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第四十六話「すれ違いの午前、かすかな午後」

文化祭当日。

朝から校舎全体が熱を帯びていた。


廊下には出し物の呼び込みの声が飛び交い、カラフルな装飾が眩しいくらいに彩っている。

透は自分のクラスである二年B組の「脱出ゲーム」の入り口に立ち、来場者の案内をしていた。



 「こっちにどうぞー。制限時間は十分、ヒントは三回までです!」



活気に満ちた声。けれど心の奥では、ずっと誰かの姿を探していた。


 ──ユイ。


ここ数日、言葉を交わすことはあっても、何かがずれていた。わずかに、でも確実に。



すれ違い。

それを透自身も薄々感じていた。



一方その頃、生徒会本部ではユイが忙しく来場者の案内や諸対応に追われていた。

動作は正確で、声も丁寧。でも、時折ふと立ち止まり、目だけが遠くを探してしまう。


 ──透、今どこにいるの?


思った瞬間、胸がきゅっと縮こまった。


見つけ出して話しかければいい。ただ、それだけのことなのに。




午前中の終盤。

来場者の波がひと段落したころ、ふと透とユイは廊下の角で鉢合わせた。



 「あ……」


 「……ユイ」



たった一秒。

言葉を探そうとした瞬間に、後ろから綾瀬の声が飛んできた。



 「透! 次の班、交代だって!」


 「あ、ああ……行くよ!」



ユイが小さく微笑む。



 「がんばって、透」



その声は確かに届いていたのに、なぜか目を合わせられなかった。




午後。

透は教室内での誘導役として動きながらも、何度も視線がドアの方へと向いていた。


そのたびにユイの姿を思い出す。

階段ですれ違ったときの笑顔、言いかけた言葉。


 (もっと、ちゃんと話せばよかった)


その後悔がふと心に重くのしかかる。



そして夕方、文化祭が一段落した頃。

透は廊下のベンチに腰掛けて、少しだけ目を閉じた。


すると──



 「透」



聞き覚えのある声。

目を開けると、ユイがそっと立っていた。


夕暮れの光に照らされたその姿は、ほんの少し、誰よりも人間らしかった。



 「文化祭、お疲れさま」


 「……ありがとう。ユイも、生徒会で大変だっただろ」


 「うん。でも、楽しかったよ」



それきり会話は止まり、沈黙だけがふたりを包んだ。



けれどその沈黙は、少しだけ優しかった。



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