第七十七話「白い息、ざわめく教室」
十一月も半ばを過ぎ、空気は日に日に冷たくなってきた。朝の通学路では吐く息が白くなり、街路樹の葉もすっかり落ちて、足元ではカサカサと落ち葉が音を立てていた。
透が教室に入ると、すでに数人の男子が窓際で盛り上がっていた。
「おいおい、マジで? 真島と三枝、付き合ってんの?」
「らしいぞ。昨日の帰りに、駅前で手ぇ繋いでたってさ」
「うわ、文化祭から狙ってたって噂だったし、タイミング完璧じゃん」
「クリスマス前だしなー、勇気出したんだろ。羨ましいぜ……」
教室の空気が、どこかそわそわしている。あちこちから「へぇー」「マジで?」「意外じゃん」といった声が飛び交い、女子たちも小声でざわついていた。
透は自席に荷物を置いてから、何気なく窓の外に目を向けた。曇ったガラスの向こう、空はすっかり冬の色をしている。遠くの屋根の上には、うっすらと霜のようなものが見えた。
(もう冬か……)
体育祭の賑わいも今は昔。行事が一段落した教室には、季節の変わり目特有の、浮き足立った空気が漂っていた。
「なあ、透。お前、クリスマスどうすんの?」
後ろの席の小野が、肘をついて話しかけてきた。
「特に予定はないな」
「えー、マジ? ユイちゃんとか綾瀬とか仲良いじゃん」
「……そういうのじゃない」
透の言葉に、小野はニヤつきながらも口を閉ざさない。
「でもさー、二人とも最近、ちょっと変わったよな」
「……変わった?」
「なんていうか、ちゃんと“女の子”って感じ。ほら、髪とか服とか、前よりちょっと気にしてる感じするし」
その言葉に、透の胸の奥が少しざわついた。思い返せば、最近の二人は確かにどこか柔らかく、優しい雰囲気をまとっていた気がする。
──いや、気のせいかもしれない。でも。
視線を向けた先、教室のドアが開いてユイが入ってきた。相変わらず表情は穏やかで、でもどこか嬉しそうに誰かと話している。
その笑顔に、透は目を奪われた。
(なんだよ、俺……)
曇った窓の外、いつのまにか小さな雪がちらちらと舞い始めていた。




