~脅威の確認~
言い忘れてましたが人物設定更新してます。
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「ここは…」
気がつけばベッドの上だった。
確か俺は、あの化け物から逃げようとルフ要塞の近くまで来たはずだが…どうにも記憶が曖昧である。なぜここで寝ているのか思い出せない。…とにかく人を探さなければ。ここがどこなのかすら分からない。
そう思いベッドから体を起こそうとし…バランスを崩し、そのまま転げ落ちた。
「は?」
床にぶつかった感覚を体に感じながら俺は、自分がベッドから落ちたという事実に一瞬思考が追いつかなかった。
なんだこれは?体が自分のものではないかのようだ。動かすだけで痛む関節、上がらない腕、まるで意識だけが加速したかのように体を動かすことができない。
その音に反応したのだろう、俺が小さなころから知っている魔術師の爺さんが扉を開けてやってくる。ルフ要塞で落ちあう予定であったが…ここはルフ要塞なのだろうか?
「この馬鹿ものが!!なにをやっておるのじゃ!」
「何やってるってそりゃ…」
ベッドから起き上がろうとしただけで何をそんなに騒いでるんだ?それともこの体の重さは爺さんが騒ぐようななにかが原因なのか?…とにかくまずは話を聞こう。今の状況がまったく分からない。
「ベッドから起き上がろうとしただけだろ?何そんなに騒いでやがるんだよ」
「…よくもまあ減らず口を。おぬし、要塞の近くで倒れておったのじゃぞ?それもひどく衰弱している状態で、じゃ。ついでに言えば怪我こそなかったが長い間目を覚まさないおまけつきでの。…おぬしほどの者があれほどひどい状態になっていたのじゃ、言いたくないではすまんぞ?」
「…俺はどれくらい意識を失ってたんだ?」
「たしか、二日ほどじゃったか。怪我はない状態なのに目を覚まさんから呪いでも受けたのかと思ったぞ」
「…そりゃまた、反応に困る長さだな。…そんなことより聞きたいんだが、ここは、ルフ要塞だよな?」
「あたりまえじゃろう」
「…そりゃぁまた…俺はずいぶん運が良いらしいな。…要塞の主要な人物を集めてくれ。重要な報告がある」
やつにどんな意図があったのかは分からない。だが俺は生き残った。生きてさえいればなんとでもなる。…やつを倒すことができるのだ。
「おぬしが意識を失っていたことにも関係しているのか?」
「当然だ。とにかく早く呼んで来てくれ。…ことは思った以上にやばかったってわけだ」
「…おぬしがそこまで言うか。すぐに人を集めるとしよう」
すぐに病室の一つに主要な人物が集まった。
「これで全員か?」
「ああ、そうだ」
ベッドの上に移動した男…炎帝の言葉に騎士鎧を着込んだ壮年の男が答える。
「重要な話があると聞いた。名高い炎帝がわざわざ呼び出したのだ。当然、我らにとっても重要なことなのだろう?」
「間違いなくな。…まあ、俺は話すのが苦手だから一言になっちまうと思うがな。…前置きはいいか。俺がこんなことになってるのは死者の都に現れた【王】のせいだ」
初めから静かではあったがその一言で空気が凍った。
「王だと?」
「本人から直接聞いたわけじゃないがほぼ間違いなくそうだ。だいたい、あれほどの存在が王じゃないならそっちの方が悪夢だぜ?」
「もしや、おぬしの衰弱は…」
「ああ、王と直接やり合った」
「強かったのか?」
「強い。文字通り隙がなかった。正直、生きてるのが奇跡みたいなもんだ。…やつの拘束に一度捕まっただけでこのざまだ」
「話すのが苦手など言わせんぞ。知ったことをすべて話せ」
「当然だ。そのためにみんなを呼んだんだからな」
「まず、知っている奴もいるかも知れないが言っておく、死者の都の王は討伐者ギルドで食らう者と呼ばれている個体だ。見た目は竜の装飾の施された鎧を着た悪霊で、左手に使い魔の蛇を巻きつけてる。武器は剣。剣術と呼べるような技じゃなかったが単純に動きが速い。加えて魔術でも魔法でもない、見たこともないような業を使う。やつ自身は遠距離からの攻撃手段は持っていない可能性が高いが、それを補っているように使い魔の魔術の熟練度は異常の一言に尽きる。人間の真似をする知識とこちらの言葉を理解する知性を持っている…大まかに言っちまえばこんなもんだ」
「食らうもの、か。まさかやつが関係していたとは。…こんなことならもっと早く討伐隊を編成するべきだったのかもしれんな」
「そのことについても言っておくことがある。一定以上の強さを持ってないやつは、食らうものには関わらない方がいい」
「なに?」
「戦って気づいたが、やつの強さを支えているのは単純で硬さと必殺性だ。硬いから攻撃が通らなず、合い打ちになれば怪我を負うのはこっちだけ。そしてやつの攻撃は少し拘束されただけで俺みたいになっちまう。かすり傷でも負ったもんなら間違いなく命にかかわる致命傷になりえる。…自分で言うのもおかしな話だが、俺でさえ多少怯ませることができただけだ。並みのやつじゃ邪魔なだけになるぞ?」
「ほう…」
先ほどとは別の意味で空気が凍ったのが分かった。だが壮年の男はその言葉の意味をよく理解しているようである。…俺同様、やつらの恐ろしさを理解できているのだろう。周りの連中、特に魔術師たちも頷いてこそいないが表情が硬い。
「名高い炎帝様がずいぶん弱気じゃないか」
そういい進み出たのは金の装飾を身につけた人相の悪い男だった。こいつはたしか、迷宮都市の近くにある古城を根城にしている騎士団崩れの盗賊団もどきの頭だった記憶があるが…。なぜここにこんなやつがいるんだ?
「盗賊もどきの大将さんがなんでここに居るんだ?」
「金だよ。死者の都の悪霊を一体殺すだけで銀貨十枚だ、食いつかない方がおかしいだろ?まあ、そんなことはどうでもいいじゃねぇか。それよりそんなこと言われると困るんだよ。俺たちが何のためにここまで来たのか分からなくなっちまうだろ」
「気づいてんのか?その言い方だと自分たちが弱いって言ってるもんだぜ?」
「俺は強いが団員は並みなんだよ。だいたい、食らうものとかいうのに負けたのはてめえが弱いからじゃないのかよ?負けたやつが吠えてんじゃねぇよ」
「…それを言われる何とも言えんなぁ。まあ、俺はそう思ったってだけだ」
たしかに俺の言い方は俺が弱いんじゃない、敵が強かっただけだと言っているように聞こえる。たしかに強いやつってのは、今まで負けたことがないから一度の敗北で絶対に敵わないと思ってしまうことが多い。俺はそんな連中とは違う、そういうつもりじゃないと言ったところで説得力はないだろう。
「そうかい。なら俺たちは自由にやらせてもらう。それでいいだろ?」
その言葉を聞いてすぐに壮年の男が声をかけた。
「それはかまわない。もともとお前たちは規則に縛られている我々とは違うからな。だが…」
「無駄死にはするな、か?隊長さん、そりゃもう聞き飽きたぜ。それに、俺たちが簡単に死ぬと思うのか?」
捨て台詞を残して馬鹿が部屋を出る。おそらくだが、俺が今は手を出さない方がいいと言ったのをいいことに今のうちに自分たちだけで金を稼いでおこうという考えなのだろう。…普通はそう言う考えのやつから死んでいくわけだがな。言いたくはないが絶対に無駄死にするだろう。
「隊長さん、あれでよかったのか?」
「おまえの話が本当なら、確認のためにもちょうどいい機会だと思ってな。やつらは馬鹿だが腕は立つ。お前の見た敵がどの程度なのか確認するにはちょうどいい。それが確認できたなら死んでも十分役に立つ」
「…だから無駄死にじゃない、てことか?騎士ってのはそんな考えのやつばっかりなのか?…怖いねぇ」
「大を生かすために小を殺す。組織というのはそういうものだ。…それに、命をかけている者がいる中でああいう者がいると言うのは、私としても少し考えさせられる話ではあったからな。早めに消しておかなければ後々大きな犠牲を生む可能性がある。そう言う意味でも今回の件はちょうどよかった」
「なるほどね。…まあ伝えることは伝えたわけだが、他に聞きたいことはあるか?」
「私はないな」
他の連中も特にないようである。まあ、あの馬鹿が行動を起こしてから見極めるつもりなんだろう。見殺しにするようだが対応としては間違っていないだろう。
「ならこっちからも聞きたいことがある。あんたら、どういう方法でやつらをやるつもりだったんだ?」
「封印だ。やつらはとにかく死なない。なら倒す方法を考えるよりは封じてしまった方が早いと思ってな。その方法で戦ったら途中までは優勢だった。だが途中から現れたやつが難敵でな。封印を無効化されたせいで一気に崩されたわけだ。もしかするとあれが食らうものだったのかもしれん。」
封印か。倒すことばかり考えていたせいで思いつきもしなかったな。だが、無効化されたのか。
「そういう方法もあったわけか」
「結果的に失敗したがな。とにかく少し様子を見るぞ。お前の話を信じるなら慎重すぎるというわけでもないだろうからな。…他には何もないか?もしそうなら私はこのあたりで失礼させてもらう。騎士団の皆に今回のことを報告しなければならんのでな」
そう言うと男は部屋から出て行った。それに続くように他の奴らも部屋を出ていく。部屋の中に残ったのは爺さんと聖火…俺の親友だけだった。
「さっきの男、冷たいようにも感じたが騎士団の長なんかは、ああいうやつでないとやっていけないのかもな」
「アレックスだ。次からは名前で呼んでやれ」
「わかったよ」
「それよりガング、食らうものの話、詳しく聞かせてよ」
「俺の話、聞いてなかったのか?正直に言えば負けた戦いのことを何度も言いたくないんだが…」
「話を聞いてなかったわけじゃないけど、別にいいじゃん。ガングの能力のこととか皆の前じゃ言いにくいことも含めての話を聞きたいんだよ」
こいつはいつもそうだ。言葉に出さなくてもこっちの考えてることを簡単に当ててきやがる。まあ、だからこそこうやって気軽に話せるわけだが。
「確かに能力のことは話しにくいが、今回は関係ない。まあ、能力使っても完敗だったって意味なら間違ってないが。それに一度は言ったが、ある程度の強さを持ってないと居ること自体が無意味だ。むしろ、動きを制限されるという意味で邪魔にしかならん。お前の聖火との相性は最悪だぞ?」
やつの攻撃に耐えられるものは、俺知る限りいない。テオの能力は癒しだ。死人を蘇らせる能力でないのなら意味がない。
「へぇ、ガングがそこまで言うほどなんだ。一度見てみたいな」
「俺の話聞いてなかったのか?そんな考えじゃ間違いなく死ぬぞ?」
「だからこそだよ。あの炎帝が完敗したんだろ?見てみたいじゃないか」
「ま、お前がそれでいいなら俺はなんでもいいがな。ただ、もし行くならほぼ確実に先走るだろう馬鹿どもの末路を見てからにしろよ?昔馴染みが無意味に死ぬのは気分がいいもんじゃないからな」
あの何をやっても通用しないと思ってしまう強さは対峙しないと分からないだろうが、見ないよりはましだろう。…アレックスの話ではないが、無意味に死ぬのだけは見たくない。
「心配してくれるの?」
「当然だろ。お前は俺を何だと思ってんだ?」
「珍しいこともあるなって思っただけだよ」
「俺が心配するぐらいやばい相手だってことだ」
これだけやめておけと言っているが、見に行こうとするのをやめないだろう。俺がこいつの言うことを聞かないように、こいつも俺の言うことを聞かないだろう。
「…なら、やめとこうかな。ガングにそこまで心配されたらどうも居心地が悪いよ」
こいつが俺の言うことを聞くなんて珍しいというより初めてのことだ。
「そうしとけ。でも急に素直になるなんて珍しいな」
「たまになんだから、別にいいじゃん」
「…話が終わったならガングは休め。まだ体調は全快していないのじゃろう?」
「ああ。そういやそうだったな」
正直に言えば忘れていた。体のだるさは抜けないが最初に感じた動くことができないような感覚はない。…さすがの聖火と言ったところだろう。だからこそ、このだるさが抜けないことがおかしい。
「まあ、体がだるいだけだし飯食ってりゃほっといても治るだろ」
実際に忘れていたからな。
「そうか。…第二の攻勢は次の物資が届いたら行う予定らしい。お前がどう思っていても我らはそれに参加しなければならないじゃろう。それまでに体調を整えておけ」
「ああ、分かった」
まあ、失敗するだろうがな。攻勢に出る前に少しでも発動を高速化するための練習をしておきたいな。威力の向上なんかは敵がいないと確認する方法がないからな。
「なら私はもういくよ。…技を鍛えるつもりなら私も誘ってよ?」
…よくもまあ、ここまで考えてることを当てれるもんだ。
「分かったからさっさと出てけ。話しすぎて疲れたし腹減ってるからな、さっさと飯食って寝たいんだよ、俺は」
そう言うと二人が出ていく。
一応忠告はしたがこの要塞の連中がどう動くつもりなのかは分からない。食らうものがどう動くつもりなのかも分からない。しかし、俺はようやく見つけたのだ。超えるべき壁と言うものを。
人を傷つけないために必死で能力の制御を覚えた。だが、能力を制御できるようになってからは世界がつまらなかった。
結局人が離れていくことから始まり、今まで必死に狩っていた魔獣を楽に倒せるようになった。俺は、そこまで行きつてようやく刺激のない生活には飽きがあるというもの知ったのだ。安定を目指せば刺激がなくなる。刺激がなくなれば生きることがつまらない。俺はその時ようやく、強さを極めた者が知を求めるのは、ある意味当然ということに気づいた。強さを極めてしまった者たちは先人の知識を知りながら寿命を迎える。自分で言うのもおかしな話だが俺は、まだ若いがその域に到達してしまった。楽しみが本を読むことしかないなど、残りの人生が憂鬱になるほどのつまらなさだ。
だが俺は、運がいいことにその先を見つけた。
届かない壁。強い敵。
その壁の先には何があるのか?それを考えただけでもおもしろい。倒した後のことなど倒してからいくらでも考えられるのだ。だからこそ俺は、やつを倒そう。皆のためではない。何よりも、俺自身のために。
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