~討伐戦・初戦~
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死者の都の周辺に住む者たちは皆突如現れて悪霊を消しさる光すら無視して暴れて回った死者の軍勢を危険視していた。
死者の軍勢に滅ぼされた村のように次は自分たちが襲われるのではないか?
必滅のはずの光魔法さえ効かなかった者たちをどうやって倒せというのだ。
さっさとここから離れてしまったほうがいい。
力を持たぬもの、あるいは死者たちを恐れたものがとった行動は簡単だった。
あの恐ろしい悪霊どもからただ逃げる。
しかしそうしなかったものたちがいた。
それは、あの戦いで実質敗北した神殿の関係者であり、実際に戦った騎士団であり、この期に躍進を測る魔術師たちであり、金を目当てに集まった傭兵や討伐者たちだった。
なぜ神の理から外れた死者どもに神の使徒たるわれわれが敗北するのか?
あの戦いで散っていったものたちの死を無駄にしたくない。
神殿の連中や騎士団さえ退け死者の軍勢を倒したとなればどこに行ったとしても困らないほどの金が手に入る。
魔術を研究するための材料や金は国が出し、それが有用かどうかを試すための相手もいる。
魔術というものは作るのに手間や金がかかるが一度作ってしまえば一生遊んで暮らせる、そういうものなのだ。
己の威信のため、誇りのため、野望のため、金のためさまざまな人間たちが集まるのは必然といえた。
ルフ要塞。
突如現れた死者の軍勢に対抗するために大平原に作られた要塞である。
多くの魔術師たちによりわずか二日で作られた壁には死者の軍勢に唯一実感できる効果のあった物理障壁と悪霊よけの結界を張ってある。
急造の壁であったためその内側に強固な壁を築き守りを強化している。
この二重の壁の構築は資金の余裕がない所でも死者の都周辺の場所であればおこなっている。これを作るために宝物庫が空になったというのはよく聞くようになった話だ。そのせいで金持ちが集めていた嗜好品の多くが市場に流れたらしい。
この要塞には多くの騎士や討伐者、魔術師たちが詰めている。
食料は死者の都の偵察を兼ねて森に狩りに行くものと周辺の国の支援によって何とかしている。
周辺の国としてはさっさと死者の軍勢という脅威を排除してほしいというだけなのだが。
しかし対抗策だ、討伐方法だと言ったものはそう簡単に浮かぶものではない。
今知られている有効な対抗策や討伐方法も大量の犠牲や天才と呼ばれる人間により見つけたものばかりなので簡単に浮かばないのも当然と言えば当然なのだが。
さまざまな術や武器が作られては無意味と積み上げられていく。
そんなことが続く中今日も皆が顔を突き合わせて対抗策についてや今までの成果について話し合っていた。
そんな時一人の神官はこう言った。
「やつらはすぐに甦ったが鎮魂歌は効果があった。初心に戻り一度攻撃を当ててばらけている間に封印してしまうというのはどうだろうか?」
なるほどいい案だ。
すると魔術師達の会話が始まる。
「それが通じなかった時のために離れた場所から攻撃を放つ術を作るべきだ」
「それならば最初から動きを封じることのできる術のほうが効率が良くないか?」
「たしか擬似生命の研究をしている奴がいたはずだ。完璧とはいかないが相手がどの程度の力を持つかの様子を見る意味では十分役に立つだろう。いざとなれば盾にもできるしな」
「ならば最初から盾として作った方が強固なものができるのではないか?どの道巨竜を抑えるための何かは必要だろう」
魔術師たちがそんな話を始める中討伐者はこういった。
「だがああいう群れの中には強力な個体がいるもんだ。今いる相手だけで考えてたら簡単に返り討ちなんてことはよくある話だぞ?」
「そういうものを見極めるためのとりあえずの一当てだろう。しかし強力な個体がいることに対する対策は考えてなかったな。何かいい案が無いと以前と同じになってしまうかもしれないということか」
以前逃げることしかできなかった騎士はそういった。
以前のようにならないために無駄な犠牲はなくさないと、そういった思いが感じらる口調だった。
その後もしばらく話が続いたが方針としては、封印が効くかどうかの確認。
擬似生命体が死者の軍勢に対してどの程度対抗できるかどうか。
そしてなによりも重要なのがやつらの認識外から攻撃できる魔術の開発だった。
今回は視界の悪い森での戦いが大部分を占めることになる。
ならば以前のように城壁の上から放つべき場所を確認してから大技を放つということはできない。
それにその方法を取ればやつらにこちらを見られることになるだろう。
ならばどうするか。
この問題をどうにかするために考え出されたのが擬似生命体の体に最初から封印の魔術を込めておき擬似生命体を操っている時に離れた場所から発動させるというものだった。
かなりおおざっぱではあるが今考えられる方法の中では一番効率がいい。
後はどこまで実践で通用するように仕上げることができるかが課題である。
それからしばらく経ち雪が降る時期になったころようやく擬似生命と魔術を仕込んだ体を持つ擬似生命体が形になった。
擬似生命体は魔術を仕込み硬い体を持っている相手の注意を惹ことが目的の石の巨人と、素材の入手のしやすさから作られた木の巨人の二種類を用意した。
魔術を仕込んだ体を持つ擬似生命体の巨人である。
使い魔を通して操作するためおおざっぱな攻撃しかできなくなったため体を大きくすることでその問題を解決しようとしたのだ。
巨人という形にしたのも少しでも操りやすいようにという考えからである。
たとえここで失敗したとしてもすでに十分役に立つものである。
思わぬ強敵がいたとしてもそれとの戦いを見ることができるなら今後に生かせるだろう。
使い魔を通し見た死者の都。
以前はぼろぼろだったはずの城壁が無造作に石を積んでいる程度ではあるが修復されている。
元は城門であっただろう大穴の部分では多くの悪霊が徘徊しておりまるで死者の都を守っているかのようである。
話には聞いていたが明らかに何者かが手を加えている。
早く討伐しなければこいつらがどうなるかわからない。
森の中で木の巨人を作り死者の都に向かわせる。
木さえあれば木の巨人を作るのは容易である。
石巨人と護衛の一体を残して木の巨人を死者の都に向かわせる。
悪霊どもは木の巨人に気づくと我先にといった勢いで死者の都から出くる。
あの忌々しい巨竜の悪霊も死者の都の城壁を飛び越えて現れる。
それと対峙するのは木の巨人さえ上回る現状最強の戦力である石の巨人。
最初に動いたのは歩みの遅い石の巨人の分まで動くと言わんばかりに凄まじい勢いで突撃を繰り出した巨竜の悪霊だった。
その速度のままお互いの巨体同士がぶつかり合う。
以前はこの巨竜にただ蹂躙されるしかなかったが今度はその逆であった。
石の巨人は巨竜の突撃を受けても少しも揺るがない。
お返しとばかりにその巨大な拳を叩きこむ。
大きく振りかぶった形になったため避けられるか防がれると思ったが巨竜の悪霊は頭と右足が少しだけ拳に当たらないように動いただけで避けようともしない。
余裕のつもりだろうか?
誰もがそう思ったがそれはいい意味で裏切られる。
石の拳は巨竜の体に穴をあける。
しかし当然のように巨竜の体は拳を振り抜いたころには破壊した部分は再生している。
腕を振り抜いた形になっている石巨人にお返しとばかりに尻尾を叩きつける。
だがやはり石の巨人は揺るがない。
尻尾をつかみ逃げられないようにし巨竜の背骨をへし折る。
だがやはりすぐさま再生してしまう。
しかしこの巨竜の弱点ともいえる特性を見つけることができた。
攻撃されている時は気づかなかったがこの巨竜は動きが鈍い。
暴れているばかりならば問題なかったのかもしれないがこうして戦いになるとその脆さが表れたようだ。
今はこの再生のせいで倒すことができないが封印するだけならば大して手間はかからないのかもしれない。
そう思い魔術師たちは巨竜を封印するべく石巨人を操るのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
木の巨人の腕を操り近寄ってくる悪霊を薙ぎ払う。
同時に巨人を操っているのとは別のものたちが最適な時に光弾や封印魔法で悪霊を攻撃していく。
だが悪霊たちはこちらの想像以上だった。
以前見た悪霊より一回り以上強い。
木の巨人は石の巨人と違い数をそろえることが容易ということこそが強みの存在だ。
しかしそれは弱いという意味ではない。
木とは思えぬほどの硬さまで硬化された体と巨体を素早く動かす力がある。
間違いなく地竜でさえ屠るここ百年での最高傑作の片割れ、それが木の巨人である。
だがそんなことは関係ないとでもいうかのように悪霊どもに押し返されている。
急いで残りの木の巨人を向かわせるがすでに遅い。
悪霊の群れの中から砲弾のような速度で飛び出した悪霊が腕の一振りで木の巨人を破壊する。
遠目で見ていなければ間違いなく死んだことにすら気付かない速度と威力だ。
あり得ない。
声こそ出ていないが大きく開いた口は間違いなく己の勝利を高らかに宣言している。
何も聞こえていないというのにそのほとばしる力の波動は使い魔を通してさえ感じる、理解してしまう。
化け物。
誰かが言ったというわけではないが皆の心が一つになるほどにあれは違った。
戦いを挑んだ時点で、関わった時点で敗北が決まると本能で悟ってしまうほどの力の化身。
肉体一つであらゆるものを破壊する暴力そのものだ。
あれに比べると巨竜などかわいいものである。
木の巨人を補充し戦場に向かわせたのがまずかったのか。
化け物は近づく木の巨人の気配を感じたかのように森の奥へと歩みを進める。
それに続くように悪霊たちも動き出す。
それはゆっくりとした、しかし何者にも止めることのできない王者の歩みそのものだ。
逃げなければ殺される。
本来はここで倒された分の木の巨人を補充し石の巨人を援護するという作戦だったがそんなことを言っている余裕はない。
使い魔の視界に映る化け物は細い枯れ木を払うかのように木の巨人を薙ぎ払う。
化け物の腕が振るわれるたびに木の巨人が減っていく。
このままでは逃げることさえできない。
そう思った魔術師たちは木の巨人を作るために持って来ていた宝珠の魔力をすべて使い封印術を広範囲に向け打ち込む。
自分たちでもこんなものが何の意味もないことは分かっている。
苦し紛れという言葉通りの単なる悪あがき。
それを化け物は避けるそぶりすら見せずその攻撃を受ける。
立派な剣を持った悪霊とその周りの悪霊は避けたようだがほぼすべての悪霊を無効化できた。
なによりあの化け物の動きが止まった。
封印から逃れた悪霊は立派な剣を持った悪霊以外は想定していた並みの悪霊のようだ。
剣を持った悪霊も強いようだが木の巨人二体を相手にして倒し切れていない。
逃げるなら今しかない。
悪霊たちの相手を木の巨人がしてくれている間に少しでも遠くに逃げなければ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
筆頭君は呆れかえっていた。
鬼族の森で倒した最も強い鬼は当然のように強かった。
爆発のような咆哮こそ使えなくなっているようだがそれ以外はまさしく圧倒的の一言である。
だというのに封印術を避けようとすらしないとは。
生前はそれでもよかったのかもしれないが今は悪霊である。
どれほどの力を持っていたとしても悪霊が自力で封印術や光魔法を耐えることはできない。
主のように攻撃そのものが届いていないといったことでなければそれは覆らない。
だというのに避けるそぶりすら見せないとは。
今の状態があまりに生前と変わらなかったが故の余裕のせいだろう。
しかも目の前の木のでできた巨人も強い。
あの鬼は軽々と屠っていたがほとんど剣が通らないほどに硬い。
ほとんど棒立ちになっているが思い出したように攻撃を仕掛けてくるため動くに大きく動けないという状況である。
そんな時体を破壊され再生を封印されたことにより行き場を失った怨霊たちがあふれていることに気づく。
どうやら石でできた巨人を相手にしているものたちは押されているようだ。
しかしこちらにとってはこの状況では好都合だ。
あふれる怨霊たちを木でできた巨人にけしかける。
怨霊たちは悪霊よけの結界でかなりの数を阻まれてしまったがそれでも少しはとりつけた。
こうなると木の巨人の大本の木そのものが枯れてしまうのでどうしようもない。
これで残り一体。
同じように怨霊を向かわせようとした時、主の力を感じ気を逸らしてしまったのと木の巨人が腕を振るったのは全く同じ瞬間だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
石巨人を作ったものたちは目の前の結果に満足だった。
なすすべなく敗北した以前と違いとりあえずの様子見と思い仕掛けた討伐戦が予想以上に有利に進んだからだ。
現状最大の脅威と考えられている巨竜は石巨人の下に封印することができた。
木の巨人を作り小さな悪霊の抑えに回るという作戦ではあったがこれなら石の巨人だけでいいのではないか?
そんなことを考える余裕ができるほどに石の巨人は巨竜を圧倒してみせたのだ。
そんなことを考えていると森の中から悪霊を吹き飛ばし木の巨人が現れる。
どうやら向こうも決着がついたようだ。
一体しか残ってないということはかなり苦戦したようだが勝てたようだ。
今回は様子見のつもりだったがこのまま決着をつけてしまうか?
だがその思いは次の瞬間に砕けることになる。
死者の都の中から一体の悪霊が現れた。
全身に鎧を着込んでいるため何も分からないが死者の都から生きたものが出てくるわけがない。
しかし今更悪霊が一体増えることがなんだというのか。
最初こそそう思っていたが表れた悪霊が封印術に近付くだけで封印が解除されていく。
その光景に少し呆けてしまうが木の巨人が攻撃を仕掛けた。
向こうも同じ様に呆けてしまったのだろうが立ち直りが早い。
まあ巨竜を封じることができたのだから封印術が効かなくとも押さえつけてしまえばどうにでもなる。
しかし丸太のような腕での攻撃は腕が届く前に枯れ木のようになってしまい意味をなさなかった。
そしてやつの出現とともに自由になった悪霊が動き出す。
そこからはただの蹂躙だった。
悪霊に対抗するために作られたはずの木の巨人をあざ笑うかのように一瞬で木の巨人は斬り伏せられた。
しっかりと封印したはずの巨竜の封印もいつの間にか解かれ巨竜が暴れまわる。
もうこちらに倒されるものがいない。
だからこそ余裕を持ってみることができるがまるで巨人を操っているものが近くに潜んでいることが分かっているとでもいうかのように暴れまわる巨竜の行動は間違いなく知性があるということだ。
遠隔での操作を考えていなければ今頃生きていなかっただろう。
しかしこれはまずいことになった。
様子を見るつもりだったのだがやつらの異常性を再確認してしまった。
ただ今回はっきりとわかったことがある。
やつらには知性があること、封印は有効であるということ、そしてあの封印を無効化した全身鎧の何かの存在。
木の巨人を操作していたものたちが戻ってくるのを待ち新たに対策を考えないとな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
自分が戦えないことは話したはずなのに戦えと言われたことにメディアは驚いた。
とっさに言い訳をしてしまったが特に何も言われなかった。
使い潰すつもりなのかと思ったがそういう意味ではないらしい。
そしてレクサスの戦いに再び驚いた。
自分の時はただやられただけだったためどういう力を持っているのか分からなかったがこうして第三者として彼の戦いを見ると不思議なことばかりだった。
彼が近づくだけで術は形を壊されただの魔力になる。
すべての攻撃と言えるものは彼が触れることもなく魔力に分解されていく。
何が起こっているのか全く分からないというのが正直な感想。
改めて得体のしれない力を振るうレクサスが恐ろしいと思った。
だが今私はこれほど得体のしれない存在の配下なのだ。
この戦いを見る限りレクサスはこういった戦いを任せるため私を配下にしたのだろう。
今回は何とかなったがすぐに力を使う方法を考えないと。
こうして勘違いを加速させたままメディアは己の世界とこの死者の都を繋げるための案を必死に考えることになるのだった。




