見下し界隈だけではない。下からも横からもマウンティングは成立する。【関係の力学_マウンティング】
関係の力学「マウンティング」
1.マウンティングは見下ろすだけなのか?
マウンティングとは何か。
一般には、自分の優位性を示し、相手より上に立とうとする行為として扱われる。
しかし実際には、人は必ずしも「上」に立つことでしか関係上の利益を得ないわけではない。
高い位置を固定する。
低い位置を固定する。
相手を引き下ろす。
相手が登るのを妨げる。
他人の力で高い位置まで運ばれ、その位置を自分のものとして維持しようとする。
こうした行為には、自他の位置関係を自分に有利な状態へ固定しようとする共通した構造がある。
山を一つの比喩として、人がどのように高さを得るのか、どのように他力を利用するのか、どこからマウンティングが発生するのかを考えた。
2.関係の力学におけるマウンティングとは
マウンティングとは、自他の位置関係を操作・固定し、その位置から得られる利益・権限・責任配分を自分に有利な状態へ保とうとする行為である。
3.上に乗るだけがマウントではない
「マウントを取る」という言葉は、かなり広い意味で使われている。
自慢する。
相手を見下す。
自分の方が詳しいと示す。
学歴、収入、結婚、経験、肩書などを使って優位性を示す。
しかし、それだけでは構造を十分に説明できない。
能力の高い人が能力を示すことは、必ずしもマウントではない。
上司が部下を指導することも、先輩が後輩を教えることも、それだけではマウントではない。
反対に、露骨に自分を上へ置かなくてもマウンティングは成立する。
「自分にはできない」
「自分は弱い立場だ」
「自分は分からない」
と低い位置に居続け、周囲から保護、判断、労力、責任処理を引き出すこともできる。
また、親しい立場から相手が自分より上へ行くのを妨げることもできる。
問題なのは高さそのものではない。
その高さ、低さ、距離をどのように利用しているかである。
4.マウントを考察する
高さ
能力、経験、成果、地位、資産、信用、技術、役割などによって形成される、ある領域における現在位置。
高さは人格そのものの価値とは一致しない。
絶対高度
本人自身が保持している能力や履歴によって成立する高さ。
他者との比較がなくても存在する。
相対高度
他者との比較によって生まれる高低差。
自分が上がっても広がる。
相手が下がっても広がる。
マウンティング(本稿定義)
自他の位置関係を操作・固定することで、その位置から得られる利益、権限、承認、責任配分を自分に有利な状態へ保とうとする行為。
傾斜登坂型
時間、反復、経験、訓練などを積み重ねながら、自分自身の高度を連続的に上げていく方法。
学力や調理、工芸など反復による知識・技術の熟達に顕著。
跳躍登攀型
一回の挑戦、他者との相互作用、抜擢、支援、集団の反発力などによって、大きな高度差を一度に獲得する方法。
昇進、抜擢、採用、選挙など一回の結果によって社会的位置が大きく変化する場面に顕著。
支援
本人の運動を代替するのではなく、牽引、後押し、荷重分散、発射、捕捉などによって、その運動を補助・増幅すること。
収奪
他者の自由度や余力を、自分の位置維持のために継続的に利用し、その負担や責任を十分に引き受けないこと。
5.構造図
山頂
│
得たい利益・成果
│
┌─────────┴────────┐
│ │
傾斜登坂型 跳躍登攀型
│ │
反復・経験・技術 挑戦・競争・協力
時間・熟達・蓄積 発射・反発・捕捉
│ │
▼ ▼
自力高度の形成 大きな高度差獲得
│ │
┌───┴─────┐ ┌─────┴─────┐
│ │ │ │
自力登坂 他力補助 協力 収奪
│ │ │ │
歩く 牽引される 押し上げる 引き落とす
鍛える 後押しされる 発射する 踏み台にする
試す 荷物を持ってもらう 受け止める 他人に背負わせる
さらに位置固定の方向を見ると、
上位固定
「下にいろ」
│
↓
横から固定←── 関係 ←── 横から固定
「先へ行くな」 「同じ位置にいろ」
│
↓
低位固定
「支えてくれ」
マウンティングは、上に立つことだけではない。
上から押す。
下から引く。
横から止める。
いずれも位置関係を固定する。
6.マウンティングの性質
・高低差は二つの方法で作れる
自分と相手との差を広げたい場合、
自分が登る方法と、
相手を下げる方法がある。
自分の高度を上げるには、時間と労力、挑戦と回数が必要になる。
しかし相手の評価を下げるだけなら、より低いコストで高低差を作れる場合がある。
ここから、
相手の成果を過小評価する。
欠点を探す。
能力を否定する。
人格を低く扱う。
という下降操作が生まれる。
・優越感からのマウンティング
「私は上である」
という感覚を得るため、自他の高低差を強調する。
自分の実績を見せる。
評価者の位置を取る。
相手より詳しいことを示す。
富の誇示を行う。
これらには余裕からの自慢と、借り受けの自慢が存在する。
借り受けの自慢は時に誇張と虚構が混じる。
・劣等感の否認からのマウンティング
「私は下ではない」
と確認するために行う。
相手の成功を否定する。
運のおかげだとする。
価値のない分野だと扱う。
比較軸を変更する。
こちらは上へ行きたいというより、自分が低いという認識を避けようとしている。
・仮初の高位を維持するマウンティング
人は自力以上の高度へ運ばれることがある。
推薦、抜擢、支援、幸運、他者による代行。
それ自体は問題ではない。
しかし、自力ではその高度を維持できない場合、位置と能力が乖離する。
標高800にいる。
しかし本人の能力は500までしか支えられない。
不足分300を自分の中から出せない。
すると他人から調達する。
仕事をさせる。
判断してもらう。
責任を押し付ける。
成果を自分へ帰属させる。
批判する者を排除する。
こうして位置を固定するためのマウンティングが生まれる。
・低位固定型
低い位置にも利益はある。
弱い。
分からない。
できない。
傷つきやすい。
という位置にいることで、
保護される。
助けてもらえる。
判断を代行してもらえる。
責任を減らせる。
ならば、上昇するとその利益を失うことになる。
そのため、
支援
↓
自立
ではなく、
支援
↓
低位維持
↓
さらに支援
という循環が成立することがある。
・横からの位置固定
相手と同じ程度の高さにいることで安定していた関係では、相手の上昇が関係そのものを揺らす。
成功しそうになると否定する。
挑戦しようとすると止める。
「昔の方がよかった」と戻そうとする。
ここでは相手を露骨に下へ置く必要はない。
「今までと同じ位置でいてほしい」
という圧によって、上昇を妨げる。
・傾斜登坂型の他力
斜面を登る者は、
前から牽引してもらえる。
後ろから押してもらえる。
荷物を持ってもらえる。
道を教えてもらえる。
本人は自分で歩いている。
周囲は登坂コストを軽くしている。
支援が本人の履歴へ変換されれば、自力が育つ。
・背負われることは跳躍である
一方、他人に背負われたまま高度だけを獲得したなら、地形が斜面でも本人にとっては跳躍である。
登坂過程を飛び越しているからである。
高い位置だけを得ても、その高さに必要な判断力や責任耐性が育っているとは限らない。
・跳躍地平の弾性
跳躍登攀型では、社会そのものが巨大なトランポリンのように働くことがある。
一人が沈む。
一人を押す。
複数人で発射する。
落下した者を受け止める。
単独では届かない高さへ、集団で一人を送ることができる。
垂直壁なら、壁面から伸びるゴム紐のような補助を考えてもよい。
本人が跳ぶ。
補助が伸びる。
反発が跳躍を増幅する。
失敗時には落下を止める。
他力は本人の運動を代替するだけでなく、その運動を増幅し、事故時の損害を減らすことができる。
7.思いこみは境界を見誤る
高さと人格は違う
高い能力を持つ人間が、人間として上位であるとは限らない。
高度は局所的なものである。
上下関係そのものは悪ではない
上司と部下。
師匠と弟子。
熟練者と初心者。
役割や能力による上下は存在する。
問題は、それを人格全体の優劣へ拡張することである。
他力そのものは悪ではない
人間は他者が作った道、知識、制度、技術を利用して生きている。
問題は、他力を自力へ変換する経路を失い、他者を恒久的な動力源として固定することである。
低位そのものも悪ではない
弱い者は支援されてよい。
初心者は教わってよい。
しかし低位から得られる利益を守るため、自立可能性そのものを避け始めれば構造は変わる。
支援と支配は違う
一時的に自由度を制限することは必要な場合がある。
危険時の指揮。
保護。
救助。
問題は、それが解除されず固定されることである。
挑戦と無責任は違う
挑戦には失敗がある。
しかし失敗の損失を無条件に他者へ負わせる権利までは生じない。
8.よくある誤解
「マウンティングする人は自信家である」
必ずしもそうではない。
優越感からも起こるが、劣等感の否認からも起こる。
「弱い立場の人はマウンティングしない」
低い位置を固定し、保護や免責を引き出すことで位置利益を得ることもできる。
「謙る人は謙虚である」
一時的な謙遜と、低位固定は違う。
「分からないので教えてください」から、
「次は自分でやります」へ進むなら健全な支援関係である。
「分からないのでお願いします」を永続させれば構造は変わる。
「上にいる人は偉い」
上にいる者には、その位置に応じた責任があるだけである。
「下にいるならプライドを持つべきではない」
現在高度と尊厳は別である。
「苦労した方が偉い」
苦労は経路コストである。
必要な履歴は重要だが、不必要な苦労を保存する必要はない。
「全部自力でやる方が価値がある」
他力を使うことそのものに問題はない。
重要なのは、それを自分の能力や履歴へ変換できるかである。
9.社会で見られる類例
『不労上司』
高い役職にいる者が、実際には部下の判断や成果によって位置を維持している場合がある。
周囲が有能であるほど、不足が表面化しにくい。
本人はさらに評価される。
責任が増える。
さらに周囲へ依存する。
位置が高くなるほど、本人の自力との差が拡大する場合がある。
『新人教育』
新人ができないことを先輩が補う。
最初は支援である。
しかし先輩が永続的に処理し続ければ、新人の不足が観測されなくなる。
本人の能力が育たないまま評価だけが上がる可能性もある。
『かまってちゃん』
困っている状態によって注意や支援を得る。
状態が改善すると得られる支援が減る。
そのため低位が再生産されることがある。
『フレネミー』
友人として近くにいる。
しかし相手が自分より先へ進もうとすると、否定や心配という形で上昇を止めようとする。
関係を守りたいのではなく、特定の位置関係を自分のために守ろうとする。
『職人』
他人の技術を下げても自分の技術は上がらない。
自分自身の履歴を積む必要がある。
傾斜登坂型の典型になる。
『集団競技』
一人を高く打ち上げるため、複数人が支える。
高く飛んでいる者だけが成果を作っているわけではない。
発射する者。
支える者。
受け止める者。
それぞれが高度獲得を構成している。
『先駆者』
最初の者が壁を登り、支点を残す。
後続者はその支点を使う。
さらに道が整備される。
最初の挑戦者が支払ったリスクは、次の世代の必要コストを下げる。
10.他テーマとの接続
「嫉妬」
他者との差分によって自己が揺れたとき、自分を上げるか、相手を下げるか。
マウンティングは相対差を操作する方法になる。
「価値観攻撃」
価値観攻撃では、どの物差しを使って相手を攻撃するかを見る。
マウンティングでは、その攻撃によって自他の位置関係がどう動くかを見る。
「圧」
上位者の権限も、低位者が持つ保護要求も、関係に作用する圧になる。
重要なのは、圧の用途と責任である。
「贅沢」
余力があることで他人を支援できる。
一方、その余力を恒常的に奪えば自由度の収奪になる。
「悩み」
小さな試行と小さな失敗の反復によって、自分の位置と限界を測る。
「成熟」
高い位置に立つことではなく、その位置に伴う圧・責任・自由度を扱えること。
「インフラ」
先駆者の履歴を、後続者が利用できる道へ変換する。
「老いと継承」
自分が登るだけでなく、道、支点、判断基準を後進へ渡す。
11.関係の観測方法
マウンティングを観察するときは、まず現在の高低だけを見ない。
誰が誰の位置を動かそうとしているのかを見る。
自分の位置を高くしようとしているのか。
相手を下げようとしているのか。
相手の上昇を止めようとしているのか。
自分を低く固定しようとしているのか。
次に、利益と責任を見る。
その位置によって何を得ているのか。
承認か。
労力か。
保護か。
判断権か。
免責か。
その利益に対応する責任を誰が負っているのか。
さらに可動性を見る。
上位者と下位者は入れ替われるか。
教える側が教わる側になれるか。
支援される側が自立できるか。
後進が先行者を越えても関係を維持できるか。
解除条件があり、それが責任と権限の範囲内であるか。
解除条件がないなら、位置固定が起きている可能性がある。
そして自分自身については、
瞬間順位ではなく反復履歴を見る。
誰より高かったかではなく、
以前より何ができるようになったか。
他力をどれだけ自力へ変換できたか。
どこまで自分で責任を持てるようになったか。
を見る。
12.マウンティングを考察して思う
マウンティングとは、単純に上へ立つ行為ではない。
人は高い位置から利益を得ることもできる。
低い位置から利益を得ることもできる。
相手を下げることもできる。
相手の上昇を止めることもできる。
他人に背負われて得た仮初の高度を、周囲から資源を吸い続けることで維持することもできる。
だから見るべきなのは、高いか低いかではない。
その位置がどのように作られたか。
誰の力を使っているのか。
その力を本人の履歴へ変換しているか。
誰が利益を得ているのか。
誰が責任を負っているのか。
そして、その位置は変化できるのか。
健全な関係では、位置は目的以上に固定されない。
教えていた者が教わる。
支えていた者が支えられる。
弱かった者が自立する。
後進が先行者を越える。
必要なら一人を高く発射し、落ちてきたら皆で受け止める。
一時的に誰かの自由度を下げても、役割が終われば返す。
不健全な関係では、位置が固定される。
上にいる者は下を必要とする。
下にいる者は上からの支援を必要とする。
横にいる者は相手の上昇を嫌う。
自分の位置を守るために、他者の自由度が使われ続ける。
高さそのものが問題なのではない。
高さを維持するために、誰をどこへ固定しているのか。
そこにマウンティングの力学が現れるのだと思う。
13.マウンティングと向き合うには
人を見るな。誰を上に置き、誰を下に置き、誰の力でその位置を保っているかの構造を見ろ。
そして自身が何を欲して誰の何と比べているのか。自分自身も見つめて欲しい。
次回予告「嫉妬」
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