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迷宮の王をめざして  作者: 健康な人
一章・鉄の王編
38/72

鏡の悪魔

修正しました  1/1

 メディアは、もう目を覚ましただろうか?


 彼女を運び込んだ廃墟を目指しながら、俺はそんなことを考えていた。

 盗賊のような…生前の俺のような真似をした二人組のことは、すでにどうでもよくなっていた。それほどに、あの二人組が奪っていった物は俺にとってはどうでもいいものだったからだ。…いや、そうじゃないのかもしれない。

 竜牙兵の壁や俺の姿を見た瞬間の転移など、彼女らの必死さを見た後であれば、あれくらいの物であれば持って行ってもいいと言えるほどには、今の俺に余裕があったと思うべきなのか。


 彼女らが行った行為は俺にとって、中身が詰まっていると思い美しい宝石箱を持って行ったことに等しい。しかもその行為は、宝石箱の中に入っているはずの宝石がないことを知らないまま行われたのだ。…まあ、ジズドの話では、彼女が欲しかったのは宝石箱であり宝石ではない。結局のところ、必死になる必要はないということだ。






 死者の都に戻ってきた時にメディアが倒れていた場所まで戻ると、彼女がこちらに向かって歩いて来ていた。どうやらメディアも筆頭君を連れてこちらに向かっていたようだ。

 俺が見ていた間は倒れていたのだから、起きてからそう時間は経っていないはずだ。…歩いても大丈夫なのだろうかと言うことに疑問が残ってしまう。


 体は大丈夫なのだろうか?


「はい、体は問題ありません」


 大丈夫そうで何よりである。だが、体に問題がないなら、何故倒れていたのかが気になる。大きな怪我も無かったように見えたから、ただ気を失っていただけなのだろか?しかし、体に問題がないのに倒れこんで眠ってしまうというのもおかしな話だ。


 体に問題がないなら、一体何故倒れていたのだろうか?


「それなのですが…私が相手をした魔族が、かなりの実力者だったのです。戦闘の途中から筆頭と共闘したのですが、それでもなお互角以上に渡り合うほどの強者でして…」


 筆頭とメディアを同時に相手にしても互角以上に戦える相手か。かなりの強さだな。


 いや、アリエルは数人の侵入者と言っていた。おそらくそのすべてが強かったのだろう。


「いえ、死者の都まで侵入してきた魔族は一人だけです。一応、人間の侵入者がならばかなりの数が居たのですが…そちらは無視できるほどの力しか持っていませんでした」


 まさか、一人でメディアと筆頭君を同時に相手にできるやつがいたのか?しかも互角以上とは…どんなやつなんだ。


「腕が四本あるのが特徴的な魔族でした。数こそ一人だったのですが、四本の手をうまく使う相手だったため数の利がほとんどなかったことも苦戦した要因だと思います。…とにかく、その魔族にはどうにか勝利できたのですが、その戦闘の際にかなり疲労してしまいまして…そのまま気を失ったのです」


 メディアは氷の女王と呼ばれていたからかなりの実力だと思っていたが、それ以上に強い魔族だったということか。だが言われてみると、メディアがあれほど規模の大きい攻撃をしたのだから、それ相応に強いということも頷ける。

 しかし、そうなると厄介なことになる。

 俺を数えないのならばだが、死者の都の戦力と呼べるものはメディア、筆頭君、鬼の三人だ。死にはしないが一体ではあまり意味がないであろう死霊兵は、一か所か、多くても二か所に纏めておくのがいいだろうから数え方に困ってしまうため、今回は数えないとしよう。

 ……一応、死霊兵の中でも単体の戦力として数えることができるものも当然存在する。飛竜の死霊兵だ。やつは考えるまでもなく強い。強いのだが…動きが雑すぎる。死者の都で戦えば敵以上にいろいろなものを壊すのは間違いないだろう。強いからこそ戦える場所が限られてくる…迷宮になった死者の都で迎撃できなかったことといい、飛竜の死霊兵といい、結果的に無意味になってしまうことが多すぎる。なにか対策を考えないとな。


 …とにかく、今回の戦いでは俺、鬼、死霊兵が外で迎撃。メディア、筆頭君、残りの死霊兵が守りというものだった。守りのための死霊兵はほとんどが城の中にいたため、侵入した魔族と戦ったのはメディアと筆頭君のみだったのだろう。

 接近戦が得意な筆頭君と魔術に長けたメディア。

 この二人が同時に戦って苦戦した相手が何人もいるとは思いたくないが、一人も居ないという訳はないだろう。ルフ要塞が近くにあると言う問題もある。つまりこれは―


(数を揃えるべきだな)


『迷宮をうまく使うべきです』


(…)


『…』


(娘と筆頭を圧倒するほどの魔族が攻めて来たのなら、死霊兵の数を揃えた方がいいのではないか?)


『私は、彼女と筆頭を圧倒した魔族がいるなら、今あるものをうまく使えるようにしてた方がいいと思います。死霊兵の数を揃えるのは、それからでもいいかと』


 …【場】に入るための条件を変更できるのかどうかをメディアに聞こうと思ったが、どうやら二人は違った答えを出したらしい。


(今いるものをうまく使うとは言うが、何か考えがあるのか?)


『ええ。私は、死者の都に存在する戦力はうまく機能していないと思うんです』


 ほう。


『巨体の飛竜は巨体と言う強みを持っていますが、それ故に守りに向かない。メディアさんの話を聞く限り、鏡の悪魔も役に立っていない』


 …鏡の悪魔か。そう言えば、そんなのもいたな。


『飛竜の問題は大きさというどうしようもないものですから、あまり気にしても仕方ないでしょう。役に立つ時がくれば、間違いなく強力な戦力になるでしょうし。ですが、鏡の悪魔は違う。どの程度のことができるのかも、実力も分からない。レクサスさんの配下でありながら、です』


 確かに、ジズドの言うとおりだ。

 しかし、鏡の悪魔か。配下にしてはいるが、あいつは分からないことだらけだ。初めて会った時も、俺の配下になるとすぐにどこかに行ってしまった。アリエルたちのように話せるわけでもない、メディアのように傍に控えるでもない、筆頭君たちのように呼べば現れるわけでもない。

 …こうして思い返してみると、あいつがいかに役に立っていないのか分かる。


 これは、さっさと見つけて何かやらせるべきだな。


「あの…私は、何をすればいいのでしょうか?」


 メディアの話ではないのだが…。まあ、あえて何かしろと言うなら、傍に控えていればそれでいい。


「分かりました」


 わざわざ傍に控えていなくともいいのだが…まあ、いいか。とにかく、鏡の悪魔を探すとするか。







 鏡の悪魔は以前見た時のぼろぼろの鎧のまま城の中を歩いていたため、すぐに見つけることができた。何かをしているようには見えないが…あれからずっとこんな事をしていたのだろうか?


『…何がしたいんでしょうね?』


 こちらが聞きたいぐらいだ。


 鏡の悪魔はこちらに気がついたのか、目的なく彷徨っているようなふらついている歩みから、こちらを目指して歩くようなしっかりした歩みへと変化した。

 鏡の悪魔は俺の前にで立ち止まると、特に何をするでもなく立ちつくしている。

 お互いが一言も発していないがはずだがこの悪魔は俺に、何か用か?と問いかけているように感じた。


 お前は、何ができる?


 いつも筆頭君にしているように、俺は鏡の悪魔にそう伝えた。

 その言葉に反応したように、鏡の悪魔が宿っている鎧が少しだけ膨らむと、膨らんだそれがすぐさま元の大きさに戻り、再度膨らんだ。

 その様子は金属でありながら、生物のような脈動を湛え、金属で出来ているはずの鎧が体の一部になってしまったかのような印象を俺に与える。その脈動は止まることなく、鎧はさらに数度脈打った。一度脈打つ度にぼろぼろの鎧は修復されていき、新品に見えるほど美しい鈍い金属輝を持った鎧へと変化していく。

 また、何も持っていなかったはずの両手には、いつの間にか鎧の見た目に合うような中型の盾と、衛兵が持つような多少の装飾が施された中型の槍が握られていた。一体どこから取り出したのだろう?


(魔力の物質化か。珍しい技を使うのだな)


 こいつがなにをやったか分かるのか?


(魔力を物質にしただけだ)


 魔力を物質に?


(鎧を覆っていた魔力を固めて見た目を変え、このあたりに満ちている魔力を盾と槍の形にしただけだ)


『魔力の物質化は、相当に高度な技だと聞いたことがあります。この鏡の悪魔は、相応に格の高い悪魔なのではないのですか?』


 俺は魔力の物質化なんてものがあるなんて聞いたのは初めてだが、高度で珍しい技なのか。と言いうか、こいつは格の高い悪魔なのか?格が高ければ、人間の魔術師一人に封印できるとは思えないのだが…。


「…今のは、魔力の物質化でしょうか?」


 そうだ。


「やはりそうですか。レクサス様、魔力の物質化を使えば自由に武具を作れるのでしょうか?」


 そんなことが可能なのか?


(可能だ。ただ、娘がどう思っているのか分からんが、素材が魔力なのに変わりはない。役に立たんときは、全く役に立たんぞ)


 剣も鎧も強力な物を持っているわけだから、役に立たなくても問題ないだろう。鎧はジズドというおそらく最高の鎧を着ているわけだしな。

 ただ、炎帝に吹き飛ばされた兜と外套を作れば、また人間の街に行けるかもしれない。試す価値は十分あるだろう。


 兜と外套を作るよう鏡の悪魔に伝え、魔力の物質化を今度こそ見逃さないように鏡の悪魔を注視する。


 その様子はまるで、何もないはずの空間が突然形を持ったかのようであった。

 鏡の悪魔の右手の周りの空間が歪み、揺らめくようにしながら兜が現れる。最初はほとんど透明であったが、すぐに色が濃くなっていく。透明であったはずのそれは、いつの間にか鈍い光沢を放つ金属へと変化しており誰が見ても兜と答える物になっていた。

 何も知らなければ、空間から兜を引き抜いたようにも見えるその様子は、不可視の魔力を可視できる物へと変化させた証なのだろうか。

 それに続くように外套が現れ、自ら意志を持つかのように勝手に折りたたまれて手に収まる。


 鏡の悪魔はそれらを手渡すために一歩進み、俺はそれらを受け取った。

 俺が無言で兜と外套を受け取ると、鏡の悪魔はどこか満足げな雰囲気を纏いながら一歩下がる。


 この悪魔のことを何も知らなければ、武骨な金属鎧が動いているようにしか見えなかったため、何を考えているのか分からないという警戒心があった。だが、言われたことに反応し、やり遂げたとでもいうように満足そうに佇んでいる今の姿を見た今ならば、こいつは警戒する必要などないのだと言うことが誰に言われるでもなく理解できる。


 何も考えずに渡された外套を羽織り、兜をかぶる。まるで、俺の体に合わせたかのようにぴったりとかぶることにできる兜に驚くと同時に小さな満足感を覚え、以前の外套よりも大きくなったそれは、体を隠すという使い方にふさわしいのだということが理解できた。


「…素晴らしいです」


 この様子を見て、メディアが発した言葉は一言だった。


(他にはなにができる?)


 他に、何ができる?


 メディアと違いアリエルは、これをすごいとは思わなかったらしい。ただこの悪魔が、どんなことができるのかと言うことにのみ興味が注がれているようだ。俺自身も、この悪魔は一体何ができるのかと言うことが気になっていたため、アリエルの言葉を鏡の悪魔にそのまま伝える。


 鏡の悪魔は、その言葉に首を横に振ることで返事をする。どうやら、今使った魔力の物質化でこの悪魔が見せることのできる行動は終わりらしい。


(できることは以前見せた鎧に憑く、魔力の物質化の二つか。鎧にだけ憑くようなものでないなら、こいつは何かに憑くことができると考えるのが妥当だな。本体が魔力体だから、戦闘面は役に立たんだろうが)


 戦闘では役に立たないのか。まあ、こうして兜と外套を用意してくれただけでも十分だろう。これがあれば人間の街に行けるし、何より迷宮都市に出入りできる。金など必要ないのだが、金が珍品になるのは嬉しいものだ。


 だが、戦闘で役に立たないなら戦力として数えることはできないのか。


 そんなことを考えながら、鏡の悪魔の扱いについてどうするべきなのかを考えてみる。

 今のように城の中を徘徊させておき、必要な時だけ会いに行くという扱いでいいような気もするし、鎧以外の何か…筆頭の剣などにでも憑依させておくのがいい気もする。


「レクサス様、戦力として数えることができないなら、鏡の悪魔の扱いは私に任せていただけないでしょうか?」


 ほう?


「レクサス様は死者の都の戦力を増やすつもりなのですよね?」


 わざわざ確認しなくとも、最初からそのつもりだ。


「私は、今回魔族と戦って死者の都は戦力不足だと感じました。ですので、月の木を調べることと同時に、死者の都の戦力を私なりに増やそうと思っています」


 そうか。なら自由にすればいい。


 それに月の木のこともそうだが、俺は、何かをするなと言った覚えはない。害にならないことならば、何をやっても文句を言うつもりはない。


「その方法として私の【場】で行っているように氷の獣を死者の都にも放とうと考えていたのですが、魔力の物質化を使える鏡の悪魔がいれば他にも色々なものを生み出せると思います」


(なるほど。元が魔力でできている物だからこそ、娘の擬似生命創造で影響を与えやすいと言うわけか)


 つまり、鏡の悪魔はメディアに任せる方がいいということか。


「ありがとうございます」


 メディアに礼を言われたが、俺としてもこれはかなりありがたい。

 筆頭君とメディアと鬼。それに加えて、今いる全て死霊兵を置いていけば守りに問題はないだろう。ルフ要塞からの侵攻も石巨人の撃退、炎帝の撃退と続いたため今すぐ攻めて来ることはないはずだ。

 メディアが戦力を増やす方法を考えてくれるなら、俺は自由に動くことができる。メディアが離れている俺に連絡を取る方法を考えなければならないが、それはジズドかアリエルがなんとかしてくれるだろう。







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