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迷宮の王をめざして  作者: 健康な人
一章・鉄の王編
22/72

~それぞれの思惑~

メディアはレクサスの声しか聞こえていません。


修正しました  1/1

 メディアは目の前の光景が信じられなかった。


 実のところ彼女は強くない。

 むしろ普通であれば駆けだしの剣士になすすべなくやられる程度には弱い。

 しかしこの【場】、氷結世界ではそうではない。

 彼女はこの世界にあふれる魔力を自在に使うことができる。

 擬似的な生命の創造という間違いなく一級の術すら使うことが可能だということがその証拠である。


 だというのにこいつは何なのだ?

 なぜ私が無様に地に伏せこいつが悠々と歩いている。


 すぐ近くで毎年のようにやってきていた不死者が大した時間も稼げず敗北する。


 自身の力を過信していた?

 認めよう、確かに私はこの世界で負けるとは思っていなかった。

 自分に酔っていた?

 そうかもしれない、毎年来る己より弱い不死者をなぶって悲劇の物語を演出していたと言われると否定できないかもしれない。


 だが、たとえそうだとしてもこの世界で己に勝ったこいつは異常だ。

 そう思わせる何かがあると確信できる。

 そんなことを考えているうちに逃げようとしている不死者をとらえたあいつは鎧を脱ぐ。


「っ」


 声にならない悲鳴を上げてしまう。

 鎧の下は骨だった。

 つまりこいつは悪霊なのだ。

 こいつは悪霊で己はまだ生きている、これは間違いなく殺される。

 そう思った。


 悪霊は少しもためらわず鎧を不死者に着せる。

 まるで鎧が意志を持っているかのように絡みつくように素早く着せられた。

 鎧を着た不死者は一気に老けて骨と皮だけになり死んだ。

 悪霊は死んだ不死者から鎧を取ると再び鎧を着込む。

 恐ろしい。

 自分もこうして殺されるのだろうか?


「…きさまは…何者だ…一体なにをしたのだ」


 自身のうかつさを呪った。

 すでに体は多少動くようになっている。

 少しでも時間を稼いでわき目も振らずに逃げるべきだったのだ。

 だというのに自分から注意をひくような行動をしてしまった。

 悪霊がこちらを向く。

 悪霊は兜をつけているが目があった気がした。


「ひっ」


 思わず声が漏れる。

 恐怖という本能に従い体が勝手に後ろに進んでいる。

 悪霊はこちらを見たまま動きを止めている。

 抵抗できない獲物をいたぶっているつもりだろうか?

 ならばこのまま必死に逃げようとするふりを続けると少しでも時間が稼げるかもしれない。

 そして稼いだ時間で生き残ることができるかもしれない。

 そう思い最後まで生きるための抵抗を続ける。


 しかし唐突にこの悪霊から配下になれと、契約を結べと、そういった思いが伝わってくる。


「え?」


 演技することも忘れ純粋な疑問が口から出る。

 この悪霊の配下?なぜ悪霊が生きているものを殺さず配下にしたがるのか?というよりも契約はそこそこに高度な術だ。

 それを敗北しているとはいえいまだこの世界という【場】を握っている私に届かせるなんて…どれほどの技術なのだろうか。

 しかしこれは私が生き残れる最後の機会ではないだろうか?

 話すことができないためどういった意図でこんなことをしているのかわからないが断れば間違いなく死ぬだろう。

 しかし悪霊に屈してもいいものなのだろうか?

 契約した瞬間に私も悪霊になっているなんてことも十分考えられる。

 例えそうならなくとも何をやれと言われるかまったくわからない。

 だが断ってもどうせ殺される。

 しかし…


 時間の無駄だとわかっているが同じことを何度も考えてしまう。

 なんとなくだが悪霊からさっさとしろと無言の圧力をかけられている気がする。


 従おう。

 従順な姿勢を示せばおそらく大丈夫だ。


「私の名前はメディアです」


 まずは立ち上がって名を告げ頭を下げる。

 おそらくこれでいいはずだ。


 名を告げたことにより契約が完了する。

 己が悪霊にはなっていないことに安心する。


<…長くかかったがこれで…ここでやることは終わったのか。>


 この悪霊には意志があるということにまず驚いた。

 そして聞き取りにくいがこの悪霊は最初からこの世界を己のものにしようと思っていたかのような言に再び驚いた。

 落ち着け。

 私はもうこの悪霊の配下だ。

 反応を間違えるな。


「最初からここを攻略するつもりだったのですか。レクサス様も人が悪いですね」


 なるべく自然になるよう苦笑を浮かべ反応を返す。

 これぐらいの反応ならば気を悪くしないだろうと思ってのことだ。


<…せっかく配下にした…メディアにはこの世界を案内してもら…か>


 やはりこれぐらいなら問題なかったようだ。

 運よく拾った命なのだから変なことで失いたくはない。

 レクサスはかなり強いのだから近くにいればよほどの相手と戦わない限り死ぬようなことにはならないだろう。

 そばに置いてもらうために少しでも信頼を得ておかないと。


「お任せください。私自慢の氷結世界、きっと気に入ってもらえると思います」


 最初からこの氷結世界を取るつもりだったならこの世界を細かく説明した方がいいだろう。

 私はここから出ると弱くなってしまうからこの世界にこもっていたがレクサスの近くにいればもっと広い世界を見ることもできるかもしれない。

 感じた恐怖が薄れたことでそんなおかしなことを考えながら私は氷結世界の説明を始めるのだった。




  ◇   ◇   ◇




 商人、ロウはようやくツキが回ってきたと思った。

 長くこの店に勤めているが上客はみな紹介状を持ってくるものだから話す機会などほとんどない。

 これでは自分の客にはできない。

 だが今回の客は違った。

 珍しいものだったりおもしろいものだったら馬鹿みたいに金を払うやつが現れたのだ。


 地竜を切った剣、石化能力を持つ大蛇の目、攻撃を重視した腕鎧といった仕入れたはいいが誰も買いとらなかったものを進んで買いとってくれた。

 金払いがよかったので少し無理を言って持ち手が死ぬなんて言われている剣を仕入れてもらった。

 売れればそれでいい、売れなくとも次の仕入れの時に売ればいいのだから大した損はない。

 そう思っていたがその客はしばらく剣を眺めたると剣を買った。


 やはりついている。


 そう思っているとこの客は大量の金貨を渡してきた。

 訳が分からず理由を聞くとおもしろいものを見つけそうだかららしい。

 金を持ち逃げされるとも思っていないらしい。

 この金を持って逃げてもいいがこの客はこの金額をすぐに出した。

 ということはここで持ち逃げするよりこのまま付き合った方が実入りはいいだろう。



 次の仕入れで扱えた商品は悪魔の鏡、魔術書の写本、月の木の三つだった。

 すべて珍しいが所詮は何代も前の好事家どもが買ったものや金に困った魔術師が売りに出したものだ。

 売り手は価値など分かっていないし売れればいいと無言で言っているものばかりだった。

 まあこちらも本来の価値なんてわからないが珍しいものではあるからあいつに売りつけてしまえばいい。


 こちらとしても役に立たないものをつかまされているのだと言えば金貨百枚ほどですべて買い取ることができた。


 今思うとこれでも高いのだがあの時は大量に金をもらっていたので金銭感覚が狂っていたらしい。

 商人失格だ。


 あの客はすべての品を受け取ると金貨袋を渡してきた。

 中を確認すると本当に最初に渡されたのと同じくらいの金貨が入っている。

 これで金貨三百枚は儲けた。


 内心笑いが止まらない。

 だというのにあの客はさらに大量の金を渡してきた。

 金額を確認すると小さい町の蓄えくらいはあるのではないかという量だった。


 どうやってこれを懐に入れようかと考え込んでいるといつの間にか独り言をつぶやいていた。

 いかんいかん。


 あの客はしばらく来ないと言っていた。

 なら時間はあるんだからこの客が驚くほどの珍しいものを手に入れてしまえば満足して金のことは何も言わないだろう。



 あの客が店から出るのと机に座り店の中をぼんやりと見渡しながら珍しいものについて考えてみる。


 今知る限りで最も珍しいのはなんであろうか?

 武具は高すぎてだめだ。そもそも命にかかわるものなので手放そうとするやつが少ない。

 装飾品も趣味、嗜好が大きく関係するからだめ。

 今回の反応を見る限り魔術系統のものもだめだろう。


 いいものが思い浮かばない。

 いっそ最初に考えていたように強力な装備を持ってる討伐者を指名して無茶な依頼を出して死んでもらい、そのあと関係者を言いくるめてやつらの装備をこちらで買い取るか?

 もし依頼を成功させたらその成功品を渡せばいいだろう。

 いろいろギルドの連中がうるさいかもしれんが適当に金を積めばなんとかできるだろうしな。


 ふむ。

 意外にこの案がいいかもしれんな。

 時間はあるんだからとりあえず試してみるか。


 しかしあの客が驚くものが思い浮かばないせいで何を討伐しろと言えばいいのだ。

 珍しいものを捕まえてこいというのもありかもしれん。


「おいロウ」


「ん?」


「無視するなよ。せっかくおもしろい話を聞かせてやろうと思ったのに」


「すまんな、すこし考え事をしてた。でその話ってのはなんだ?」


 こいつはいつもどうでもいいような話を持ってきてくれる馬鹿だ。

 まあ本当にたまにだが役に立つ話をするが…ばかばかしい話ならこいつに聞いてみるのもありだな。


「まあこれをみてくれよ」


 そう言って机の上に置かれたものはどう見ても普通の水晶にしか見えない。

 魔力は感じないし加工されているわけでもない。


「水晶だな。これがなんだ?」


「ふふふ、お前でもやっぱり普通の水晶に見えるか。いいか驚けよ?なんとこいつは…心臓なんだぜ!?」


 …何を言っているんだこいつは。


「詳しく聞こうか」


 こういう時は調子に乗らせて話を聞いた方がいい。

 嘘かどうかはそれから判断すればいい。


「この前遠くに行った時に村のじいさんから買ったんだ、じいさんが若いころに倒した魔物の心臓らしい。全身水晶の巨人だったらしいぜ?」


 つまり無駄な買い物をしたわけか。


「それにしては魔力は無いし、ぱっと見たところだが加工もされてない。どう見ても少し大きいだけの水晶だろうが。騙されてるぞお前」


 いつも以上に馬鹿だったな。


「そりゃほんとかよ!?じいさんの話とか聞いてたら、俺も一緒に戦ってるって思えるくらい良くできた話だったんだぞ!?」


「それは話がよくできてただけだろうが」


「これ金貨二枚もしたんだぜ…」


 もしその話が本当なら金貨二枚じゃ売らんだろうが。


「まあよくある話だ。諦めるんだな」


「…ロウ、この世にも珍しい水晶巨人の心臓なんだが、買い取ってくれないか?」


 …水晶巨人の心臓とは、大げさな名前を付けたものだ。しかしその名前は、あの客が欲しがりそうな商品名になったのも間違いない。

 今は魔力が失われてる、とでも言って渡せば満足するかもしれんな。


「おまえと俺の仲だしな。金貨一枚で買い取ってやろう」


「…自分でいい出しといてなんだが、おまえが優しいと気持ち悪いな」


「その水晶だけじゃないぞ?今仕事で珍しいものだとかおもしろいものを探してるんだがそういったもんの情報を教えてくれ。それと合わせて金貨一枚だ」


「おいおい情報量も入れるなら安くないか?」


「どうせ下らん話ばかりだろうが。そんな情報と合わせてただの水晶を金貨一枚で買い取ってやるんだから少しはありがたく思えよ。まあないとは思うがほんとに話通り珍しいもんが見つかれば追加で金は払ってやるよ」


「いいやがったな。そこまで言うならいろいろ教えてやるよ。巨神の足跡の底に眠る巨神殺しの槍の話、雪山に住む美しい女の話、とっくの昔に滅ぼされた国の将軍が生前と変わらない見た目のまま徘徊している話、教会には囚われた天使がいるって話、火山の洞窟に眠る大剣の話、空に浮かぶ大陸の話、何もない海に突然現れる島の話、誰も乗っていないのに動き続ける船の話、文字が迷宮になっている本の話、鳴き声を聞けば次の満月までにそいつを殺さないと死ぬという馬の話、願いをかなえる悪魔の話、他にもいろいろあるが、聞きたい話の希望はあるか?」


 本当に、どこから仕入れてくるのかというほどいろいろ知ってるな。…金にもならない話ばかり。

 まあ、今回ばかりはありがたい。


「そうだな、まずは…」



  ◇   ◇   ◇




 鬼族の敗北。


 自らを最強と自負する鬼族はもちろん鬼族の戦闘力を危険視していた人間や亜人、魔族に衝撃を与えた。

 人間は長年危険だと思い手を出せなかった種族が多く住む場所を攻め落としていることを知り死者の軍勢をより危険視し対抗手段を生み出そうとした。

 魔族はあの鬼族を打ち破るほどのやつらと戦ってみたいと思うものと、そんな連中を野放しにはできぬと主張する者に分かれた。

 亜人は悪霊に備えてはいるが住んでいる場所は死者の都との距離が離れているためほとんど気にしていなかった。

 そして鬼族は…荒れていた。


 鬼族の森に住んでいたのは並みの鬼ばかりではない。

 鬼族では知らぬ者のいない最強の鬼が住んでいたのだ。

 だというのに一夜にして鬼族の森を落としたのだ。

 やつらに見つからぬ場所まで逃げるべきだと主張するもの、死者など皆殺しだというものにまず分かれた。


 魔族のように派閥として分かれるがそこからが凄まじかった。

 逃げの手を打つ鬼族など鬼族にあらずといい殺す。

 皆殺しなどにできるわけがないなぜなら必死に死者から逃げた俺にすら殺されているのだから、そう言って殺す。

 お互いがお互いを殺し、食らい己の我を通す。


 こうして鬼族たちはお互いを殺し続けついに逃げを主張していた者たちは一人もいなくなった。


 ようやく決着かと思われたがこのあとに再び荒れた。

 鬼族だけで決着をつけるべきだというもの、他の種族にも声をかけるべきだというもの、今は鬼族の数を増やしその後一気に決着をつけるべきだというもの。

 だが今回は鬼族の数が少なくなっていたこともありお互いが思い思いに行動することになった。


 王種にしたがった行動ではなく一人一人が考えて行動する。

 これが今後どうなっていくのか、今のところそれを考えるものは一人としていなかった。

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