氷の壁
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道に迷った男…炎帝であろう存在を中心に爆発が起こった。
凄まじい衝撃によって外套と兜が吹き飛び、舞い上がった砂埃により視界が潰される。
『いきなりですね』
確かにいきなりだったが…こいつが炎帝だとするなら俺は、どうするべきだろうか?
正直に言えば逃げたい。
ただ俺はすでに死者の都を迷宮にし、メディアに頼み【場】を作ることまでやってしまった。
ならばこの男が炎帝であろうとなかろうと、攻撃を仕掛けてきた相手である以上いずれは戦うことになるだろう。
だとすれば一人で俺たちに向かい合う自信と実力がある男を逃すよりは…やってしまったほうがいいのだろう。
そう思うとまだ視界を悪くしている砂埃を払って槍のように細く、しかし力強く渦巻く炎が鎧を直撃した。
砂埃が払われたことでようやく男の姿が確認できた。
「…」
炎帝が何かを言ったようだがよく聞こえない。
呪文でも唱えたのだろうか?
だとするならもう考えている時間などない。
全力で炎帝に近付き剣を振り下ろす。
ただ力任せに振るわれただけであるそれは全力であるがゆえに最高の速さで振るったと言いきることができる。
だが炎帝は体を少し動かしただけでその振り下ろしをかわしてみせた。
あったのは驚愕ではなく納得であった。
こんな攻撃で簡単に死ぬくらいならとっくにどこかで死んでいるだろう。
だからこそ次に起こったことに驚いた。
炎帝の足元を含め、俺の周りの地面が沈んだのだ。
地竜の時にも似たようなことが起こったがあの時よりさらに強力なものになっている。
しかし地面が沈んでいるが俺だけは何ともない。
炎帝はそのことに驚いたのか、それともかわした後にしようと考えていた動きを邪魔されたからか、どちらであるかわからないが急に動きが鈍る。
剣を全力で振り抜いたせいで二太刀目を振るうまでに時間がかかるが今ならやれる。
そう思い剣を振ろうとするが炎帝を中心に再度爆発が起こる。
先ほどよりも近い距離で、それも中途半端に剣を振ろうとしているという状態のせいで体勢を少しだけ崩してしまうが強引に剣を振り抜く。
だがそのような攻撃が当たる訳もなく大きく距離を取られてしまうことになった。
しかし二度目の踏み込みの時に沈んだ地面は一度目より多く、炎帝を追うように沈んでいる。
二度目でさえあの爆発に不意を突かれなければ仕留めることができたかもしれないのだ。
さすがに三度目はかわせないだろう。
相手もそのことを察しているのか両手を突き出し腰を落とすというどう考えても回避には向かない姿勢を取る。
俺も力を溜めるつもりで腰を落として期を窺う。
だが期を窺うという行為が間違いでしかなかったことにすぐに気づかされた。
炎帝から感じる圧迫感のようなものが大きくなっている。
それは、まるでただ大きな焚き火でしかなかったものが家に燃え移ったかのようだった。
よく分からないがまずい。
そう思い動こうとした時に目の前が爆ぜた。
規模や見た目こそ変わっていないが今までと違い完全に足を止められた。
こんなものを連発されては面倒以外の何物でもない。
とにかく接近しなければ何もできない。
そう思い爆発の中から飛び出し全力で炎帝に向かう。
しかしその動きを読んでいるかのように進行方向の地面から巨大な火が壁のように立ち上る。
巨大ではあるがこの炎には何の脅威も感じない。
そのまま炎の中を突っ切り炎帝との距離を詰める。
炎の中をもうすぐ抜けようかという時に爆発音がする。
しかしなんの衝撃も受けていない。
なぜ?
一瞬の思考の後踏み出していたはずの一歩と共に体が沈んだ。
急に地面が消えてしまったかのような錯覚さえ覚えるそれの正体はすぐに理解できた。
地面が抉れていたのだ。
大きな穴があいているわけではない。
膝まで届かない小さな段差。
普段であれば何の問題もないそれは、今の戦いの場では致命的な地形であった。
そしてできた隙を逃すほど炎帝は馬鹿ではない。
体勢を崩している俺を爆発が襲った。
今までのようなただ起こっているだけの爆発ではない。
まるで地面に押さえつけることが目的のような頭上での爆発が連続で起こる。
体勢が崩れているため力が入らず当然のように膝をつかされる。
そのまま爆発は起こり続け立ち上がることができない。
炎帝の手では炎が作られそれがどんどん大きくなっていくのが辛うじて確認できる。
…あの攻撃が直撃したというわけではないが、この状況…まずいのではないだろうか?
(お前は一体何をやっているのだ)
アリエルが呆れたように問いかけてくる。
しかし今の状況は膝をつかされているとしか言いようがない。
(そうではない。やるならさっさとやれと言っているんだ)
できるならそうしたいがこの爆発が邪魔で進めん。
(なら最初からそう言え。今戻っている力でもこれを無効化するくらいなら可能だ)
そう言うとアリエルが一度脈打つ。
そう、脈打ったのだ。
それは例えるなら今まで動いていなかった心臓が動いたかのような、死んでいた生き物の心臓が再び動き出したかのような感覚。
そしてその脈動に合わせるかのように今まで俺の行動を阻害していた爆発が止まった。
(ふむ、今まで抑えていたがそこそこ回復しているな)
抑えていた?
(そのことは後で話す。先にやつをどうにかするぞ。)
まあ、そうだな。
確かにその通りだ。
しかしこんなことができるなら必死に近づこうとしなくてもよかったんじゃないのか?
(この程度ならな。だがまあ…見てみろ)
アリエルがもう一度脈打つ。
それと同時に炎帝が作っていた炎が放たれる。
その炎に遅れる形で水弾が打ち出される。
だが水弾の速度は炎帝の炎より速い。
水弾は炎とぶつかると一瞬で蒸発し水蒸気となって打ち出された勢いを弱めず炎帝を襲った。
(みろ、私はやつを消し飛ばすつもりで水弾を作ったがあの炎を消し去るどころか相殺されてしまった。力が戻ったとは言ったが今の私の力などこの程度のものだ)
これだけのことができるなら十分だと思うがな。
そう思いながら水蒸気の中からの攻撃に備える。
さきほどの攻撃の余波で死んだということはないだろう。
次はどういう手でくるつもりなのだろうか?
しかし水蒸気が晴れた時、炎帝はどこにもいなかった。
逃げられた。
いきなり攻撃を仕掛けてきたくらいだから好戦的な男かと思っていたがそうではなかったらしい。
まあ、いいか。
外套と兜がなくなってしまったが今回の戦闘でアリエルがどの程度のことができるのかようやく知ることができた。
しかしアリエルが言った抑えていたというのはどういうことだろうか?
(そのままの意味で力を抑えていたというだけだ。無駄な力は使いたくないからな)
今回は無駄じゃなかったのか?
(今回は必要だと思ったからな。まあどの程度力が戻っていたのか、実際に力を使って確認したかったということもあったがな)
アリエルなりに俺のことを考えてくれたということだろう。
『二人とも炎帝とかいう男のせいで完全に忘れているようですけど探していた石や岩ですが、結局どうしますか?』
そういえば最初の目的はそうだったな。
しかしあれだけ探してもほとんど見つけることができなかったんだから、もう探さなくともいいんじゃないだろうか?
なにか別のもので代用できないだろうか?
『確かにその考えはいいかもしれません。ですが何を使って代用するつもりですか?』
土か木か、そういうものを大量に積めばいいんじゃないか?
『たしかにそれで壁を作ることは可能かもしれません、ですが強度に問題があると思いますよ』
俺にはそれ以外に案などないわけだが…メディアにでも聞いてみるか?
どの道何も見つけられなかったのだ。
死者の都に戻るしかないだろう。
目的のものが見つけることができなかったことに加えて炎帝との戦闘。
なんだか無駄なことしかやってない気がする。
あったことはアリエルの力の確認ができたこと、外套と兜を失ったことぐらいだろうか。
これではもう人間の街に行くことはできない。
全体で見ると損をしているんじゃないだろうか?
それともアリエルの力を確認できたからよしとするべきなのか…。
そんなことを考えながら死者の都の中に入った。
メディアは月の木の近くにいるだろうと思い月の木に向かう。
月の木の近くに行くとすぐにメディアを見つけることができた。
月の木を調べるとは言っていたがどのように調べるつもりなのか気になっていた。
しかし今見た感じではただ突っ立ているだけである。
あれでどうやって調べているのだろうか?
メディア。
こちらに気づいていないようなので声をかける。
「!…レクサス様でしたか…。気づかず申し訳ありません」
メディアは俺に反応して振り返ったがどうやらかなり驚いているようだ。どういうことだ?
(お前の素顔を見たのが初めてだからではないか?)
なるほど、体が骨なのは以前見ていたが顔を見せるのは初めてだったな。まあ、そんなことより聞きたいことがある。
「私に応えられることであればなんでもお聞きください」
死者の都の壁に開いた穴を塞ぐためのものを見つけることができなくてな。何かいい考えはないか?
「穴を塞ぐ方法ですか…私が思いつくのは氷を使って塞ぐことでしょうか」
氷を使って塞ぐ?
「はい。穴の開いた場所を凍らせて穴を塞ぐのです。私はそれぐらいしか思いつきませんね」
『氷ですか。それならすぐにでも穴を塞ぐことができそうですね。岩がなかったわけですし、その方法がいいんじゃないでしょうか』
その方法なら今すぐに塞ぐことは可能か?
「はい、今すぐでも問題ありません」
そうか。なら頼む。
「分かりました。どこの穴を塞げばいいのでしょうか?」
案内する。ついてきてくれ。
「はい」
(そんなことこの娘に任せておけばいいではないか)
アリエルは仕上がりが気になったりはしないのか?
(あまり気にならんな)
そうか。まあ、俺は気になるから直接確認するぞ。
石巨人と飛竜が暴れたことにより開いた大穴までやってくる。
「ここですか?」
ああ。
「しばらくお待ちください」
そう言って穴の前に立ち目を閉じる。
すると壁の崩れた部分から穴の開いた部分に向かってどんどん凍りついていく。
地面のように薄く凍るのではない。
まるで氷の壁のように分厚く、しかし普通の壁とは異なり繋ぎ目が少しもない。
そのような異常性がありながらそれを感じさせないのは、その異常性を超えるだけの神秘さをこの氷の壁に感じるからであろうか。
「…どうでしょうか?」
見た目は十分だな。
『強度はどの程度でしょうか?』
強度はどうだ?
「この壁は【場】から力を流し、その力で安定させています。ですのでその力を断たない限り壊れることはありません」
ということは強度も十分ということか。
『彼女は本当に有能ですね。私たちがよく分かっていない迷宮、【場】について詳しいだけでなくこういった物を作るのが得意。ある意味では彼女を配下に加えた、ということは迷宮を作るためには必須だったのかもしれませんね』
確かにその通りだ。
ジズドもいろいろな知識を持ってはいるがそれはあくまで人族の知識である。
人族が魔族の知らない知識を持っているように、魔族は人族の知らない知識を持っている。
加えてアリエルは竜族の知識を持っている。
今更だがこれはかなり有利なのではないだろうか?
まあとにかくこれで壁の穴の問題は片付いた。
迷宮化も修理もやってしまった。
これはやることがなくなったのではないだろうか?
だが留守にしている間に死者の都が攻められるということも十分あり得る。
これは、今からなにをやるべきだ?
『やることがないなら迷宮になった死者の都がどういう状態なのか確認しませんか?彼女が【場】を作ってくれたのは分かりました、ですがそれが実際にどういうものなのかは分かっていないままです』
確かにそうだな。よく考えれば通常の石の壁も何らかの方法で強化しなければ石巨人に破壊されるだろう。
『そういうことです。ここを本格的に拠点にするためにはまだまだいろいろな作業が残っていますよ』
めんどうだな。
だがその通りであるため確認をしないというのはありえない。
細かい作業や確認ばかりだが仕方ないだろう。
さて迷宮になった死者の都がどうなっているか確認するとしよう。
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