テオ受洗
〈鴉啼く求愛既に始まるか 涙次〉
(前回參照。)
【ⅰ】
テオは、罪もない、全くイノセントな事務所の猫逹- でゞこ、文・學・隆、そして* フウ- の生活を眺めてゐた。僕は原罪と云ふものを脊負つてしまつてゐる。何せIQ200だ。普通の人間逹より遙かに髙度な思考を抱へ込んでしまつてゐる。そして、自らのミスに依り(小六は助かつたとしても)、天神博士を死なしめて(前々回參照)しまつた事で、くさくさしてゐた。だうにかしてこの負の狀態から立ち直りたい。それには信仰が一番だと云ふ「誘惑」に駆られた。** エクソシスト・薩田祥夫に拠れば、イエスは「萬民を救ふ」と云ふ。テオは天才猫である自分を、「民」の一人とカウントしてゐた。神に縋る、と云ふ譯では(テオの中の「積もり」では)なかつたが、信仰が立ち直り策として最も平和だと思つた。八つ当たりなんて僕には似合はない。そしてテオは、司祭・薩田の手で受洗した。熱心な佛教徒であるカンテラ兄貴には惡いけど、イエスは畜生道などゝ云ふ輪廻説には決して逃げない。其処から先はテオらしい哲學的思索が續き、私・永田の如き凡夫にはその理解は到底叶はない。兎に角テオは、基督教徒になつた。
* 當該シリーズ第24話參照。
** 前シリーズ第185話參照。
【ⅱ】
何やらイエス・キリストの名を持ち出した事で、莊重な(?)書き出しになつたと見えるが、テオの受洗の為に、カンテラ一味の【魔】を斬ると云ふ仕事が變はつてしまつた譯ではない。この事については後述の機會もあらう。で、一味の當面の敵、それは組織としての一味の内部にゐた。「番軍」の大原虎鉄である。何故大原が? と云ふ方は、失禮ながらこの『カンテラ物語』の讀者としてはモグリである。大原は魔界軍將軍であつた(そしてカンテラに斬られた)、果野睦夢に懸想してゐた。果野の面影を追つて、彼が魔道に墜ちるのは極く自然な成り行きであり、自明な事である。男女の仲・想ひと云ふものは、斯く堅固なsomethingであり、逆らひ難いものなのだ。
【ⅲ】
大原はまだ若かつた(30歳にも滿たない)が、武道家として60戰不敗と云ふ立派な戰績の持ち主、然し、カンテラ・じろさんにだけは敵はないと云ふ恐怖感を持つてゐた。が、一味の中にはまだまだ「伏兵」とも云ふべき者はをり、特にテオはその最右翼(この言葉、余り使ひたくはないが...)と云へた。普段穏和だが怒らせると手強い者の代表格に、猫は当て嵌まる。
※※※※
〈直感が思考に勝る事もありさう云ふ時の為の短歌よ 平手みき〉
【ⅳ】
テオにはテオ・ブレイドと云ふ武器(安保さんが鋳造した、鋼鉄製の- カンテラの差し料、傳・鉄燦に勝るとも劣らぬ切れ味の、猫用の刃物。前肢に括り着けて使用する)もあり、決して舐めて掛かつてはいけない存在なのである。大原はその事を知らなかつた。そして、カンテラ・じろさんコンビは迂回し、一味の他のメンバーから料理してやらうと云ふ、勝手な了見を抱いて、テオを挑發したのである。
【ⅴ】
「テオくん、きみは最近基督教徒となつたさうだが、『汝の隣人を愛せよ』とは、ちと怯懦な教へではないかな?」-テオ、これには流石に怒つた。「貴様、【魔】の分際で分かつたやうな口を利くな!」-テオ、猫と云ふ世界最小の野獸の本性を露はにして、「ふぎやーお」と(テオ・ブレイド装着の上で)大原に跳び掛かつた。結果、大原は上記通りの猫の怖さを思ひ知らねばならなかつた... * テオ、伊逹に右耳を喪つた譯ではなかつた。61戰めにして、大原の不敗神話は脆くも崩れ去り、後はじろさんの捕縛の手を待つばかり。
* 前シリーズ第21話參照。
【ⅵ】
大原、「この者、裏切り者」と大書された紙を顔に貼られ、處屬する「番軍」の中の晒し者となつたのだつた。番頼母、「恥と云ふ概念がお前に殘つてゐるなら、の話だが...」-「腹を切れ。介錯は俺がしてやる」。だが一度敗北の味を知つた彼には、プライドは殘されてゐなかつた。「ど、だうかご慈悲を」-「見苦しいぞ。きえいつ!!」大原、番の軍刀で叩き斬られ、敢へなく絶命した。
【ⅶ】
番はテオに禮を云つた。裏切り者は、抱へた儘でゐるより、斬つてしまつた方が幾らかマシである。番は責任を取り、今月分の事務所のサラリーを返上、それが久し振りの一味への報酬となつた。「信仰が僕に味方したのかなあ」。少しだけ腑に落ちないテオであつた。お仕舞ひ。
※※※※
〈小春空莫とする事吾に許さず〉
十字架の主は
イエスではなく、たゞの肉塊だつた
と云へば
お前棄教したな
さう云ふお聲掛かりがあり
俺は舌を出す
基督は
異端の目にこそ神祕のヴェールの
内側を曝す
暴いてやる
そんな俺の信念は
エホバよりも髙く空にある
俺は唾棄すべき物を抱へ
右往左往するなんてご免だ
詩-
Shit!! だよ
PS: 上の詩は、web画家NEKOさんの、X上の企画、「NEKO&Poet」に賛同して書かれたもの。自作だが、無断引用である。NEKOさんには、特に深く謝す次第です。然し、NEKOさんの繪がないと、何の事やらさつぱり分からないな・笑。




