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沈黙の花伝師

原初の魔法大戦。

炎は空を裂き、雷は大地を焦がし、無数の魔法が世界を引き裂こうとした。


最後に立っていたのは、一人の魔法使い。


彼の者、花を咲かせる。

説かず、示さず。


戦いの後に残ったのは、焦土ではなく、花。


人々は畏敬を込めてその者を呼んだ。


――沈黙の花伝師。


ーーーーーーーーーーーー


まるで太陽の神ロスオス様が微笑んでいるのだろう快晴の日。鼻歌まじりに、僕は愛犬のルーナと散歩していた。


こんな日に家へ閉じこもるなんて、もったいない。


「もう少ししたら家に帰ってごはんしよう!」


ルーナが嬉しそうに尻尾を振る。

どうやら同じ気持ちらしい。いつもの散歩道を通っていると、前のほうから聞き慣れた声が耳を刺激した。


「こいつ動かなくなってきたぞ! 」


木の棒片手に白い何かを囲む二人の男の子が見えた。


「弱いくせに俺らの秘密基地に勝手に入りやがって」


サンとダン――村長の息子とその友人だ。

村で少し問題視されるほど横柄な二人が何かしている。

‥‥‥けれど、本当に村で問題なのは、きっと僕のほうだ。胸の奥が、少しだけ重くなる。

前を歩くルーナを追いかけると白い何かの正体が分かった。ウサギだ。遠目から見ても明らかに弱っている。助けないと!ルーナを追い越し、いつもの散歩道を外れ一心不乱に木の棒を目指す。


「ちょっと‥‥‥ごめんね」


僕にできる最大の意思表示。僕の発言とともに二人の視線が僕に突き刺さる。それは二人の悪意の刃のようだ。


「”無口のルミ”がなんの用だよ! こいつが俺らの秘密基地に勝手に入ってきたんだ。お前には関係ねえ! 」

「ごめん‥‥‥でも、君たちが『秘密基地』って言っていたのは、もともとこの子の巣だ」


僕の声は小さい。それでも言葉の端に意思を込める。

二人の顔が歪み、緊張が走る。悪意の刃はもう僕の喉元まで迫っていた。


「‥‥‥何言ってんだよ、お前! 」


サンが棒を握り直す。まだ止まる気はないみたいだ。

ダンも同意してにやりと笑った。

二人の間にいる白いウサギはただただ僕を見つめる。

胸の奥が熱くなるのを自覚する。軽い深呼吸を行い言葉を紡ぐ。


「‥‥‥だから、離してあげよう」


これ以上ない必死の訴えにも二人は耳を傾けない。二人は依然として口角が下げたままだ。言葉では届かなくても、行動なら……伝わるかもしれない。

木の棒を持った二人を両脇に、僕はうさぎのことを体で覆った。


「なにいい子ぶってんだよ! 弱い奴が弱い奴助けて楽しんでんのか? 」


ダンの怒号は耳から胸の奥まで侵入してきた。決して楽しんでいるわけではない。

ただ‥‥‥僕にはこれくらいのことしかしてあげれない‥‥‥


「もういいダン。強制的に俺がどかしてやる」


自信満々なサンの声がする。何をされるんだろうか、ウサギの苦しそうな声を聴いて考えるのはやめた。


「最近ミクロ先生にクロマが成長してるって言われたんだ。”蛍の灯火”をぶつけてやる! 」


初級火魔法。”蛍の灯火” 小さな灯火を出す程度で、魔法を使える人ならちょっとした明かりなどに老若男女問わず使う初級魔法だ。僕はまだ魔法を使えたことがない‥‥‥十一歳なのに‥‥‥


「まじかサン! ほんとに使えんのかよ? もし失敗して魔力暴走を起こしたら‥‥‥」


サンとダンはまだ五才のはずだ。初級魔法を扱えるようになるのは平均七歳‥‥‥

もし魔法の行使に失敗すれば、体内の魔力回路が暴走し術者の予期しない結果が起きたり、術者自体にも魔法のダメージが通るようになってしまう。成功すれば、魔力は魔法と一体化し、術者には害が及ばない。






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