第六十四話「何気ない一日を、ふたりで」
週末。
家の前に立つユイの姿は、少しだけいつもと違って見えた。
ポニーテールが揺れるたび、陽の光がその髪を透かす。
制服でもない、部屋着でもない服装というだけで、まるで別人みたいだった。
「待たせた?」
「ううん。今、来たところ」
少しだけ照れたようにユイが笑う。
それはごく自然な、でも妙に意識してしまうやりとりだった。
「じゃあ……行こうか」
「うんっ」
この日は久しぶりに二人で出かける約束をした。
行き先は、近くの書店と文具屋、それから少し足を延ばしてカフェまで——
ただそれだけの小さな外出だった。
だけど。
並んで歩くだけで、少し緊張する。
言葉を交わすたび、どこかぎこちない。
(なんでだろう、いつも通りのはずなのに…なぜか変に緊張する)
透は自分の感情の変化に、うまく言葉を与えられずにいた。
一緒にいるのは当たり前だったユイが、今は少しだけ“女の子”に見えてしまっていた。
「……透、最近よくため息つくね」
「そうか?」
「うん。昨日も、今日も」
ユイはふっと微笑む。
表情は変わらないけれど、その声色に、ほんの少しだけ不安が混じっているように聞こえた。
「別に、深い意味はない。ただ……なんとなく、な」
「なんとなく、か」
ユイは立ち止まり、小さく空を見上げた。
春の風が、彼女の髪をふわりと揺らす。
「じゃあ、今日は“なんとなく”の気持ち、少し軽くなるといいな」
その言葉に、透は少しだけ目を見張った。
なんてことのない一日。
けれどその中で、確かにユイは、誰よりも近くにいた。
(なあ、ユイ。お前は——)
そう問いかけたくなる衝動を、透はまだ胸の奥にしまい込んだまま。
ただその隣を歩き続けた。




