anearth
ドキン・・・ドキン・・・
いつもより少し早めな鼓動の音がカーテンの閉まった暗い部屋の中に響き渡る。
その中で少女は一枚、また一枚と服を脱ぎ始めた。
上に羽織っていたちょっと大きめの上着をベッドの上に放り投げ、Tシャツの裾を持って上に引き上げてゆく。大学生には見えない華奢な胴体があらわになった。しかしそこから先が引っかかって少しの間もぞもぞともがいている。やっとシャツを脱ぎおわると今度は手が下の方に伸びる。
まずははいていた縞模様のニーハイソックスを右、左と脱ぐ。キュロットスカートのフックを外しセンターのチャックをゆっくり下げると、何もしなくてもキュロットはフサッと足下に落ちた。
最後に三つ編みにしていた髪の毛をほどく。
これで少女は完全に下着だけの姿になった。
ドキン・・ドキン・・
さっきよりもさらに早くおおきくなった鼓動を押さえつつ、少女はベッドへと向かう。
静寂の部屋にベッドのきしむ音が響く。
少女はベッド上でテキパキとノートパソコンを開き、お気に入りボタンを開く。
「file piko」の上から三番目、アナーズオンラインをクリック。
ロード画面の後、すぐに画面いっぱいに星が舞い始めた。
星は雪みたいに降り積もって、下の方に積み重なる。
そして5秒もしないで画面の4分の1が埋まった時だった。
「「「ぱぱーんっ!!!ようこそアナーズオンラインゲームスへ!!!」」」
突然大音量でパソコンから声が響く。
少女はびっくりしてベッドから転がり落ちてしまった。
「あれ?びっくりさせちゃいましたか-?あららー♪ミーは妖精だから多少の悪戯はご愛敬ですよ。」
パソコンの画面には桃色の羽の生えた自称妖精がふわふわと飛び回って、少女がベッドに戻ろうとしている間もしゃべり続けている。
やっと戻ってきた少女は慌てて音量-ボタンを連打する。
「・・・っ。・・・!!…!!!!」
連打のしすぎで音量はゼロ。突然声のでなくなった妖精は口をパクパクさせて何か言っている。
今度は慎重に音量+を2,3回押してゆく。
「いきなり口封じだなんて意地が悪いですよ、もうっ!」
音が戻ると妖精はそういって憤慨した。
「仕切り直しです。えー、こほん。私はこのアナーズのチュートリアル妖精、ミーでございます。」
ミーは綺麗に一回宙返りをし、重力感の無い透明なスカートを持ち上げてぺこりとお辞儀をした。
少女も慌ててお辞儀を仕返す。
「さてと、紹介はこんなものですね。まずはじめにあなたのお名前をお聞きしますです。」
そういうとミーは画面端の方からテキストボックスを持ってきた。
それは重たいのかヨロヨロと一生懸命にはこんでくる。
「はぁ、はぁっ。毎回ここからが骨が折れますね…。お名前をどーぞ。」
ミーはどこから出したのか葉っぱのような形をした眼鏡をかけて。さっき降った星の上に腰掛けた。
『…orihara hu-ko…織原 風子』
少女、風子はテキストボックスの中に文字を打ち始める。
名前、住所、電話番号、メールアドレス、