろうか?
(当然だろう)
メディアは氷の女王と呼ばれていたはずだが、そのメディアを筆頭君ごと圧倒した四腕の魔族。
そしてメディアと同じように、迷宮に住む魔族の話。
…なるほど、さすがはアリエルだ。四腕の魔族に対抗するために、メディアと互角の存在を増やすということか。
メディアの時がそうであったように、魔族が住んでいる場所には興味がある。
それに、どうせ当てがないのだ。行ってみるのもありだろう。
『魔族の迷宮ですか。メディアさんの時のように、いろいろと得るものがあるかもしれませんから是非私も行ってみたいのですが、迷宮の場所が分からないのではないですか?』
(魔族の連中があれほど大群でこちらに来ていたということは、このあたりに向こう側に繋がっている入口のようなものがあるはずだ。それを探し出してしまえば、向こうへの移動は問題ないだろう。まずは…あちらだな)
こういったことは、本当に頼りになるやつである。俺はアリエルの言葉に従い足を進めた。
(ここだな)
アリエルの言葉に従い向かった先は、特に何かが変わったわけでもない森の一部だった。俺には何の変哲もない森に見えるが、アリエルにはどう見えているのか。
『何が違うのか、全く分かりませんね』
(かなりの大人数で通ったせいか、空間が緩い。…しかもよく見れば、向こう側が透けて見えるな。何とも雑なものだな。)
空間が緩いとは、ずいぶんわけのわからない言葉が出てきたものだ。そもそも俺には、空間が緩いという感覚が理解できない。
アリエルに言われた場所を注意深く観察してみるが、どれだけ見ても見えるのは何の変哲もない森だけだ。特に魔力が溜まっているというわけでも、少ないというわけでもない。
『…やはり、何が違うのか分かりません』
ジズドも分かっていないようだ。アリエルしか分からない違いがあるようだな。
まあ、そんなもの、ここを通れるならなんでもいいわけだがな。
(すぐ通れるようにする、少し待て)
アリエルがそういいしばらく経つと、門を開いた時とは違った歪みが現れた。
門は薄らと空間が歪んでいるだけであったが、今目の前にある歪みは正真正銘空間そのものが歪んでいる様に見える、強烈な歪みだ。
森の中にあるはずの歪みの向こう側は、周りにある風景からはかけ離れたごつごつした岩場の中にある神殿のような場所だった。
岩場の中にありながら神殿に使われている素材は綺麗に切り揃えられ、積み上げられており、その様子が、ただの岩を無骨でありながら美しさすら感じられる不思議ななにかへと変えているように見えた。
歪みの向こう側に生き物の影らしきものはないが、神殿に灯った紫の炎が、炎を灯している主が健在であることを激しく主張しているかのようだ。
(…行けるぞ)
アリエルがそう口にすると、期待に胸を膨らませながら、俺は歪みの向こうへと足を踏み出した。
歪みを潜ると、周りの景色が一瞬で変化した。
命溢れた森の中から一転し、生きることそのものが過酷な試練に変化してしまうような火山地帯へと、周りの風景が変化する。
後ろを振り向くと通ってきた歪みは消えており、草の生えていない赤茶色に焦げた大地が続いているだけであった。
『ここは、火山でしょうか?』
(いや、もっと面白い場所だ)
面白い場所?
(従える配下も、掘り起こされる鉱石も質、量共に最高。支配する領域も広く、魔族最強と名高い鉄の王が住む赤い火山、赤銅の山。ここへの行き方すら誰も分からない、そんな場所だ。まさか、向こうから入口を開いてくれるとはな)
アリエルの口調は、隠しきれない程に興奮しているというのが分かるものだった。どうやら、かなりすごい場所のようだ。
『赤銅の山ですか。聞いたこともないですね』
(だろうな。私たち竜ですら、ほとんど知らないのだ。人間にこの話が伝わっているとは思えない)
竜でも分かっていないのか。
(ああ。だが、だからこそ面白い。すぐ調べるぞ。まずは目の前の神殿の中だな)
アリエルの頭の中からは、ここが魔族の領域だとか、戦力を増やすためにここに来たという考えは吹き飛んでいるようだ。
まあ、俺も気になるし、面白そうだと言うのは間違いない。すぐに調べてみよう。
アリエルに門を開いてもらうつもりだったので、帰り道のことは気にならない。俺は、無くなってしまった森への帰り道など欠片も気にせずに、立派な作りの神殿へと足を向けた。
石造りの神殿の門は、当然のように石であった。
一体どこから持って来たのかと言いたくなるような巨大な石の門は、扉の形になっていなければそこが扉だと気付くこともできないだろう。それほどに違和感と言うものがなく、城壁との区別がつかないものであった。
(ふむ?)
だが、その石の門を見たアリエルは疑問の声を上げる。
どうした?
(いや…なんでもない)
なんでもないなら、いいか。
とにかく今考えなければいけないのは、この石の門をどうやって動かすかだな。穴を空けてもいいのだが、せっかく綺麗な門なのだ。残せるのなら残しておきたい。
さて、どうやって入るか。
(こういう物は、鍵になる何かがあればあっさり開くはずだ)
その鍵とやらが何か分かっているなら、こうして門の前で悩まなくて済むんだがな。
『壁に穴を開けてはだめなんですか?』
せっかく綺麗なまま残っているのに、わざわざ壊すことはないだろう。
(その通りだ)
珍しくアリエルの意見がまともである。どうやらこの神殿…もっと言えば、赤銅の山を調べてみたいと言うのは本当の話のようだ。
『なら、どうやって入るつもりなんですか?』
…今考えてる。
(私に任せろ)
アリエルに任せる?任せるのは別にいいが、アリエルに任せてしまえば門を破壊してしまうのではないか?
(お前は私を何だと思っているのだ。まあ、見ていろ)
アリエルが俺にそう告げると、透明に近い青色をした水でできた水が現れ、流れる川のよう量を増やし、ゆっくりと確実に門へと向かっていく。
水はゆっくりとした速度のまま門にぶつかると、しみ込むように石同士の間や地面と門の間であろう空間に消えていく。最終的に水は、門と俺の間に雨が降った後の水溜りのような形で溜まった程度しか残らなかった。
これがなんだと言うのだろうか?
(さて、行くか)
アリエルがそう言った瞬間、足元に溜まっていた水に足が沈みこんだ。そしてそのまま、アリエルに何をやったのか聞く前に体全体が水に沈む。だが、沈んだと感じたのは本当に一瞬であった。
何か言う前に水に沈み、考える暇もなかった。
だが俺は、先ほどとは別の場所に居ることだけは理解できた。周りにあるのが岩ではなく切り揃えられた石であるのなら、誰でも今いる水溜まりが先ほどの水溜りと同じ場所ではないというのを理解できるだろう。
何が起こった?
(水を利用した転移だ。難しいものでもないが、こういうときには役に立つからな)
一言言ってから使えよ。
(さっさと神殿の中に入りたかったもので、ついつい急いでしまった)
驚いただけだから、別にかまわないがな。
まあ、中に入れたのだからなんでもいいだろう。さっさと中を調べるか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それは、久方ぶりの来客だった。
外に向かうために設置しておいた大型の転移門の術式を引きちぎりながら現れたそれは、感じたこともない強者の波動だ。
その巨大な波動を受け、今まで感じたことのない何とも言えない思いが胸を駆け巡る。
来客は長く開いていない門を、開けることなく中に入ってきた。
それだけでも並みの技でないというのが分かるのだが、来客の左腕に纏っている巨大な魔力を持つ使い魔であろう何かの存在に、再度驚かされる。使い魔の魔力ですら間違いなく男を超えているであろう、強大な魔力。
いいかげんに我慢が出来なくなったのか、巨大な魔力に反応したように、玉座に腰かけていた巨体が立ち上がり、錆び着いた鉄が軋みを上げるような音を上げ、のろのろと動きだした。
玉座の左右に突き立てられた巨大な盾と戦斧を地面から抜き放ち、出口に向かい歩きだす。
巨大な盾と戦斧を持ったことにより、さらに重量を増した巨体に床が悲鳴を上げている。
重さに耐えることができないと鳴く床を無視し、巨体は一歩ずつ玉座から遠ざかっていった。
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