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迷宮の王をめざして  作者: 健康な人
一章・鉄の王編
33/72

~侵入者~

修正しました  1/1

「頭、ほんとにやるんですか?」


「今更何言ってんだ?んな当たり前のこと聞くんじゃねぇよ」


 今更分かりきったこと聞いてんじゃねえよこの馬鹿が。ビビってんなら最初っからついて来てんじゃねえよ。


「でも頭、聞いた話じゃ死者の都の悪霊ってのは死なねえんじゃないんですか?」


「だから様子見しましょうってのか?は、馬鹿が。要塞の連中は最初っからそれが狙いなんだよ」


「どういうことです?」


 こいつらはいちいち説明しないと分かんねえのか。


「てめえにも分かりやすく説明してやるとだな、要塞の連中は最初から悪霊を倒すつもりなんてないんだよ。要塞を攻められた時のため、反撃に転じる時のため、そういう人手が必要な時のために死んでも問題ないやつを要塞に集めたかっただけだ。…だいたい、おかしいだろ。悪霊一体倒せば銀貨十枚?なんだそりゃ?たしかに、普通の悪霊一体狩るなんてタダみたいなもんだ。それに比べりゃ一体倒せば銀貨十枚なんて、倒した数にもよるが一生遊んで暮らせる金だって手に入る。だがよ、水竜を倒して一匹丸ごと全部売っちまえば金貨五枚にはなる。水竜の数だこっちの犠牲だってことも考えねえといけねえが、普通に考えりゃどっちの方が儲かるかなんてすぐ分かるだろ」


 この報酬じゃどう考えても銀貨十枚で不死の倒し方を考えろって言われてるのとかわらんだろ。


「でも頭の言う通りなら、なんで俺たちはこんなことしてるんです?」


「そうだな、…お前月の木って知ってるか?」


「そりゃぁ一応は知ってますよ。たしか不老不死の薬を作るのに必要な実をつける木ですよね?それがなんだってんですか?」


「死者の都には月の木があるらしい。それも馬鹿な金持ちが持ってる苗木みたいなもんじゃねぇ、正真正銘ばかでかいやつが、だ。突然現れた不死の悪霊と不老不死の薬を作るのに関係のある木だぜ?こりゃどう考えても無関係じゃねえだろ?」


「それがほんとなら確かにすげぇですが、不老不死になるのに死んだら意味ないじゃないですか。頭、やめときましょうぜ」


「そぉかよ。まあ命は自分のもんだからな、抜けるんなら好きにしていいぜ」


「んじゃ、俺は抜けさせてもらいますぜ」


「おお、勝手にしな。…ただよ、てめえら要塞に戻ってどうするつもりだ?」


「え?」


「分かんねえのか?俺たちがやったのは事情はどうあれ間違いなく戦いだ。負けて帰ったならまだましだが今帰ったらただの敵前逃亡だぞ。そんなことをするようなやつらが要塞まで戻っても、んな無駄飯食らいすぐに叩きだされるぜ?」


 実際はどうなるかなんて分かんねえが…予想の扱いから変わることはまあ、ないだろうな。それに隊長さんは俺たちが本気で戦うつもりがないって気づいてたしな。俺からいわせりゃぁ顔もしらねぇ誰かのために不死の化けものと正面から戦う、なんてそっちの方が正気を疑うわけだが。


「…」


「分かったか?どっちみち要塞を出た時点でやるしかないんだよ」


「…分かりました。ただ、俺らにも月の木の実を食わせてくださいよ?」


「んなめんどくせぇこと言わねえよ。今までと同じで欲しいやつがほしいだけ取ってくればいいじゃねえか。要するに早いもん勝ちだよ」



  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



「どうやら進むようだな」


 俺たちはルフ要塞の一室に集まり馬鹿どもの動き確認している最中である。遠見の魔術で動きを確認しているわけだがこの魔術、初めて見たがかなり便利である。部屋に張っている水に森の中を進む馬鹿どもが映っており、水を通して見る視点も空から見降ろす形になっているのでとても見やすい。


「こいつらなんか話してるみたいだが、声は拾えないのか?」


「無理だな。これはあくまで見るための物だからなそう言ったことはできんらしい。まあ、向こう側に協力する意志があればそれも可能なんだがな」


「へぇ、冗談で聞いたつもりだったんだができるのか」


「それぐらいはな」


 それぐらい、か。相手に気づかれることなく音を拾え姿を見ることができる。この意味ぐらい分かっているやつだとは思うが…何を考えているのか。


「まあ、なんでもいいがよ。…そういや死者の都ってのはどのあたりにあるんだ?」


「ほぼ森の中心だ。森が深くなればなるほど近づいていると思っていい」


「ふぅん。ならよ、こりゃちょっとまずいんじゃねぇのか?」


「どういうことだ?」


「俺が食らうものと戦った時は、て言葉がついちまうがこの森、こんな場所じゃなかったぜ?」


「それは戦った場所が違うだけだろう」


 さすがに何も考えずにものを言いすぎたか。テオとの会話なら説明が要らんからいつもの調子でついついやってしまうな。


「あー、そうじゃなくってだなぁ、なんつうかこう…森自体がおかしいんだよ」


「森自体がおかしい?」


「ああ、あのでかい木の根元を見てみろよ。ありゃ薬苔だ。薬苔ってのは魔力がある場所には生えるがそうじゃない場所には生えないってことは知ってるだろ?俺が森の中に居た間は魔力なんてないただの森だったわけだ、これは間違いない。なのに今は森の中に薬苔が生えてる。こりゃ何かが変わったって考えたほうがいいだろ」


「確かにあれは薬苔のようだが…あんな物、魔力のない場所でも近くに死体でもあれば生えるものだろう?そこまで気にするべきものなのか?」


「あんたらからすればあんま気になんねぇもんなのかもしれねえが、生き残りたいならそう言う小さい変化を見逃さねえほうがいいと思うぞ。変化があるってのは何かが変わったってことだ。どう変わったかは分かんねえが小さい変化で命を落とすやつだって少なくないんだぜ?」


 わざわざ言わないがそういうことで死ぬようなやつはだいたい強い。強いからこそそういう細かいことに気をつけないようになり、結果的につまらないことで死ぬものだ。


「なるほど、実地で生きているからこその言葉か」


「そういうことだ。それにあの薬苔は量的にも最近生えたもんだ、なのに木の周りには何もない」


「つまり変化が起こったのは最近で、その変化は魔力が関係しているということか?」


「たぶんだがな」


 アレックスがなるほどと言う風に頷くと、もうなにも見逃さないというように注意深く視線を森に向ける。

 一方俺はと言うと、その変化をこいつらが確認してくれと思う心と何も起こらないでほしいと思う心が同じだけありアレックスほど必死に森を見ることはできなかった。安全に戦うためには未知がないほうがいい、だが戦う分には未知であった方が面白い。しかし負けてしまえば楽しめない。さて、どこまで見ておくのが一番楽しめるか。

 そんなことを考えているとテオが話しかけてくる。


「…人に危ないことはするなって言っておいて自分の危険は考えないのかい?」


「俺は負けねえからなんでもいいんだよ…て言いてぇとこだが負けたばっかだからな。どこまで見ておけば負けずに戦いを楽しめるか考えてた」


「君も多少は変わったってことか」


「まあな」


「…ほめたわけじゃないんだがね」


 うるせえよ。


「んなことより壁っぽいもんが見えたぜ。テオ、あれが死者の都か?なんか想像してたのと違うもんみてえだ」


 水に映った建造物は雪を被り所々の壁が凍っており、ぼろぼろの壁をその氷によってうまく直しているように見える。森には雪なんて残ってなかったというのに死者の都は凍っているのだ。いくらなんでもこれはおかしいだろう。


「死者の都はただの廃墟だと聞いていた。凍っているなんて私も初めて聞いたよ。アレックスさん、これはどういうことなんですか?」


「私も今知った。少し前まで間違いなくただの廃墟だったはずだ。変わったのならここ最近のはずだ」


 これが森の変化につながったのか?それとも森が変化したから死者の都が変化したのか?それを想像するのはおもしろいが、氷か。どうもあの使い魔を思いだしてしまうな。


「おい、あいつら死者の都に入ったのに見えないぞ」


「どうなっている?」


 すぐにアレックスが近くに居る魔術師に問いただす。


「死者の都にこちらの術を上回る強力な術者が居るか、死者の都自体が見通すことのできない存在になったかのどちらかかと。どちらにしろ今見ることができないなら向こうで何かの変化がないのならこのまま見ることはできません」


 つまり見物はここまでってことか。それ自体はどうでもいいが完全に当てが外れた形になったな。しかし、おかしい。なぜ死者の都に入っても悪霊に襲われないんだ?まるで最初から襲う気がないかのようにさえ感じるが…。


「出てくるかもしれないし少し様子を見るか?」


「それがいいだろう。出てこないようであれば解散だな」


 まあその辺が妥当だろう。だがこれは、しばらくおもしろくない時間を過ごすことになりそうだな。



  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



「死者の都って割には悪霊、居ませんね」


「ああ、もしかすると周りの街に行ってんのかもな。なんにしろやつらがいないのは間違いないんだ、こりゃついてるな。さっさと月の木の実を食っちまうぞ。聞いた話じゃ街の中心の城の裏側にあるはずだ」


 理由がまったく分からんが敵がいないのは間違いねぇ。さっさと目的を果たしちまうか。



 雪に足跡をつけながら死者の都を進む。

 死者の都の中は神秘的であった。雪や氷でできた草や木が生えておりこれを売っただけでも十分儲かりそうだ。今は無駄なものは持てないが死者の都を出ていく時に草くらい貰っていくのもありだ。もしかすると物好きが高値で買ってくれるかもしれん。


 そんなことを考えていると街の中心の城が見えた。城の近くにはここからでも確認できるほど大きい木が見える。あれが月の木か?

 だがそこで違和感に気づいた。月の木の近くに人影があったのだ。来ている服も髪も白く、そのまま雪の中に溶けそうにさえ見える。周りがすべて雪で覆われていることもあってそこに居る全く気付かなかった。後ろ姿しか見えないが不思議と女であることがわかるような、そんな不思議な雰囲気がある。しかし、あいつは何者だ?…まあ、こんな場所に居る時点で味方ではないだろが。


「おい、てめえはなんだ?」


 本来は、こんな場所に一人でいる女など警戒するべきだ。相手が女だから油断していたのかもしれないし、不思議な雰囲気を持つ女に声をかけたかったのかもしれない。とにかく、俺は声をかけてしまった。



  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



「おい、てめえはなんだ?」


 男がそう声をかけてきたことが心底嫌になる。

 まさかレクサス達が侵入者の相手をしている時に人がやってくるとは。この人間たちは雑魚だと思って無視していたのだが、話しかけてくるとは考えもしなかった。一応話しかけてきてはいるが完全に戦うつもりのようだし…。なぜ今侵入者が集中しているのか。実に運が悪い。


「今だけここの管理を任されているものです。ちょうど今は忙しくあなたたちの相手をしている暇はありません。すぐに帰るなら見逃しますが?」


 レクサスに言われていたように言葉を伝える。彼は弱い人が来たらなるべく見逃せ、と言った。おそらく明確な敗者という存在を増やすことによってここを攻めるものの心を間接的に折るつもりなのだろう。散らばっていた武具の件もそうだが彼はこういった形で力を誇示するのを好むのだろうか?


「あ?逃げる?誰がだよ?」


「あなたたちが、に決まっているでしょう」


「へぇ、言うじゃねぇか。なら俺も言ってやるよ。俺に従うなら命だけは助けてやるぜ?」


 またこの手の相手か。レクサスは例外だったがこういったことを言う相手は珍しくない。


「そうですか。少し面倒ですが仕方ありませんか」


「やるつもりか?」


「ええ、邪魔者を排除するだけですので」


 死者の都と融合した【場】の力を試すいい機会だと考えることにしよう。試したい術もある。


「邪魔者を排除、か。おもしれえ、やってみろやぁ!」


 そう言うと男はすぐに腰にある剣を抜き放つ。だがこの程度の力ならば接近を警戒する必要もない。相手がなにをしてくるのかなど確認することもせず無造作に手を払う。手の動きに合わせるように地面に降り積もった雪が無数の鋭い槍となり地面から生え、数人を串刺しにする。串刺しにはしているが傷口が一瞬で凍り血が地面に垂れることはない。そのまま傷口から氷が広がり一瞬で数人の氷像が出来上がる。


「ひぃ!なんだ今の!」


 私と話していた男以外が怯む。だが私と話していた男は攻撃をかわしたようだ。男は回避し笑みを浮かべて何かの印を空中に描く。


「は!でかい口叩いた割に大したことねぇじゃねえか!こりゃ俺の代わりに死ぬのはてめえだな!」


 印を描くとその印から魔力の鞭のようなものが大量に現れる。魔力の鞭は炎の力を帯びているらしく地面の雪が溶けている。それはまるで、鞭が自らの意志を持ち周りに生えた氷の槍を壊そうとしているように見えた。


「そんなものがなんだというのです?」


 そもそも氷だから炎で解かせる、などという考えは甘いと言うしかない。術一つの完成度もそれに含まれた魔力も桁違いだ。私の術はその程度ではどうにもできない。

 すぐに次の攻撃を仕掛ける。今から行う攻撃は手を払うことさえしなくてもいい。私の攻撃はよほど大掛かりなものでなければ一度発動してしまえばその発動した術は見えなくとも展開されたままになっている。それは言わば抜き身の剣を手に持っていることと変わらないのだ。


 串刺しの氷像が中身と共に砕けあたりに散らばる。しかし砕けた氷像は、空中で再生するように固まっていき小さな氷の槍となって降り注ぐ。当然のように空中に書かれた印も魔力の鞭も人もすべてを穿っていく。男も例外ではなく降り注いだ氷の槍に串刺しにされる。

 実にあっけない。多少はできるのだろうかと思ったが予想以上に弱かった。


「てめえみてぇなやつは絶対そう来ると思ったぜ」


 男の声が聞こえたのはすぐ横であった。


「力を誇示したがるやつは大体こうだからな。視界が悪くなるってことの意味を全く理解してねぇ」


「だからなんだというのですか?」


 私は男を視界に納めていないが、男は私を視界に納めているだろう。男が剣を抜いていたことも覚えている。普通なら詰みの状況だ。


「詰んでるってのに強気じゃねぇか。まあ、すぐに死ぬやつに説教なんて意味ねぇか」


 その言葉を聞いてすぐに声の聞こえたほうに振り向こうとしたが、視界の隅で男が剣を振り下ろしていたのが見えた。


「そうですか。では、次は本気で相手をすることにしましょう。もっとももう聞こえていないでしょうが」


 だが、それだけだ。男は剣を振り下ろした姿のまま固まっていた。男を固めた技の正体は簡単でただ凍らせただけである。レクサスの使う防御と攻撃、両方を備えた技を見た時から私も、攻撃的な防御というものを使えないかと考え組んでいた術なのだがなかなかにうまく決まった。完全な格下相手の発動になってしまったため本当の強敵相手に意味があるの分からないというのが心残りだが、十分いい出来だと言えるだろう。


「さて、もう一度だけ言いましょうか。死ぬか逃げるか、どちらを選びますか?」


 殺してしまった方が楽なのは間違いないのだがレクサスの命なので一応の確認をとる。だが、侵入者たちが問いに応える前に新たな侵入者の気配を感じた。しかも目の前に居る馬鹿な侵入者よりも強い。おそらく今レクサスが相手にしている侵入者と同じぐらいであろうか。数はこちらの方が少ないが、私はレクサスより弱い。守りきれるか?


「邪魔だぞ人間」


 目の前の人間の侵入者を無造作に吹き飛ばし現れたのはレクサスが相手にしている侵入者と同じ種族、魔族だった。



ご意見、ご感想、誤字脱字など気軽にご報告ください。

次の更新は次週の日曜日ぐらいになりそうです。

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