ハカセ博士の証明~人間を添えて~
「博士、食事の時間です」
研究に没頭している博士を横目に、彼の部屋を整理する。
僕が助手を務める博士は、論理学や心理学のエキスパートだ。
そんな博士は、最近人間のもともとの性について考えているらしい。
「ありがとう、ワトソン君。今日は君も一緒に食べないか?」
「わかりました」
博士は数日に一回、僕に食事への同席を求める。
研究がまとまってきたときに頭を整理するため、誰かに話したいのだそうだ。
「君も知っている通り、私は今人間の本質について研究している。
そこで私が思ったのは、人間の本質は悪なのではないか、ということだ」
「人間の本質が悪……?どういうことですか?」
「たとえば、世界中の人間が欲のままに動いたら世界は終わるだろう?それこそが悪だ」
「は、はぁ……」
「だが、師に教えてもらったり、自分での努力で善へとなれる」
「なるほど」
博士の言っていることは難しかったが、なんとかかみ砕いて理解する。
「だが……!」
「そんなに怒って。どうしたんですか?」
「あのにっくきライバールがこれとは真逆の論文をすでに発表していたのだ……!
しかもその論文から宗教まで作ってやがる……!」
ライバールは博士の好敵手で、よく同じ分野で全く逆の論文を発表してにらみ合っている。
そもそもの価値観が真反対なのだろう。
「いいかワトソン君、私はあのふざけたライバール教を倒してハカセ教で天下を取るぞ!」
――え、なんかスイッチはいっちゃいました?
◇ ◇ ◇
その後、博士は布教に勤しんだ。
「ハカセ教」は信者を着々と増やしていき、ライバール教と互角レベルへと発展した。
だが、二つの宗教は全く逆、ライバール教は「人の根幹は善」と唱えているのだ。
当たり前のように争いになった。
きっかけは、国同士の援助だった。
ある国には塩のとれるところがなく、もう片方の国には金属が少なかった。
片方はライバール教を信じ、善意で。
片方はハカセ教を信じ、利益を求めて。
それが破綻したとき、双方の宗教をも巻き込んだ戦争が始まった。
そのあとはひどかった。皆が生きるのに必死だった。
――戦争はどちらの勝利で終わったのだろうか。
僕にはわからない。
僕と博士は、博士作のシェルターの中で生活し、戦火を逃れた。
10年ぶりの地面。
幾分か硬くなった土におそるおそる足を下ろし、地上に降りた。
あとから博士もきょろきょろと周りを見渡しながら降りた。
――周りは変わり果てていた。
散乱したがれき。かつての都市の栄華は見受けられなかった。
「個人の欲から戦争なんて……」
思わずそう呟いていた。
ふいに、前を歩いていた博士がこちらを振り返った。
――ぞっとする。
博士は恍惚ともいえる微笑みを浮かべていた。
「ワトソン君、私の説が正しかったね」
戦争の残り香を前にした博士は、あまりにも飛んでいきそうだった。
テーマにしたのは、「性善説」と「性悪説」です。
正直言って完全に理解できているわけではありません。
有識者の方、ぜひツッコミを。




